第111話 変化 (凛花・ノア視点)

***作者からのお知らせ***

コロナが治って、落ち着いてきましたので、今日から再開します!

長く空けてしまったので、近況ノートに、ザックリとですが、あらすじを載せておきました。

お手数ですが、必要であれば、そちらも併せて、お読み下さい。


***


【凛花視点】


 ライラの歌声が、緩やかな坂道を登る様に、少しずつ抑揚がつき始めている。


 そんな中、ラビーは、自身の両手に収まっている、黒い大鎌の切先を、静かに私達へと向けていた。


 変化のない藤紫色の瞳からは、相変わらず感情が読み取れないのに、強い殺意を宿しているのが、よく分かる。


 私とアリーシャは、固唾を呑んで、それぞれ身構える。


「……これは、あなたの弓矢を真似て、魔力で創り上げた物。だから、こんな事も出来る。」


 すると、大鎌の刃が、妖しく燃え盛る紫炎に包まれた。

 さっき、ラビーから受けた背中の傷が、火傷の様な痛みを伴っているのは、あの炎の刃を食らったからだったんだ。


 次の瞬間、ラビーは、両足に黒い風を纏ったかと思ったら、一瞬で私の目と鼻の先に移動していた。


 何本かの矢を、同時に放つと、黒魔女は素早く振り返りながら、黒い炎の斬撃を飛ばした。

 それは、矢を裂き、墨と化した後、そのまま私をも切り裂こうとする。


「────ッ!!」


 咄嗟に、横へジャンプし、地面に倒れ込む事で、避けれた。

 けれど、そのすぐ後に、目の前に黒い切先が差し迫り、私に体勢を整える暇すら与えようとせずに、容赦なく迫ってきていた!


「このっ!!!」


 開き切った視界の端から、バチバチと弾ける様な光が舞い込み、ラビーの一撃を食い止めてくれた。


「ぐぅっ……!なんて、重いのよっ……!!」


 アリーシャが、プルプルと震える両腕を、必死に力ませ、足を踏ん張らせながら、閃電を帯びる刃で、必死に押し返そうとしてくれている。


 ────が。


「……今、この刃は、爆弾になろうとしている。だから重いのよ。」


 ラビーが、そう告げた瞬間、大鎌の黒刃が、赤黒く光り始めた。

 それを見て、刃にマナを凝縮させ、即席の爆弾を作っていたのだと分かったけど、もう遅い。


 アリーシャと弓矢姿のルナを、胸に抱き寄せ、二人を守る様に、ラビーに背を向け、ギュッと目を瞑る。


 ──ノア!!!


 心の中で、ノアの名前を叫んだ瞬間、


 けたたましい轟音が鳴り響き、視界が赤黒く染まり、


 その後は、全てが真っ暗に沈んだ。


 


【ノア視点】


 


「──ッ!?」


 何となく、背筋からゾッとする様な悪寒がし、思わず一瞬、視線をリアンから逸らしてしまった。


 たった一瞬だけだったが、その隙を、リアンが見逃すはずがなかった。


「……どこを見ようとしていたんだい?」


 一秒前まで、離れた場所に居たリアンが、目と鼻の先で薄ら笑いを浮かべていた。

 翼が生えた事で、素早く動ける様になりやがった様だ。


 遅れて反応したオレに向けて、容赦なく、黒い闇で覆われた拳が迫ってくるにつれて、視界がぐらつき、全身の力が奪われていく。


「チッ……!」


 今にも倒れそうになるのを、グッと堪えながら、迎え撃つつもりで、右拳に破浄魂を纏わせようとするが、その光は、かなり弱い。


 それに対して、徐々に近づいて来る、リアンの破浄魂からは、まるで全てを食い尽くすかの様な、強い心の闇を感じる。


 リアンの、破浄魂の深化のである、“深い”心の奥底──この地上に住む、全ての生命に対する、強い憎悪と殺意が。


 ──まるで、昔のオレの様だ。

 ……だが、今のオレは、憎悪で力を振るわない。


 今のオレにとっての、深い心の奥底に、存在している想いは……。


 ふと、凛花の笑顔を思い浮かべた、その時だった。


 ──ノア!!!


 ──ドクンッ!!!


 凛花の声が聞こえ、心臓も、突然、大きく鳴り響いたと思ったら、周りの動きが、スローモーションになり、同時に体が楽になった。


 風に揺れる木々も、リアンへと踏み出そうとする、ロキや蓮桜の動きも、目の前のリアンですらも、視界に映る全ての動きが、スローモーションに見える。


 そして、悪寒がしてから、ずっと気になっていた後ろを振り返った。

 この悪寒は、絶対に、ただの悪寒じゃねえはずだ。


 そして、振り返った先には、スローモーションになった視界の中、ゆっくりと、だが確実に、凛花に凶刃が伸びていくのが、目に入った。


「ッ!凛花!!」


 凛花へと手を伸ばした瞬間、今までにない、強い力が全身に漲った様な気がし、そのまま凛花の元へと跳躍する。


 そして、凛花とアリーシャ、弓矢姿のルナを、抱き抱え、再びジャンプした瞬間、背後で大爆発が起こった。


「……え!な、何!?」

『どうなってるのです!?』


 左脇に抱えられた、アリーシャとルナが、一瞬の出来事に、訳が分からず、目をパチクリさせている。


 そして、右脇に抱えられた凛花は、今の爆発に巻き込まれなかったが、ショックで気絶してしまっている。


「おい、凛花!凛花!!」


「…………ん……。」


 気絶したばかりだったからか、幸いにも、呼びかけたら、すぐに、凛花が目を少し開けたので、オレは地面に降ろした。


 アリーシャと、元の姿に戻ったルナが、オレを見るなり、何故かギョッとする。


 少しして、完全に意識を取り戻した凛花も、オレを見上げて、驚愕した表情をした。


「……ノ、ノア……なの?」

 

 さっきよりも身軽になった全身に、湧き上がってくる強い力。その力の影響なのか、オレ自身も、見た目が変化しているのが、何となく分かった。


「…………まさか、あなたまで深化するとは。不覚。」


 凛花に頷こうとした、その時、背後の煙の中から現れたラビーに、淡々と、そう告げられた。


 

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