第451話
「…………………………何?」
8789番の予想もしなかった発言に、ジョットは理解が追いつかず十秒くらい沈黙した後に呟いた。
「今なんて言った? 今日のところはこれで終わりにするとか言ったか?」
「そうなのであ〜る。今日のところはこれで終わりにするのであ〜る」
ジョットに言葉に8789番が頷くと、ジョット達の周囲を取り囲んでいた数体のゲムマ・ランザが離れていく。それを見て本当に8789番にこれ以上戦う気がないと理解したジョットは、彼女にどういうつもりなのかと質問する。
「一体何を考えているんだ?」
「何をも何も、勝負はもう着いたも同然であるからな。これ以上はする意味はないと思っただけであ〜る」
「それは貴女の勝ちってこと?」
ジョットと8789番の会話の途中でジーナが横から割り込んできた。
確かに触れた瞬間に振動エネルギーを伝達させて機体を内部から破壊するゲムマ・ランザやワイヤーに囲まれていたあの状況では、8789番に勝つのは難しかっただろう。だからジーナは8789番が勝者の余裕で戦いを止めたのかと言うと、8789番から返ってきた返事は違うものであった。
「何を言っているのであ〜る? あのまま戦っていたらワガハイが負けていたに決まっていたのであ〜る」
「えっ? どういうこと?」
8789番の言葉にジーナが意外そうな声を上げると、8789番は人差し指を立てた右手を振ってまるで生徒に教える教師のように、あのまま戦えば自分が敗北していた理由を説明する。
「ワガハイのゲムマ・ランザとワイヤーの包囲網。これはミレス・マキナの攻撃などものともせず一方的に蹂躙できるのであ〜るが、祭夏・ジョットとそこにいるもう一体のアレス・マキナにはまだ切り札があるのであ〜る。……そう、トリックスターという切り札が。そして先程の祭夏・ジョットは今にもトリックスターを発現しようとしていたので、ワガハイは今日のところは
(チッ。やっぱり気づいていたか)
トリックスターの発現を読まれていたジョットが内心で舌打ちをしていると8789番が説明を続ける。
「祭夏・ジョットのあらゆるエネルギーの方向をランダムにするトリックスターが発現すれば、ゲムマ・ランザの振動エネルギーとそれを抑え込み内蔵するためのエネルギーが暴走して自滅してしまうのであ〜る。そしてもう一体のアレス・マキナのあらゆる攻撃エネルギーを相手に返すトリックスターもまた、ゲムマ・ランザの暴走を引き起こす可能性が十分にあるのであ〜る」
「まさか私のトリックスターのことまで知っているなんてね……。でも、随分とあっさり自分の敗けを認めるじゃない?」
カーリーの言葉に8789番は特に悔しそうな素振りをみせずに答える。
「それは当然であ~る。自分の欠点を素直に受け止められなければ次への進歩はないであるからな。……それに今日の
「………!?」
8789番はそう言うとジョットに向けて笑みを浮かべるのだが、この時ジョットは8789番の笑顔に今まで感じたことのない不気味さを感じた。
「祭夏・ジョット、そしてそれ以外の人類よ。9543番から聞いていると思うが、ワガハイ達は貴様ら人類と
8789番の言葉はジョット……いいや、この場にいる全ての人類に対するあからさまな挑発であった。しかしトリックスターでなければ8789番のゲムマ・ランザに対抗できないのは事実なので、ジョット達はなにも言えずにいた。
8789番は今、幼女の姿をした分身体を操っているが、本体は何億年も生きた意思を持つ惑星である。そのため彼女は熟知していた。
人類だけに限らず生物というのは、相手に敵意はなくとも自分達を遥かに上回る存在に対して恐怖することを。そしてその恐怖こそが人類が兵器を進化をさせてきた原動力であることを。
8789番がジョット達を挑発するのは全て、人類がミレス・マキナやアレス・マキナを初めとする今ある兵器を進化させる、あるいはそれ以上の兵器を生み出させるため。それによって人類とゲムマの
ある意味で人類の進化を願う8789番はどこまでも純粋で、歪で、邪悪な笑みを浮かべてジョット達人類を
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