第463話

「……いや、ちょっと待て?」


 ジェネレーターの調律を受けるメリット、そしてジョットのアレス・マキナが調律を受けていない理由を聞いて納得したセレディスであったが、そこで彼女はあることに気づく。


「どうしたの?」


「ジェネレーターの調律が戦闘力の向上に繋がるのは理解できたが、それをしたらジョットとアレス・ランザはトリックスターを使えなくなるんじゃないか? 確か私が以前聞いた話だと、機士の精神波の波長とジェネレーターの波長が共鳴した時に起こる物理現象を超えた現象がトリックスターだったはず……」


「ええっ!? そうなの、セレディス姉さん?」


 セレディスがマリーに以前聞いたトリックスターを発現できる条件を言うと、それを聞いたマーシャが驚いた顔となる。セレディスが聞いた話が本当であるならば、機士の精神波の波長に合わせるためにジェネレーターの波長を調整する調律を行ったら、せっかくのトリックスターを発現するための条件が崩れてしまうかもしれない。


 ジョットとアレス・ランザが発現できるトリックスター「恐乱劇場デイモス・フォボス」は非常に強力な力である。いくら機体の出力と反応速度が上がるのが魅力的だと言っても、それと何千何万と言った大軍を一機で倒しうるトリックスターとではまるで釣り合いが取れなかった。


「これについてはどうするつもりなんだ?」


 セレディスに聞かれたマリーはトリックスターを発現できるアレス・マキナの機士であるカーリーと顔を見合わせた後……。


「ごめん。それ、一般の人達向けの嘘なの」


 と、あっさりセレディスの聞いた情報が偽情報だと白状した。


「な、何? 嘘、だと?」


「そう、嘘。考えてみてよ? カーリーのアレス・アラーヴォスは調律を受けてジェネレーターの波長が変えられているのにトリックスターを発現できるんだよ? この時点で嘘って分かるじゃない?」


「トリックスターを発現させる本当の条件は、ある特定の波長を持った機士の精神波を一定以上の出力のエネルギーに変換することで、この特定の波長が未だに解明されていなくてジェネレーターの調律はこの波長を探るための実験も兼ねているの」


 驚くセレディスにマリーが説明すると、それに続いてカーリーがトリックスターを発現するための本当の条件を言う。


「でも何でそんな嘘をついているの?」


「嘘をついた理由はアレス・マキナを求めようとする人を増やさないためだね。トリックスターを発現できる条件が、機士とジェネレーターの相性次第じゃなくて本人の精神波次第って分かったら、『もしかして自分もトリックスターを発現して活躍できるんじゃないか?』って考えて、強引な手段でアレス・マキナを手に入れようとする人も出始めるかもしれないの。……私のお兄様みたいな人がね」


『『………』』


 マーシャの質問にカーリーが答えるのだが、話の途中で自分を殺してアレス・アラーヴォスを奪おうとした兄弟のことを思い出して暗い顔となり、それを見たマーシャとセレディスが黙ってしまう。


「ま、まあ、そんなわけで調律をしてもジョット君とアレス・ランザはトリックスターを発現できるから安心して。それどころかトリックスターだって強化されるかもしれないんだよね」


 カーリーの話で暗くなった雰囲気を誤魔化すかのように、わざと明るい声で言ったマリーの言葉にマーシャとセレディスが興味を示す。


「ジョット君のトリックスターが強化?」


「それは一体どういうことだ?」


「ジョット君とアレス・ランザのジェネレーターが完全に波長が合っていないせいか、トリックスターも完全な効力を発揮していなかったみたいなの。ほら、ジョット君のトリックスターって、発現してから少しずつ効果が強くなっていったじゃない? あれって最初は効果が完全に発揮できなかったからなんだよね」


『『あっ……!?』』


 マリーに言われてマーシャとセレディスも、ジョットのトリックスターが発現してから時間をかけて効果がより凶悪になっていたのを思い出すのであった。

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