第518話

「……そんなテストを色々状況を変えて十回以上したけど、一回もガードロボットを倒されたり重要施設に侵入されたりしていないから、屋敷のセキリュティは大丈夫だよ。本当はもっとセキリュティシステムのテストをしたかったんだけど、途中でテスト要員達の精神的な疲労が限界を超えちゃって中断せざるをえなかったの」


「鬼かお前は?」


 ギラーレ同盟の軍人数十人とリューホウ王国の元特殊部隊の隊員二人を使った屋敷のセキリュティシステムのテストの話をマリーから聞いたジョットは思わず彼女に向かって言うのだが、屋敷のセキリュティシステムのテストを想像すれば地獄の鬼の方がまだ慈悲があるのではないかと内心で思うのであった。


 そしてそう思ったのはジョットだけでなく一緒に着いて来たサンダースとベックマンも同様で、二人は悪の組織の要塞みたいなジョット達の屋敷を見上げて冷や汗を流す。


「おっかねぇ……。俺がテロリストや泥棒だったとしてもこんな屋敷、頼まれても忍びこまねぇぞ?」


「そのテストに強制参加させられたギラーレ同盟の軍人達には同情するな。……で? そのギラーレ同盟の軍人達は今何処にいるんだ?」


「彼ら? 黒翼・ヘビー・マシーナリーの本社に連れ帰ってまた新兵器のテストをさせようと思ったんだけど、建設業者の人達がなんだか精神的外傷トラウマを負っている危険性があるからって言って、大きな精神病院に連れて行っちゃったんだよね。……新兵器のテストはまだたくさんあったのに」


『『………』』


 ベックマンの質問にマリーは不貞腐れたように答え、それを聞いたジョットとサンダースとベックマンは今度こそ、屋敷のセキリュティシステムのテストに参加したギラーレ同盟の軍人達に同情した。


「……まあ、とにかく? それだけテストをしたんだったら、警備は大丈夫みたいだな。それに……」


「ジョット君もやっぱり男なんだね? この屋敷を見て秘密基地みたいだと思ってワクワクしているでしょ?」


「なっ!?」


 話を逸らそうとジョットが屋敷を見上げていると、彼の横顔を見てカーリーが久しぶりに相手の心を読む特技を使ってジョットが考えていることを言い当てる。そしてイタズラっぽく微笑みながら言うカーリーにジョットが内心で驚いていると、自分達が建てた屋敷を気に入ってくれたことにマリーが満面の笑みを浮かべる。


「やっぱり! ジョット君だったらこの屋敷の良さが分かってくれると思っていたよ! 他の皆はセンスが無くてこの屋敷に詰まった浪漫が分からないみたいだけど、ジョット君だけは別だよね!」


「いや、マリーさん? この屋敷に関しては浪漫とかは関係ないような……?」


 マリーの言葉にジーナが思わず反論しようとすると、その途中でセレディスが割り込んできて口を開いた。


「勘違いするなよ、マリー? 私達が何も言わなかったのは、この屋敷が足りないものが多い中途半端な代物だったからだ」


「そうだよ? 私達とジョット君の生活を守る愛の要塞を建てることは納得できるけど、それにしては迎撃用の兵器が少なすぎるし、中のセキリュティシステムも単純すぎるよ?」


「それにガードロボットが八体と言うのも少なすぎますね。特に私達とジョット様の寝室を守るのなら二体だけと言わず、それ以上に欲しいところです」


「まぁ、確かに? 皆の言葉には私も同感かな? 私から見てもこの屋敷には脆いところがあるように見えるし」


「皆さんの言う通りですね。趣味に走って肝心の使い手の気持ちがおろそかになる。……貴女達、黒翼・ヘビー・マシーナリーの悪いところが出てしまいましたね? 私達、正銀工房ならばもっと完璧でジョットさんが気に入ってくれる屋敷を設計してみせますよ?」


「……ふぅん? 言ってくれるじゃない? だったらその完璧な屋敷とやらがどんなものか聞かせてもらおうじゃない?」


 セレディスとマーシャ、シレイアとカーリー、そしてシャルロットに言われて、マリーは口元をひくつかせながら彼女達の意見を聞くと、ジョットの婚約者である女性達はそれぞれ屋敷のセキリュティをより強固なものにするアイディアを言うのだった。


 そしてそれから数ヶ月後。ジョット達の屋敷である人工島は面積が最初の五割増しとなり、更には凶々しく凶悪な防衛設備が大量に増設されることになるのだが、それはまた別の話。

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