第492話

 サンダースとベックマンからギラーレ同盟がゲムマの襲撃を受けたという報せを聞いたジョット達はある映像を見ていた。その映像はギラーレ同盟の本国にある兵器工場のコロニーに襲撃してきたゲムマと、コロニーの防衛部隊との戦闘の様子であったのだが、実際の内容は戦闘にすらなっていない一方的な蹂躙であった。


 ゲムマがギラーレ同盟の防衛部隊に向かって何かの攻撃をすると、その攻撃を受けてしまった防衛部隊のミレス・マキナ数機の動きが突然止まり、再び動き出したかと思ったら急に味方に攻撃を開始したのだ。そしてゲムマは味方からの攻撃に戸惑ったギラーレ同盟の隙を突いて更に攻撃を仕掛け、それによって機士の操縦を無視して味方を攻撃するミレス・マキナが増えていき、最後にはギラーレ同盟の防衛部隊のミレス・マキナ全てが機士の支配から離れて敵であるはずのゲムマに従ったのである。


 映像を見終わるとジョットは一緒に映像を見ていた9543番に話しかける。


「なぁ、9543番? このゲムマって……?」


「うん。間違いなく6567番が作ったゲムマだね。6567番の本体である惑星は特殊な金属粒子が採れるから、多分あのゲムマが放った散弾はその金属粒子を固めた物なんだろうね。そしてミレス・マキナの装甲に傷を、僅かな隙間を作って機体内部に金属粒子を侵入させて機体のコントロールを奪う……。自分の消費を抑えてながらも数を増やして、その上敵に重圧を与える効率的な手段だと思うよ。まぁ、ワタシの趣味じゃないけどね。……それでこの後6567番はどうしたんだい?」


「ギラーレ同盟を襲ったゲムマは防衛部隊のミレス・マキナを全て従えると、それ以上は何もせずに防衛部隊のミレス・マキナを連れて何処かへ行ってしまったそうだ」


 ジョットの言葉に返事をした9543番が聞くとベックマンが答え、ベックマンの話を聞いて9543番は少しだけ感心したような表情となる。


「へぇ……? 6567番もこれが人類を試すための行動だってことを忘れていなかったんだね? もっとも1672番が一緒にいたら人類狩りみたいな無茶なことはできないんだろうけどね」


「……というか、さっきから気になっていたんだけと。これ、ギラーレ同盟の本国で起こった戦闘なんだろ? それがどうしてここにあるんだ?」


「ああ、そのことか……」


 大清光帝国から遠く離れたギラーレ同盟の本国で行われた戦闘。その映像データがどうしてギラーレ同盟に宣戦布告をされて戦争状態になっている大清光帝国に流れているのか? 仮に流れてきたとしても、もう少し時間がかかるのではないかとジョットが疑問を抱いていると、その疑問にベックマンが呆れ果てたという顔で答える。


「簡単なことだ。この映像データはギラーレ同盟から送られてきたんだよ。……救援要請と一緒にな」


「……………どういうことだ?」


 ベックマンの言葉にジョットは訳が分からないといった口調で聞き、この場にいる全員がジョットと同じ気持ちであった。ベックマンもそんなジョット達の気持ちが痛いほど分かるようで、疲れた口調で説明をする。


「要するにギラーレ同盟は一回戦っただけであのゲムマ……6567番だったか? それに勝てないと結論をを出したようでな? 今の戦闘映像と一緒に救援要請を自分達と繋がりがある国全てに送ったんだよ。……自分達から戦争をふっかけた大清光帝国にもな」


『『……………』』


 敵の驚異を早急に認識するのは良いことなのだが、だからと言って早々と自分達だけで戦うことを諦めて、知り合いの国どころか宣戦布告をした国にすら助けを求めるギラーレ同盟の、恥も外見もかなぐり捨てた行動にジョット達は何も言えなくなる。


 そしてそれからしばらくした後、ジョット達の元にギラーレ同盟の本国が再び6567番の襲撃を受けたという報せが届くのであった。

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