第481話

「艦長。ミレス・マキナ隊の出撃準備が整いました。いつでも出られるそうです」


「うむ。ご苦労」


 ジョット達が魅火鎚のブリッジで会話をしていた頃。三隻あるギラーレ同盟の宇宙戦艦、その旗艦のブリッジでは艦長と副官が魅火鎚への攻撃の準備を進めていた。


「しかし……本当にあの巨大な戦艦を攻めるのですか?」


 副官がブリッジのモニターに映っている魅火鎚を見ながら艦長に話しかける。魅火鎚は副官が乗っている宇宙戦艦よりも数倍大きく、内部に格納されているミレス・マキナの戦力も自分達の数倍はあるかもしれないと思っての発言であったが、艦長はそれに頷き答える。


「当然だ。向こうはまだミレス・マキナを一機も出していない。先にこちらがミレス・マキナ隊を出せば十分勝てる。……それにあれだけの巨大戦艦なら、中には何か重要な人物や物資を積んでいるだろうさ」


 副官に答えた艦長は悪どい笑みを浮かべる。


 彼らギラーレ同盟の軍人達はマーシャ達が言っていた通り、大清光帝国の領域の先行偵察をしつつ、大清光帝国に所属する宇宙船から物資等を強奪しようと考えていた。そしてこれもマーシャ達の予想通り、今回のギラーレ同盟の軍人達の行動は彼らの独断で、全ては自分達の私腹を肥やしつつ功績を立てるための行動だった。


「全艦、相手の巨大戦艦に砲撃開始。我々が砲撃している間にミレス・マキナ隊を出撃させて一気に攻め落とすぞ」


「はっ! 全艦砲撃開……何っ!?」


 艦長の命令に従い副官が三隻の宇宙戦艦のブリッジクルーに指示を出そうとしたその時、変化が起こった。前方にある巨大戦艦、魅火鎚が突然速度を速めてギラーレ同盟の戦艦に向かって来たのだ。


「な、何だと!? こちらに向かって突っ込んでくる?」


「向こうは一体何を考えている? 戦艦の運用を知らない素人なのか!?」


 ミレス・マキナが戦場の主役となった現在、宇宙戦艦の役割はあくまで部隊の本拠地であり実際に戦闘を行うことはほとんどない。たまに戦うことがあったとしても、それは今回のようなミレス・マキナの出撃や戦闘を援護くらいでしかなく、これはミレス・マキナやそれと戦うゲムマが高速戦闘を得意としていて戦艦の砲撃が当たらないことが関係していた。


 だから宇宙戦艦は格納しているミレス・マキナを出撃させたら、後は後方で待機するのが現代の戦いの常識なのだが、そんな常識を無視した魅火鎚の突撃は宇宙戦艦の艦長や副官だけでなくギラーレ同盟の軍人全てを驚かしたのであった。


「な、何だあの艦は!? 信じられないほど速い!?」


 魅火鎚を作ったのは、クセは強いがその分腕が良い技術者が集まった黒翼・ヘビー・マシーナリー。その技術力の高さはエンジンにも活かされており、巨大戦艦とは思えない速度で移動する魅火鎚は気がつけば目視できる距離までギラーレ同盟の宇宙戦艦に近づいていて、それを見た艦長が驚きの声を上げる。


「な、何をしている!? 撃て! 撃ち落とせ! 砲撃開始! あそこまで近づいてきたら狙わなくても当たる!」


 驚く艦長の隣で副官が自分の乗っている宇宙戦艦だけでなく、他の二隻の宇宙戦艦にも砲撃命令を出す。三隻の宇宙戦艦から放たれたビームの砲撃は副官の言葉通り、ろくに狙いを定めていないにもかかわらず吸い込まれるように魅火鎚の巨体へと飛んでいくのだが……。


「はぁっ!? 避けただとぉっ!」


「そんな、馬鹿な……!」


 魅火鎚は前に進みながらもその巨体を上下左右とゆっくりと動かすと、ギラーレ同盟の宇宙戦艦が放ったビームの砲撃の全てを避けてみせて、艦長と副官は揃って驚きの声を上げた。


「有り得ない……。あんな巨体で砲撃を避けるだなんて……」


 いくら強力で優秀なエンジンを積んでいるとは言っても、船体が大きくなればなるほど動きが鈍くなってしまう。魅火鎚ほどの巨大戦艦でビーム砲撃を避けるには、砲撃の射線だけでなく砲撃発射のタイミングと砲撃開始の何秒後にビームが船体に到達するかを正確に予想して回避運動の準備をしなければならない。


 事情を知らない他者からは魅火鎚が簡単にギラーレ同盟の戦艦のビームを避けているように見えるかもしれないが、見る者が見れば我が目を疑う魅火鎚の神業のような動きに、副官は信じられないといった表示で呟くのであった。






〜後書き〜

 我が子自慢のようで恐縮ですが、ジョットの回避テクニックはあの偉大な天然人類、大天使の操舵手様も認めてくれるくらいだと作者は思っています。

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