第462話
「調律? それって何なの?」
マリーの口から出た聞き覚えのない言葉にマーシャが聞くと、それに答えたのはカーリーであった。
「リューホウ王国のマーシャちゃんとセレディスさんは知らなかったっけ? まあ、大清光帝国でも普通の機士は知らない人が多いんだけどね。調律って言うのはミレス・マキナとアレス・マキナのジェネレーターをその機士の精神波に合うように調整して、精神波をエネルギーに変換する効率を上げる処置のこと」
「ほう? それは興味深いな。その調律をしたらジェネレーターが作り出すエネルギー量はどれくらい上がるんだ?」
カーリーの調律の説明を聞いてセレディスが興味を覚えて質問をする。
「残念だけど調律をしてもそれほどジェネレーターのエネルギー量は上がらないよ。だけどジェネレーターのエネルギーは機体を動かす命令信号でもあるから、調律されたジェネレーターが生み出すエネルギーを使ったら普通のジェネレーターの時と比べて機体の反応速度が結構違うんだよね」
「なるほど。どちらにしろ強くなれるのには変わりないと言うことか」
カーリーの言葉を聞いてセレディスは納得して頷くのだが、カーリーは更に言葉を続ける。
「……でも、ジェネレーターの調律はブラックボックスをいじる作業だから普通の兵器メーカーとかじゃなくて、ジェネレーターを開発して販売している大清光帝国直属の技術局でしかできないの。しかもその技術局に調律の依頼をするのはそれなりのコネと費用が必要だから、普通の機士は調律を知らなかったり依頼できない人が多いってこと。調律を依頼できるとしたら、正規軍の精鋭部隊に所属している機士とか私やジョット君みたいなアレス・マキナの機士くらいかな?」
「そうなんだ。だからマリーはシレイア様に交渉をお願いしたってわけね」
「……それはそうなんだけど、アレス・ランザのジェネレーター、調律されていないんだよね」
『『えっ!?』』
大清光帝国直属の技術局にジェネレーターの調律を依頼するには、大貴族並みの伝手と新型のミレス・マキナ一機分の費用が必要。それに加えてリューホウ王国の人間であるマーシャとセレディスに大清光帝国製のジェネレーターの使用許可を得るよう交渉できるのは皇族であるシレイアしかいないとマーシャが納得していると、マリーが衝撃的な事実を口にしてマーシャ、セレディス、カーリーの三人を驚かせた。
「ちょっと待って、マリーちゃん!? アレス・ランザのジェネレーターが調律されていないって、どういうこと? だってアレス・マキナのジェネレーターは機士に渡される時、その機士に合わせて調律がされるはずだよ?」
カーリーが信じられないと言った表情でマリーに質問をする。
アレス・マキナは大清光帝国の軍事力の象徴であり、万が一にそれが敗北すれば大清光帝国と他国とのパワーバランスに変化が生じる可能性だってある。そのために大清光帝国はアレス・マキナを機士に渡す際、完全な力を発揮できるよう調律を行うのが当然であった。
だがマリーはカーリーに対して首を横に振ってみせた。
「アレス・ランザのジェネレーターには調律がされていなかったわ。これは私達、黒翼・ヘビー・マシーナリーが何度も検査したし、ジェネレーターの調律には機士の精神波を詳しく調べる必要があるけどジョット君はそんな事をした覚えがないって言ってたから間違いないわ」
「でも何でアレス・ランザには調律がされていなかったの?」
「……多分する必要がないと思っていたんでしょうね」
マーシャの質問にマリーは不機嫌そうな表情となって答える。
「元々、大清光帝国がジョット君にアレス・ランザを与えたのは他国、この場合は主にリューホウ王国への印象を下げないのが理由だったの」
ジョットがアレス・ランザを手に入れて貴族となった理由、それは大清光帝国とリューホウ王国共同の式典を襲ったゲムマをジョットがたった一人で撃退したからだ。その時の彼はボロボロのミレス・マキナを使っており、そのままだと大清光帝国は二カ国の恩人にろくな謝礼を与えない国だと他国に思われてしまうため、大清光帝国はジョットにアレス・ランザを与えたのである。
「それでその時の大清光帝国は特にジョット君に期待をしていなかったの。もしアレス・ランザが負けたとしても、負けたのはジョット君が元々庶民で弱かったからだって言い訳をするつもりだったんでしょうね。……ついで言えばアレス・ランザの製造を私達、黒翼・ヘビー・マシーナリーに注文したのも同じ理由だと思うよ。私達の外から見た評価ってあんまり高くないから、そこが作った機体だから性能が悪かったとか言って負けた時の言い訳の一つにするつもりだったんでしょ。……全くふざけるじゃないわよ。私達を何だと思っているの?」
マリーはここにはいない大清光帝国の上層部に向けて憎々しげに言うと、言いたいことを言ってスッキリしたのか肩をすくめてマーシャとセレディスとカーリーに向けて口を開く。
「まぁ……。そのお陰で私はジョット君と知り合えたんだけどね?」
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