第13話 悪魔よりも悪魔 (凛花・ノア・ルナ視点)
【凛花視点】
ノアがデャーラルクを引きつけている間に、ルカの元へと駆けつけると、檻の中のルカは、相変わらず固く瞼を閉ざしたままだった。
私は、ルカの深く傷付いた心を癒してあげたいという想いを込めながら、手に治癒のマナを纏い、檻の中のルカへと手を伸ばした。
しかし──バチッ!という音と共に、指先に電気が走った様な鋭い痛みを感じ、反射的に手を引っ込めてしまった。
『凛花さん!大丈夫なのです!?』
「……うん。でも、簡単には触らせてくれないみたい。」
ヒリヒリと痛む指先をさすりながら、そう言うと、ルカからは少し距離があるけれど、檻に触れない位置から、治癒のマナを送りつけようと、両手を突き出した。
私の手の中から生まれる、温かな光を放つマナが、蛍の様にフワフワと漂い、ルカへと触れていく。
……が、ルカに触れるたびに、光は真っ黒に染まり、消え去ってしまう!
「そんな……!」
ルカの拒絶は、想像以上に強いみたいだ。
その強さに、一瞬、手を引っ込めそうになったが、グッと力を込め、より一層、治癒の力を高めながら、檻の外から治癒の魔法をかけてみることにした。
治癒の力を緩めるつもりは、もちろん無いけど……、背後の離れた場所から、強い打撃音や爆発音が聞こえ、ノアとデャーラルクの戦闘が気になってしまう。
私も加勢したいけど……、弓矢は片手では構えられないし、どうすれば良いんだろう。
『……凛花さん!』
悩んでいると、私の肩に掛けていた弓矢姿のルナが、私に呼びかけてきた。
「ど、どうしたの?ルナ。」
『私、やってみたい事があるのです!でも、そうすると、凛花さんのマナが減るのが、さらに早くなってしまって、凛花さんが大変になるのですが……。』
「……大丈夫!思いっきりやって!」
『はいなのです!』
すると、弓矢がクルッと回り、私の背後へと、ひとりでに矢を引き始めた。
その時に、私の身体から、マナが吸い取られる感覚がし、次の瞬間には、矢尻に火が灯った!
『発射なのです!!』
【ノア視点】
「……チッ!」
何度ブン殴っても、すぐに再生しやがるデャーラルクのニヤけ面に、思わず舌打ちが出ちまう。
デャーラルクは、肉体自体は脆いが、魔力は精霊というだけあって、クソ強い。それに加えて、無限の再生力があるからか、かなり厄介だ。
「フフ……。そろそろ疲れてきたかしら?」
「んな訳ねーよ。こんなの、まだまだ肩慣らしだ。」
「そう強がっていられるのも、今のうちね。」
そう笑いながら、デャーラルクは舞い上がり、上空から雷を叩き落とそうと、マナを込め始めた。
それを見たオレが、身構えたその時、
──ゴオオオオオオオッ!!!
右側から、燃え盛る炎の矢が、一直線に飛んできたかと思ったら……、
──パァンッ!!!
そのまま、デャーラルクの頭に直撃し、なんと、破裂させてしまった……!
『……え?……あ!当たったのです!うまくいったのです!』
……治癒の魔法に集中している凛花は、当然、弓矢を構えていない。
どうやら、ルナが独りでに、弓矢を動かして当てたらしいな。……感心したいところだが……。
首なしのデャーラルクが、落下していきながらも、不自然に凛花達の元へと近づいていくのが見え、急いで足に力を込める。
……そういえば、ラビーに流し込んでもらった風のマナが、まだ体内に残っている気がするな。
【ルナ視点】
何となく、出来る様な気はしてたのですが……、何か出来たのです!私もやれば出来るのです!
……と、喜んでいる場合ではなかったのです。頭が無くなった悪魔さんが、翼に黒い雷を纏わせて、バチバチと嫌な音を立てながら、ヒュ〜ッと、こっちに向かって落っこちて来るのです!
……し、しかも、少しずつ顔が復活してきて、おっかない顔で私をガン見している、お目めと目が合って、心臓が飛び出そうになったのです!!
『ぴぎゃああああああああッ!!!』
「うおおおおおおおおっ!!!」
おっかない顔をした悪魔さんと、ごっつんこしそうになったその時、ノアさんが、物凄いスピードで、横から悪魔さんを蹴り飛ばしてくれたのです!
ノアさんの足をよく見てみると、夕焼け色の破浄魂の他に、風のマナを纏っていて、夕焼け色の鮮やかな風の色になっていて、綺麗なのです!
「ルナ、大丈夫か?」
『ノアさん!ありがとうなのですーー!!』
ノアさんにお礼を言いながら、凛花さんの邪魔をしてしまったかと、チラッと見てみたのですが、凛花さんは、ルカさんに治癒の魔法をかけるのに集中していて、私達の様子に気がついていないのです。
ホッとしたのも、ほんのちょっとの間。
「チッ!よくも……!!」
遠くまで蹴り飛ばされていたはずの悪魔さんが、物凄いスピードで、両手に大きな黒い雷の玉を抱えながら、私達の元へと飛んできているのです!
私が叫ぶよりも早く、ノアさんが悪魔さんへとジャンプしながら、右手に大きな、夕焼け色の破浄魂を纏ったのです。
そして、ニッと笑いながら、悪魔さんの雷の玉に、思いっきりパンチしたのです!
大きな爆発の音が響いて、悪魔さんとノアさんは、反対方向に吹っ飛んでいったのです。
ノアさんのお手ては、すごい火傷をしていて、雷がバチバチしていて、痺れて痛そうなのに、ノアさんは、どこか楽しそうに、ニッと笑っているのです。
……その笑顔が、悪魔さんよりも悪魔の様な笑い方をしていて、少し怖いのですが、カッコいいなとも思ったのです。
『……私も負けていられないのです。』
使徒の妖精のリーダーとして。そして、凛花さんの右腕として。
『うおおおおおおおお!なのです!!』
私は、雄叫びをあげると、氷の矢を作って、放ったのです。
一本の氷の矢は、ピカッと光った後、あっという間に、お手てでは数え切れないぐらいに、いっぱいに増えていって、悪魔さんに向かって一斉に飛んで行ったのです。
沢山の矢は、悪魔さんに当たりそうで当たらず、体を通り過ぎていくのです。
「……あら。全然当たってないじゃない。さっきのはマグレだったのかしら?」
そう笑った悪魔さんに対して、私は心の中で、さっきのノアさんみたいに、悪魔みたいな笑顔で、してやったりと笑ったのです。
──悪魔さん、マグレだと思ったら、大間違いなのです!
──ほら、氷の矢が通った軌道が、パキパキと音を立てながら、悪魔さんを取り囲んでいるのですよ?
「───ッ!?」
悪魔さんが気付いた時には、もう遅いのです!
取り囲んだ氷の軌道が、悪魔さんの体に、くっついて、悪魔さんの体をあっという間に、カッチンコッチンに凍らせたのです!
『ノアさん!今なのです!!』
「おう!すげーな、ルナ!」
ノアさんは、夕焼け色の風を足に纏わせ、氷の悪魔さんを、思いっきり蹴って粉々にしたのです!
粉々になった氷の粒が、キラキラと光りながら、ノアさんと一緒に舞い降りていくのです。
「……こんだけ粉々にしてやったから、しばらく再生しないと良いけどな。」
ノアさんが、そう呟いた、その時なのでした。
「……残念ね。」
悪魔さんの声がしたかと思ったら、綺麗だった氷の粒が、突然、真っ黒になったのです!
「なっ!?」
ノアさんが驚いた次の瞬間には、氷の粒が、ノアさんを取り囲む様に、グルングルンと回り、やがて大きな氷の竜巻になったのです!
『ノアさん!!』
「言ったでしょう?ここは私の世界。再生するのに1秒も掛からないのよ。」
すると、竜巻の目の前に、翼を広げた悪魔さんが、スゥーッと現れたのです。
「チッ……!」
ノアさんが、上手く動けないみたいで、竜巻の中でもみくちゃに回転されながらも、悪魔さんを睨みつけたのです。
……マズイのです!早く何とかしないと、みんな疲れ果ててしまうのです!
そう焦りながら、凛花さんの様子を見てみたのですが……、凛花さんは、治癒のマナをルカさんに当てながら、さっきよりも苦しそうな顔をしているのです。
『……凛花さん?』
呼びかけてみたのですが、聞こえていないのです。
……もしかしたら、凛花さんの中で、何かが起こっているのかもしれないのです。
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