第7話 旅立ち
「オレ、かなり強いからさ、結構役に立てると思うぜ?よろしくな、凛花。」
呆然と立ち尽くす私に、ノアは笑顔でそう言いながら、握手を求め、手を差し出してきた。
私は、どうすれば良いのか分からず、チラと、リースさんに視線をうつした。
リースさんは、私に微笑みながら、頷いた。
「確かに白魔は、人々に恐れられているが、人にも様々な人がいる様に、白魔にも、良い人も居ると、わしは思う。それに、わしは長年生きてきたから、ノアの目を見ただけで、悪い子では無いと思えるのじゃよ。」
それを聞いた私は、ノアの赤い瞳を、じっと見つめてみた。
……確かに、この子の目、真っ赤な色をしているけど、よく見てみると、子供の様に、キラキラ輝いていて、純粋無垢な瞳の様に見える。
それに、さっき謝ってきた時の態度、本当に子供の様に落ち込んでいて、演技をしている様には見えなかったかも。
私は、しばらく考え込むと、やがて頷き、ノアの手を握り、笑顔を見せた。
「……こちらこそ、よろしくね。」
「ああ!」
ノアも、歯を見せて、爽やかな笑顔を返した。
……こうして近くで顔を見てみると、ちょっとカッコいいかもしれない。
私は、そう思うと、少し恥ずかしくなり、目を逸らした。
そんな私の心の内に、気が付いていないノアは、何かに気が付くと、台所を見つめ、鼻をヒクヒクさせていた。
私も、香ばしい匂いがしている事に気がつくと、台所に視線をうつした。
すると、いつの間にかリースさんが、再び台所に立って、何かを作っていた。
リースさんは、料理をしながら私に振り返ると、ニッコリと微笑んだ。
「今、凛花の分を作ってやるからのう。」
それを聞いた私は、パアっと顔を輝かせた。
「本当ですか!?やった!!」
「え!また作ってくれるのか!?」
「ノアは食べたでしょ!!」
喜ぶノアに大声でツッコむと、ノアは「ちぇーっ。」と、口を尖らせ、不機嫌そうな顔になった。
あんなに食べたのに、まだ食べれるのか、コイツ……。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
しばらくして、先程と同じ料理が食卓に並べられた。
私は、ようやく待ちかねた料理に手を合わせ、笑顔で挨拶した。
「いっただっきまーす!」
まずは、あの分厚くて大きいお肉から食べてみる。
お肉を口に入れた途端、私の顔は、口の中のお肉と共にとろけた。まるで、高級レストランのお肉みたいだ。
…………行ったことないけど。
でも、こんなに柔らかすぎるお肉が食べれるなんて、夢にも思わなかった!
次に、あの真っ白で、金平糖の様な形をしたものが、大量に盛られているのを、口にした。
予想通り、お米みたいなものだった。けど、お米よりも少し甘味があって、ふわっと、優しく甘い香りが、口一杯に広がった。
しかもお肉に合っていて、何杯でも、おかわり出来そう!
そして最後に、透き通ったスープを、一口すすった。
鶏ガラスープの味に似ていて、スッキリとしたハーブの香りがする。あのお肉に合うスープの様で、お肉と交互に、いくらでも飲めちゃいそう!
幸せそうに食べる私の横で、ノアが料理を羨ましそうに、じーっと見つめている。
……そんな顔で、ずっと見つめられると、食べ辛いんだよな……。
私は、ため息を一つ吐くと、お肉を3枚、小皿に乗せて、ノアに差し出した。
ノアは、驚いて、私とお肉を交互に見ている。
「……いいのか?」
「少しなら、良いよ。」
ずっと見つめられるよりは、マシだしね。
ノアは、みるみる内に笑顔になると、風の如く、一瞬で肉を平らげた。1秒も経っていないんじゃないかと思うほどに、あっという間で、私は再び驚愕した。
「やっぱり、美味いな。……にしても、こんなに親切にしてもらったのは、生まれて初めてかもな。今日は良いことだらけだ。」
「……え?」
我に返った私は、ノアを見つめながら、その言葉の意味を考えた。
もしかしたら、白魔の一族だから、今まで他人に親切にしてもらった事が、ないのだろうか。
そう思うと、段々と哀れに思い、私は俯いた。
しばらくして、私はノアに、情けの言葉をかけようと、顔を上げた。
「ノア…………。」
「ぐがぁーー、ぐごぉーーっ!」
しかし、いつの間にか、ノアは床で、いびきをかきながら、眠っていた。
それを見た私は、拍子抜けして、がっくりと肩を落とした。
すると、洗い物を終えたリースさんが、床で眠るノアに気付いた。
「おやまあ、良く食べて、良く寝る子だねぇ。」
リースさんは、微笑みながら、そう言うと、毛布を持ってきて、ノアに掛けてくれた。
そして、タンスの前に行くと、私に手招きをした。
「凛花、旅に出るなら、この世界に合う服装にしなさいな。私が若い頃に着ていた服を、あげるから。」
そういえば、この服、この村の人達からは、珍しそうに見られたんだった。
私は頷くと、リースさんの元へと駆け寄った。
「そうじゃな……。お主は、サクラの民の先祖が暮らしていた世界から来たから、サクラの民の服にした方が、良いかもしれぬ。ほれ、これじゃ。」
そう言ったリースさんは、一着の服を、床の上に広げた。
その服は、着物の様な服で、桃色で桜の模様が描かれている。帯は若草色で、帯締めは金色。袴は、ミニスカートぐらいの丈の長さだ。
肩から二の腕は、素肌を出して、前腕から手首まで、着物の袖を装着する様だ。
履き物は、踵が少し高めの、茶色のミニブーツを履くみたい。
へえー。これが、異世界の着物なんだ!アイドルが着そうな衣装で、物凄く可愛い!
私は、キラキラと目を輝かせながら、まじまじと服を見ていた。
その様子を見ていたリースさんは、クスッと笑った。
「気に入ってくれた様で、何よりじゃ。……さて、次に渡す物は、これじゃ。」
リースさんは、ポケットから、手の平に収まるほどの、小さな白いキューブを取り出した。
「これは、何ですか?」
「これにな、マナを注ぐと、家に変化するのじゃ。魔女が野宿をする時に使っていた物じゃ。」
……この四角い物が、家になるの?
私が怪訝そうに、キューブを見つめていると、リースさんは、立ち上がり、私についてくる様にと促すと、外へと向かった。
外は、もう真夜中で、明かりがついている家は、リースさんの家しかなく、真っ暗だった。
私達は、欠け具合が異なる、2つの月が照らす光を頼りに、村の中心へと向かった。
そこでリースさんは、白いキューブを、私に渡してきた。
「理想の家を想像しながら、このキューブにマナを注ぎなさい。……あ、狭い場所でも建てれる様にしないといけないから、豪邸はダメじゃぞ。」
「でも、マナを注ぐって、どうやったら良いんですか?」
「目を閉じて、キューブを持つ手の平に、集中しなさい。凛花なら、きっと出来る。」
私は、不安に思いながらも、言われた通りに、目を閉じると、集中した。
すると、段々と、手の平が熱くなるのを感じ、キューブが光り始めた。
「凛花、キューブを地面に置いて、少し離れるのじゃ。」
私は、頷くと、キューブを置いて、離れた。
すると、白くて小さかったキューブが、突然大きく膨らみ、形を変えていった。
そして、あっという間に、オレンジの瓦屋根に、清潔感のある真っ白な壁の、2階建ての一軒家に変化した。
私は、目を輝かせながら、目の前の一軒家を見上げていた。
ああ!憧れの一軒家だ!大人になったら、一軒家を買いたいって、思っていたけど、まさか、こんなにも早く、それが叶うとは!
試しに中に入ってみると、和室付きの1LDKで、キッチンはIHだ。ソファーや、大きなテーブルもある。
2階は、3部屋あり、それぞれベッドや、勉強机があり、生活できるには、十分だ。
リースさんは、珍しそうに、ソファーや、IHを見つめている。
「ほおー。よく分からないのがあるが、立派な家に変化出来たじゃないか。やはり、お主は魔女の才能がある。」
「そうですか?でも、これで、野宿にならずに済みそうです!ありがとうございます!……ところで、何で、リースさんが、こんな物を持っているんですか?」
リースさんは、キョトンとした。
「言ってなかったかのう?わしは、魔女の一族じゃぞ?……と言っても、もう老いぼれだから、魔法は使えぬがのう。」
リースさん、魔女だったのか!
私は、今更知った事実に、口をポカンと開けて、驚愕していた。
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次の日の朝。
日が昇り始める前に、私達は、旅立つ事にした。
ノアを起こしたが、半分寝ぼけており、目はうつらうつらとしている。
「ノア!寝ぼけていないで、早く起きて!」
私がノアの肩を強く揺らすと、ノアは、ハッとして、ようやく起き上がった。
「もう出るのか?まだ暗いじゃん。…………アレ?凛花、その服……。」
ノアは、和服に着替えた私に気がつくと、じっと見てきた。
「どう?可愛いでしょ?」
私は、クルリと一回転して、ノアに見せたが、ノアは、頭を掻きながら、興味なさそうな目をしていた。
「うーん。女の服は、よく分からないけど、まあ、良いんじゃね?」
と、微妙な感想を述べると、あくびをしながら、外へと向かった。
私も、聞くんじゃなかったと、ため息を一つ吐くと、外へ出た。
外では、既にリースさんが待っていた。
私が駆け寄ると、リースさんは、何やら小袋の様な物を渡してきた。中には、金貨の様な物が入っていて、私は、驚愕した。
「え!お、お金なんて、受け取れませんよ!」
私が返そうとしたが、リースさんは、首を横に振った。
「お主とノアなら、依頼の報酬で稼げるかもしれぬが、大きな街まで行かないと、依頼を受けられないんじゃ。それまでの無一文の旅は厳しすぎるから、持って行きなさい。」
私は、しばらく考えた後、渋々承諾し、リースさんに笑顔を見せた。
「何から何まで、ありがとうございました、リースさん。」
「オレも、美味い飯を食わせてくれて、ありがとうな、婆さん!」
リースさんは、優しく微笑みながら、頷いた。
「さあ、気を付けて行ってくるのじゃぞ。ここから、草原を抜けた先に、風の精霊、“エアル”様がいらっしゃる森がある。まずは、そこを目指しなさい。」
「はい!行ってきます!」
私とノアは、リースさんが見えなくなるまで、手を振り続けた。
リースさんが見えなくなると、朝日が昇り始めた。
私は、不安とワクワクが入り混じりながら、細い目で眩しい朝日を見つめると、ノアと共に、草原を歩き出した。
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