第452話

 8789番との戦いから数時間後。ジョット達は魅火鎚に乗って惑星エイロンにある真道学園に帰る途中であった。


 あの後、8789番はゲムマ・ランザを連れてこの銀河から去っていった。恐らくは自分の本体である惑星の元に帰ったのだろう。


『『………………………』』


 しかし魅火鎚の船内にある待機室にいるジョット達は全員黙ったままで、待機室の中は暗い雰囲気に包まれていた。


「全く……この最近、不愉快な出来事の連続だな」


 しばらくしてセレディスが俯いた状態で誰に言うのではなく小さな声で一人呟く。だが誰も喋ろうとせず無言でいたせいで、彼女の呟きは待機室にいる全員の耳に入った。


「それってワタシと8789番のことかい?」


 9543番が聞くとセレディスが顔を上げて頷く。


「お前達のこと以外で何がある? ……今までの我々人類の戦いが相手にとっては単なる遊びで、しかも手加減されていたなどと屈辱でしかないだろうが?」


 セレディスは小さな頃から今日まで必死に機士としての腕前を磨き、ミレス・マキナを使ってゲムマと戦ってきた。ミレス・マキナという機士が死ににくい操縦方法から、どこか遊び感覚があるのではないかと言われると否定できないが、それでも自分自身も含めた多くの命を守るために、決死の覚悟で戦いに挑んできたつもりであった。


 しかし相手のゲムマにとってはそれらの戦いは単なる遊びでしかなく、更に言えばゲムマは精神波を遮断してミレス・マキナをいつでも無力化できるのに、あえてそれを使わず対等な条件での戦いを楽しんでいたのだ。挙げ句の果てには精神波を遮断せずとも、現存するミレス・マキナでは手も足も出ない強化型のゲムマを作り出すことも可能で、実際セレディスとマーシャは8789番のゲムマ・ランザを相手に何も出来ずに機体を破壊されている。


 力の差をこれ以上なく見せつけられたセレディスは屈辱を感じていたが、それ以上に無力感に苛まれており、それは他の者達も同様であった。


 強化型のゲムマはジョットやカーリーのトリックスターなら対抗できるが、トリックスターが無ければアレス・マキナでも勝つことはできず、ゲムマの本体は別の銀河にある意思を持つ惑星なので手の出しようがない。


 どうしようもないという気持ちがジョット達の心の中で広がり始めたその時、待機室にいる一人の人物が声を上げた。


「……ふっ。ふっふふ……!」


「マリー? 一体どうし「ふっざけるんじゃないわよっ!?」……た?」


 声を上げたのはマリーで、ジョットが彼女の横顔を見て話しかけるとマリーは突然天井に向かって大声で叫び、これにはジョットだけでなくセレディスや他の待機室にいる全員が驚いた。


「あンのスク水白衣のロリッ娘がぁ……! なぁにが『トリックスターさえ無ければゲムマ・ランザは絶対無敵。ミレス・マキナもアレス・マキナも役立たずの鉄クズであ~る』よ! 上等じゃない! そのケンカ買ってやるわよ!」


 どうやら8789番の言葉はマリーの技術者のプライドを刺激したらしく、今まで静かだったのは嵐の前の静けさ、怒りの火山が噴火するまでの準備期間だったようだ。


「ジョット君! 皆! 真道学園に帰ったら全員休学届けを出して私の家に帰るからね! すぐに移動できるように準備をしておいて!」


「マリーの家って、黒翼・ヘビー・マシーナリーにか? 一体何のために?」


「そんなの皆の機体をゲムマ・ランザに負けないくらい強化するために決まっているでしょ! 黒翼・ヘビー・マシーナリー主催の大魔改造祭りの開催よ!」


((うわぁ……!))


 黒翼・ヘビー・マシーナリーに魔改造。


 事情を知っている者なら不安にしかならない単語の組み合わせに、ジョット達は思わず8789番のことを忘れて心を一つにした。


「ちなみに大魔改造祭りの主役はジョット君とアレス・ランザだからね! せっかくの機会だからアレス・ランザの機体を新造するから!」

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