第124話 生きる意味

「……何故、僕達にトドメを刺さなかった。」


 リアンは、そう言うと、赫い瞳で、ノアを睨みつけた。


 ラビーは、リアンに肩を貸し、立っているだけだが、その瞳は以前とは違い、光が宿っていて、真剣な眼差しで、私達を真っ直ぐと見ている。


「……僕達は、ずっと、この世界を消す事だけを考えて生きてきた。だが、それはお前達によって、失敗した。

 ……もう、僕達には、生きる意味がない。なら、死んだ方がマシだ。」


 リアンが低い声で、そう言った後、ノアから、大きなため息が聞こえた。


「……はあ〜。……ったく、悲観しすぎなんだよな、リアンは。」


 ノアが、めんどくさそうに頭をボリボリとかき、ため息混じりに、哀れみの目をリアンに向けていた。


「……何だ、その目は。」


「生きる意味なら、隣にあるだろうが。」


 ノアの言葉を聞いて、リアンは、隣のラビーへと視線を移し、じっと見つめた。


 ラビーは、キョトンとしながら、リアンを見つめ返している。


「……ねえ、ラビーは、これから、どうしたいの?」


「……私?」


「うん。……アンナさんは、もう、あなたの隣には居ないけど……、それでも今は、リアンが隣に居る。

 ……これからも、リアンと、一緒に居たいんじゃないの?」


 すると、突然ライラが「キャー!」と叫び、顔を真っ赤にすると、リアンとラビーを交互に見て、興奮しそうになった。


 けれど、アリーシャが、


「ちょっと!大事な場面なんだから、静かになさい!!」


 と、お尻を引っ叩き、何とか落ち着かせてくれた。


 私は、一度咳払いをしてから、ラビーに視線を送り、答えを促した。


「…………私、は……。」


 ラビーは、藤色の瞳を揺らして、考えた後、再びリアンへと視線を移し、リアンの腕を、キュッと握りしめた。


「……私には、主しかいない。……だから、主と一緒に、旅がしたい。

 凛花達みたいに、色んなところに行って、色んなものを見て、色んな人を助けて、私達の存在を認めてもらえるようになりたい。

 ──そして、いつか、主のお嫁さんになりたい。」


 最後の言葉に、みんなが思わず吹き出してしまった。リアンですらも、目を丸くしている。


「……い、今まで、心を押さえつけられていた分、感情が爆発してしまったのでしょうね。」


「いや、それにしても率直すぎるだろう。」


 ロキさんが、苦笑まじりにフォローしたが、さすがに蓮桜が、そうツッコミを入れた。


 リアンは、しばらく硬直した後、咳払いをし、


「…………これが、生きる意味、か……。」


 と、軽く笑みを浮かべた。


「……で、どうするんだ?」


 ノアが尋ねると、リアンは、少し考えた後に、


「……まあ、結婚の話はともかく、今まで、ラビーは、僕に従ってくれたから、今度はラビーの思う生き方に沿ってみるのも、悪く無いのかもしれないね。

 ……それに、こいつらに負けて、アルマも消えてしまった。どうせ死ぬぐらいなら、ラビーに付き合ってみるよ。」


 と、真っ直ぐとした真紅の瞳で、そう決意した。


 それを聞いたラビーは、口元を軽く緩ませた。


 私もホッとし、二人が行ってしまう前に、リアンを回復させようとしたが、


「回復は不要だ。……しばらく、ノアから受けた痛みに浸かって、これからの生き方について、深く考えたい。」


 と、手で制された。


 そのまま二人は踵を返し、歩き出した。


 ノアは、二人の背中に向かって、ニッと笑いながら、大きく手を振った。


「またな、リアン!」


 リアンは、足を止め、ノアをチラッと振り返ると、また歩き出した。


 一瞬だけだったけど、何となく、フッと笑っている様な気がした。


『……話は、終わりましたか?』


 二人が見えなくなった後、背後から声がしたので、ハッとして、神樹の方を振り返ると、神樹は、元の大きさの半分ぐらいに縮んでいるが、それでも、色鮮やかな緑溢れる、立派な大樹へと生まれ変わっていた。


 ──そして、その木の傍には、“何か”が居る。

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