第466話

「ベックマン、そう言えばお前よぉ。本当にジョット達に一緒について行かなくて良かったのか? 確かにジョットやマリー嬢ちゃん達の新婚旅行婚前旅行の邪魔をするのは野暮の極みかもしれねぇが、せっかくの蒼海珠行きを蹴ったのは勿体なさすぎねぇか? 上手く頼めばワンチャン、お前さんのミレス・マキナのジェネレーターの調律できかもしれねぇだろ? と言うかお前さん、だジェネレーターの調律のことを知っているよな? 知らなかったら俺が一人だけで盛り上がっているみたいでハズいから殺すが?」


 ジョット達がジェネレーターの調律のために蒼海珠へと向かった日から数日後。黒翼・ヘビー・マシーナリーの工場で作業員に混じってジョット達の新しい機体の製造に協力しているベックマンに、ガンマニア教授が相変わらずの早口言葉で話しかけてきた。


「もちろんジェネレーターのことは知っていますよ。でも多分、俺のジェネレーターの調律は無理でしょうし、それだったらここに残っていた方が気が楽ですよ」


 ガンマニア教授の質問にベックマンは苦笑して答えるが、この時の彼はまるで肩の荷が降りたようなリラックスした雰囲気を纏っていた。


 ベックマンがここに残ったのは、黒翼・ヘビー・マシーナリーが暴走しないように見張るようにという大清光帝国の高官からの依頼のためである。しかし今ではジョット達と離れてここに残って良かったと心から思っている。


(ガンマニア教授の言う通り、ジョットはともかく新婚旅行や婚前旅行のつもりのマリー達について行ったら気まずいどころじゃないし、何よりSクラスのトラブルメーカーのジョット達がいないってことは、しばらくは俺に安息の日々が訪れるってことだしな。……とういうか、ジョットや高官とか、俺を一番苦しめるのが身内ってどうなんだ?)


「んん? おいおい? ベックマン、どうした? さっきの疲れてはいるが満足しているってツラから、知りたくもなかった事実に気づいてしまったようなシケたツラになりやがって? 何か嫌なこととか悩みがあったら相談に乗るぜ? まあ、パパンとママンへの仕送りをしないといけないから金は貸せねぇが、実家が宇宙海賊やゲムマに襲われて困っているって話だったら俺様が速攻でブチ殺してやるから遠慮なく言いな」


「えっ!? いえ、別に悩みとかはないですよ? ……それよりガンマニア教授こそ、この数日間ずっと作業をしていますけど、実家に帰ったりはしていないんですか?」


 まさかジョットやマリー達が悩みの種だとは言えるはずもなく、ベックマンは咄嗟に話を逸らそうとする。彼の言う通りガンマニア教授はこの数日間、他の作業員が休日に街へ行っている時も工場で作業をしており、その事を触れられたガンマニア教授は見て分かるくらい狼狽える。


「……………!? じ、じじじ、実家に帰る暇なんかないだろ? 変なことを言ってるんじゃねぇよベックマン、殺すぞ? お、おお、俺達はジョット達の新しい機体を急いで完成させないといけないんだからよ。これは俺達人類の技術者のプライドを賭けた大仕事なんだぜ? 8789番だったか? あんなふざけた格好をした嬢ちゃんに、人類の技術者には本気のゲムマを倒せる兵器なんか絶対にできない、なんてナマ言われて黙って黙っていられるかよ。分かれよ、殺すぞ。だからジョット達の機体を完成させるまで、俺はここを離れるわけには行かねぇんだよ。……じゃ、じゃあ、俺はもう行くぞ」


 ガンマニア教授はそう言うとその場を去って行き、そんなガンマニア教授の背中を見てベックマンが首を傾げる。


「ガンマニア教授……一体どうしたんだろ?」


「彼は今、実家どころか街にも居辛いから仕方がないかもね?」


「うわっ!? Dr.スパイクヘッド?」


 いつもと違うガンマニア教授の様子にベックマンが呟くと、いつの間にか側に来ていたDr.スパイクヘッドが話しかけてきて、ベックマンが驚きの声を上げる。


「脅かさないでくださいよ。……それでガンマニア教授が街に居辛いって言うのは?」


「ああ、実はガンマニア教授にはアンジェリカさんっていう幼馴染がいてね? 最近アンジェリカさんとの結婚を両親と向こうの両親から勧められているんだよ。しかも街の人達もガンマニア教授とアンジェリカさんの仲を応援していてね。街を歩いているだけで、いつ結婚するんだって聞かれているらしいよ? ガンマニア教授、昔から物騒なトラブルを解決していて街の人から慕われているからね」


「そうなんですか……」


 Dr.スパイクヘッドからガンマニア教授が実家に戻ろうとしない理由を聞いてベックマンは、やっぱり人間の一番厄介な敵は身内の人間なんだと深く実感するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る