第125話 決断

 エルラージュの世界を支える、神樹。


 その姿は、半分程の大きさになってしまったが、それでも、燦々と輝く太陽に向かって、太い幹を真っ直ぐに伸ばしている。


 新緑の枝葉は、風に撫でられ、サワサワと音を立てて、気持ち良さそうにしている。


 その生まれ変わった神樹の前に──、“何か”が立っている。


 姿は見えないけれど、確かに、そこには何かがいる。他のみんなも、気が付いている様子で、目を見開いて、同じ方向を凝視している。


 多分、そこに居るのは──、


「……オ!オリジン様……なのです!?」


 私の考えを代弁した様に、ルナが、そこに向かって叫んだ。


 すると、姿は見えないけれど、オリジン様が頷いた様な気配がした。


『……ルナ、皆様も、よく頑張りましたね。お礼を申し上げます。


 神樹は、見ての通り、小さくなってしまいましたが、それでも、甦りました。元の大きさに戻るまでに、長い年月は掛かりますが、問題ありません。使徒の妖精と共に、この神樹を、今まで以上に育てていきます。』


 その時、神樹の木の葉が、ザワザワと音を立て始めた。

 驚いて見上げると、そこから、様々な色をした綿毛が、沢山顔を出し、フワフワと舞い降りてきた。


 その正体は──、


「ありがとうなのです〜!」

「元気一杯なのです!」

「久々の良い風なのです!」

「お腹空いたのでーす!」

「ちーっすなのです!」


 何と、ルナの色違いが、大量に舞い降りてきた!


「え!あ、アレって、使徒の妖精!?」


「みんな、ルナみたいだな!」


 ノアが笑いながら、舞い降りてくる使徒の妖精達に、次々とハイタッチしている。


「蓮桜!一匹お持ち帰りしたいわ!!」

「ライラック、ダメだ!さすがのカルド様でも、元の場所に帰してきなさいと申されるぞ!」


 ライラが、自身の瞳と同じ、翡翠色の妖精を抱き留め、離そうとしなかったが、蓮桜が慌てて引き離した。


人間さんも居るのです〜!」

人間さん、こんにちはなのです!」


 アリーシャは、最初、使徒の妖精に睨みかけたが、ニコニコと邪気の無い笑顔を見てしまい、ガックリと肩を落とした。


「…………注意したいけど、可愛すぎて言えないわ〜。」

「まあまあ、小さくても、アリーシャさんには、アリーシャさんの良い所があると思いますよ。」

「……後でロキには、ブン殴るわ。」

「え!何故ですか!?」


 そして、使徒の妖精達は、モフンと降り立つと、嬉しそうにルナを取り囲んだ。


「リーダーさんなのです!」

「カッコよかったのです!」


「え!?私、リーダーさんなのです!?」


「だって、世界を救ったのです!私達のリーダーなのです!」

 

 リーダーと呼ばれたルナは、戸惑いつつも、「エヘヘ。」と、照れている。


「良かったね、ルナ。」

「だな。」


 ノアと一緒に、その様子を微笑ましく見守っていると、オリジン様の気配が、少しずつ、こちらへと近づいてくるのを感じた。


『……聖女の娘よ。私は、ルナの目を通して、あなた達の事を、ずっと見てきました。


 あなたの望み通り、あなたの育った世界と、こちらの世界を繋げることは可能です。……ただし、常に繋げることは不可能です。繋げる時間が長ければ長いほど、この世界のマナのバランスが、乱れてしまう為です。


 ……あなたは、どうするつもりですか?今、ここで、決断して下さい。』


 オリジン様が告げた言葉に、皆が、使徒の妖精達も、私へと視線をうつし、息をのんだ。


「…………私は……。」


 そう言いかけて、飲み込んでしまった。


 ……私の中で、答えは、決まっている。


 でも、本当に、こんな答えで良いのかと、少し迷っている。


 私が俯いていると、ノアの手が、肩にポンと優しく置かれたので、驚いて顔を上げた。 


「……凛花の人生は、凛花のものだ。だから、例え、どんな答えを選んだとしても、オレは……、凛花が幸せなら、それで良い。だから、迷うな、凛花。」


 いつもの様に、ニッと白い歯を見せながら、そう言ってくれた。


「……ノア……。」


 その、眩しい笑顔に、いつも、励まされていた。


 辛い時も、悲しい時も、楽しい時も、今だって、そう。


 この世界では、この笑顔が、いつだって隣にあったんだ。


 だから、私は、ここまで頑張ってこれた。


 そう思い返し、大粒の涙が溢れ出し、


「……ありがとう。」


 そう、泣きながら、ノアに笑顔を向けると、


「──大好き。」


 堪らず、ノアに抱きつくと、深いキスをした。


 短いはずなのに、それでも、その時間は、今までで一番長く感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る