エルラージュの白き聖女

優李

プロローグ

第0話 悪夢

 ────また、あの夢だ。


 涙で濡れた先には、赤々と燃える炎と黒煙、その中で逃げ惑う人々、そして、逃げ遅れたであろう死体がそこら中に転がっており、その光景は、足早に過ぎ去っていく。


 何故なら、小さな体の私を、女の人が護る様に抱き抱えながら、何かから必死に逃げているから。


 そんな私たちの目の前に、誰かが行手を塞ぐ様に立ちはだかり、女の人は急停止する。


 黒い煙にまみれ、顔はよく見えない。


 だが、一瞬だけ煙の隙間から見えた、その人の血に染まった手を見て、私は怖くなり、女の人の胸に顔を埋めた。


 女の人は、私を優しく抱きしめると、謎の人物にクルリと背を向け、私を降ろした。


 そして、小さな私の手に何かを握らせた。4枚の葉の形が、花弁ようにくっついている、無色透明の小さなクリスタルだ。


 私が不安そうに、女の人の顔を見上げると、その人は、悲しそうに微笑んだ。


「……生きてね。」


 そう言うと、私の手を握る様に、宝石に触れた。


 すると、その宝石が、白い輝きを放ち、私を包み込んだ。


 視界が真っ白になる直前、私が最後に見たのは、謎の人影に対峙する、女の人の背中だった─────。

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