エアルの森

第8話 白魔という種族

 太陽が登り始めてから、30分ぐらい経った頃。


 あのタンポポの綿毛の様な物が、フワフワと舞い上がる草原を歩き続けていると、リースさんの言う通り、大きな森が見えてきた。


「お!アレが、婆さんの言ってた森か?」


「うん。あの森に、風の精霊、エアル様が居るんだって。」


 精霊様って、どんな姿なんだろう……?怖くないと良いな。綺麗な女神様みたいな感じで。


 私は、まだ見ぬ精霊の姿を想像し、ドキドキしながら、ノアと共に、森の中に足を踏み入れた。


 しかし、森に入った途端、違和感を感じ、私達は、立ち止まった。


「……風が全く吹いていない?」


「ああ。だからなのか、ジメジメするよな?」


 風の精霊が住む森なのに、何故か風が吹いておらず、蒸し暑い。

 しかも、周りの木々や草花は、少し枯れ始めていた。


 これも、精霊が眠ってしまっているから?


 そう、俯きながら考えていた、その時だった。


「凛花、危ない!!」


 ノアの声に、ハッとして顔を上げると、前方から、狼の様な魔物が、私に向かって鋭い牙を向けながら突進してきているのが見えた。

 昨日、草原で見た魔物と同じ種類だ。


「……………っ!!」


 私は、咄嗟に目を瞑り、固まってしまった。


 すると───────。


 バキッ!!


 目の前で何かが砕ける様な音がして、恐る恐る目を開けると、そこには、ノアの後ろ姿があった。


 さらにノアの目の前には、あの魔物が横たわっており、顔がペシャンコに潰されていた。


 …………まさか、ノアがやったの?


「大丈夫か、凛花。」


 振り返るノアの顔に、返り血がついていたので、私は一瞬驚いたが、すぐに頷いた。


 本当にノアがやったんだ。右手にも返り血がついているけど、素手でやったのかな?……いや、まさかね。


 ノアにどうやって倒したのか、聞こうとしたその時、前方の奥から、複数の足音が聞こえてきた。


 ハッとして、その方向を見ると、そこには、先程の狼の魔物が、10体程、唸り声を上げながらノアを睨みつけていた。


「ちょっ……!数が多いよ!一旦逃げよう!」


 私は、そう言ったが、ノアは微動だにせず、それどころか、魔物を見てニヤリと笑っている。


「いや、平気だ。」


 ノアが、そう言うと同時に、魔物が一斉にノアに飛び掛かってきた!


「ノア!!」


 私が叫んだ瞬間、ノアは、既に右足を横に振り上げており、その足は、白いオーラの様なものを纏っている。


 そして、一番端に居る魔物に、力強く横蹴りすると、他の魔物たちを巻き込んで、一気に強く吹き飛ばした。


 まるで、巨人が蹴り飛ばしたかの様だ。


 10匹の内、3匹だけ生き残り、ヨロヨロと立ち上がると、再びノアに向かって、飛び掛かってきた。


 しかしノアは、避けるどころか、両手にも白いオーラを纏わせると、魔物に向かって、爪を立てながらジャンプした。


 そして、両手の爪で、真ん中の魔物を中心に、左右に切り裂いた。


 魔物達は、まるで巨大な刃物で切り裂かれたかの様に、一瞬でバラバラになり、肉片が大量の血と共に、地面に落ちていった。


 終始口をポカンと開けていた私は、ノアの白く光る足を、震える指でさした。


「……ノ、ノア。その白いのは?」


「ああ、これか。これはな、“白魂びゃっこんっていうんだ。白魔にしか出せないんだって。」


 すごい……!白魂を纏っただけで、あんな力を出せるなんて!まるで小さな巨人の様。


 ─────これが、白魔という種族……!


 ノアは、驚いている私に振り返ると、魔物の死体を指差しながら、ニッと笑った。


「なあ、凛花。こいつら、お前の魔法で焼けるか?」


 ノアに話しかけられて、私は、ハッと我に返った。


 焼くって、死体でも処理するのかな?


 そう思いながら、私は頷くと、魔物に手を翳し、集中した。


 すると、手の平から光の球が、いくつか現れ、魔物に当たると、魔物は黒焦げになった。


「出来た!」


 まだ使い慣れていないせいか、少し疲れるけど、これなら、とりあえず何とかなるかも。


 私が自身の手の平を見つめながら、そう思っていると、ノアは、焼かれた魔物の肉片を持ち上げていた。


「少し焦げたけど、まあ、いっか。」


 そう言った次の瞬間、ノアは、魔物の死体を食べ始めた。


「え!食べるの!?」


 いくら焼いているとはいえ、加工処理もしていないのに、平気なの!?


 私が唖然としていると、ノアは、私に笑いかけ、肉片を差し出してきた。


「ああ!美味いぞ!」


 しかし、その肉片をよく見てみると、心臓らしきものだった。

 それに気付いた私は、一気に顔を青ざめ、思いっきり叫んでいた。


「いやーーーーーーーーーーっ!!!」


 ガサガサガサッ!!


 すると、私の叫び声に応じるかの様に、近くの茂みが不自然に揺れた。


「ん?何かいるのか?」


 ノアが心臓をかじりながら、茂みに近づいていった。


 にしても、よくリンゴの様に食べれるよな、この人……。


 そう思いながら、私もノアと一緒に、茂みの中を覗いてみた。


「ぴぎっ!?」


 すると、そこには、チワワをぬいぐるみにした様な生き物が、怯えながら、こちらを見上げている。


 2本足で立っており、クリーム色の毛並みで、大きな尾は、リスの様に先が丸まっている。そして、愛らしい大きな瞳には、涙を溜めており、今にも泣き出しそうだった。


「わ、私を食べても、美味しくないのですよ!」


 少しつり目にしながら、ノアの事を睨みつけているが、ちっとも怖くない。それどころか……。


「か、可愛い……。」


 私が思わず、うっとりしながら呟くと、謎の生き物は、驚いた顔をした後、すぐに照れ始めた。


「か、可愛く見えるのです?嬉しいのです!」


「……何だ、コイツ。」


 デレデレに照れる謎の生き物に、ノアが顔をひきつらせながら、見下ろしていた。


 


 


 




 


 


 

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