終章 私の選んだ道
第126話 帰ってきた日常
「──ちゃん、起きて。」
ん……?誰……?
もう少し、寝かせてよ……。
「凛花ちゃん!着いたよ!」
「起きてよ〜、凛花お姉ちゃん!」
「はっ!!」
目の前で、二つの怒号が響き渡り、驚いて目を覚ますと、そこには、私と同い年の真希と、アリーシャにそっくりな、幼稚園生の、ゆうが居た。
ゆうと真希は、まだ状況を飲み込めていない私を引っ張って、走り出した。
丁度、私の後ろで、プシューッと、電車のドアが閉まる音がして、ようやく完全に目が覚めた。
真希は、安堵のため息を吐くと、プクッと頬を膨らませた。
「もう、凛花!間一髪だったじゃない!」
真希に倣って、ゆうも、プクッと頰を膨らませた。
「そうだよ、凛花お姉ちゃん!それに、海に行こうって言い出したの、凛花お姉ちゃんじゃん!」
「あ、アハハ……、ごめんね?ちょっと、寝不足でさ〜。」
そう苦笑すると、真希は「全くもう……。」と、ため息をつきながらも、
「海まで、30分ぐらい歩くみたいだから、早く行こ!」
と、せっせと歩き出した。
「……真希お姉ちゃんも、海、楽しみなんだね。」
「うん、そうだね!3人で行こうねって、前から話してたしね!」
……本当は、夏に行こうねって、言ってたけど、私が異世界に行っている間に、もう年が明けちゃって、今は、3月になってしまった。
──今から3ヶ月前、私は、オリジン様に、お願いして、こっちの世界に帰ってきた。
こっちに帰ってきた時、私は、孤児院の近くの公園に立っていた。
異世界に飛ばされる前に、真希とゆうと、遊んだ、あの公園だった。
丁度その時、買い物途中だった真希が、偶然通りかかって、当然、真希は大パニックになった。
お互い、大号泣しながら抱き合い、しばらくして落ち着いた後に、真希が現在住んでいるアパートに、匿ってもらう事になった。
真希は、もうすぐ高校卒業だから、年が明けた頃に、孤児院を出て行って、アパート生活を始めたみたいだ。
私は、半年間、行方不明扱いになっているが、正直、あまり騒ぎを起こしたくないので、孤児院には連絡しないでと、真希に無茶なお願いをした。
……けれど、ゆうだけには、私が帰ってきた事を伝えてくれて、こうして、時々会う様にしている。
ゆうは、私と再会するとすぐに、何言っているのか分からないぐらいに、泣き叫んで、私の事を離さなかった。
私も、ずーっと泣き喚いて、ゆうを離さなかった。
異世界に飛ばされる前に、ゆうと喧嘩別れする原因になった、あの、クマのぬいぐるみは、もう……、捨ててしまったみたいだ。
ゆうは、私と喧嘩してしまった時の事を、ずっと後悔していたみたいで、あんなに大事にしていたクマのぬいぐるみを、手放したそうだ。
それを聞いて、私は、申し訳なく思ったが、ゆうは、クマのぬいぐるみよりも、私と真希の方が大事だと、笑顔で言ってくれた。
……少し見ないうちに、成長してたんだな。
そして現在、高校最後の春休み中の真希と、ゆうと一緒に、念願の海に行く事になった。
……まだ海開きではないから泳げないけれど、それでも、今日、行きたかった。
「わあ!!でっか〜〜〜〜い!!」
30分歩いて、ようやくビーチに辿り着き、ゆうが大興奮しながら走り回っている。
「あんまり、波の傍まで行かないでね!」
真希が、レジャーシートを引きながら、ゆうに声を掛けると、ゆうは元気良く頷いて、砂のお城を作り始めた。
私は、真希の隣に座りながら、その様子をニコニコと眺めた。
「そういえば、凛花は思っていたより、興奮していないね。…………あ、そっか。凛花は、異世界で、海に行った事があるって言ってたっけ。」
「うん。」
実は、真希だけには、異世界での事を話した。
果たして信じてくれるのか、正直、不安しか無かったけど、車に轢かれかけた私が、突然消えて、突然帰ってきたから、最終的には信じるしか無かったみたいだ。
「……でも、異世界か〜。いつか、三人で行ってみたいな〜。」
「……うん。」
「ゆうに似ている女の子も気になるし、凛花の想い人にも会ってみたいな〜。」
「……ねえ、真希。」
「ん?どうしたの?……今日、何だか様子が──」
「そろそろ、真希のサンドイッチ、食べたいな!」
真希の心配そうな声を遮る様に、そう言ってしまったが、真希は、キョトンとしながらも、バスケットを広げてくれた。
「あ!もうご飯にするの?」
ゆうも、その様子を見て、こちらに駆けつけてきた。
「うん。凛花が、もうお腹空いたんだって。」
「もう、凛花お姉ちゃんは、相変わらず食いしん坊だな〜。」
「えへへ。」
ゆうに苦笑しながら、大好物の卵サンドを手に取ろうとした、その時、真希の手にパシッと払いのけられた!
「こ〜ら!ダメじゃない!ハンドソープ持ってきたから、ちゃんと手を洗ってきなさい!」
と、真希お母さんが、ムッとした表情をしながら、携帯用のハンドソープと、ハンカチを差し出した。
……さすが真希。相変わらず、抜かりない。
きっと将来、良いお母さんになるんだろうな〜。
少しクスッと笑い、大人しく手を洗いに行った。
「いただきまーす!」
その後は、3人で仲良く、真希のお手製サンドイッチを頬張った。
「ん〜!懐かしい!やっぱり、真希のサンドイッチが、一番美味しい!」
「もう、大袈裟だな〜。」
「いやいや、本当だよ!ねえ、ゆう?」
「うん!真希お姉ちゃんのサンドイッチは、世界一美味しいよ!」
ゆうは、そう笑いながら、何度も頬張った。
──私も、何度も、何度も、この味を噛み締めた。
「ごちそうさまー!」
サンドイッチを食べ終え、一息ついた後に、私は、持ってきたリュックサックの中から、ある物を取り出した。
「……ゆう、渡したい物があるの。」
「え?」
まず、ゆうに、手の平サイズの、手作りのクマのぬいぐるみを渡した。
「……ゆうの、お気に入りだった、あのぬいぐるみよりも小さいけれど……、その分、想いを込めて、一生懸命作ったの!……大事に持っててもらえる?」
「……ゆうの為に、作ってくれたの?」
「うん、そうだよ。」
ゆうは、パァッと笑顔になると、ぬいぐるみを抱きしめた。
「……これ、ずっと、大事にするよ!」
私は、ゆうに、ニッコリと笑うと、今度は真希に向き合った。
「……はい、真希にはコレ!」
「……お守り?コレ、凛花ちゃんが作ったの?」
「うん。ほら、真希、音大に行くんでしょ?プロのフルート奏者になる為に。だから、お守りを作ってみたの!……まあ、そんなに綺麗じゃないかもだけど……。」
この数日間、ぬいぐるみと、お守りを作る為に、夜中に、こっそり作っていた。縫い物は、そんなに得意では無かったけど、それでも、一生懸命、頑張った。
まあ、そのお陰で、寝不足になっちゃって、電車の中で危うく寝過ごすところだったけど……。
真希は、しばらく、お守りを見つめた後に、ギュッと両手で包み、大事そうに胸元に押しつけると、
「ありがとう、凛花。……私の、一番の心友。」
と、優しく微笑んだ。
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