第9話 凛花の回復魔法
デレデレしていた謎の生き物は、ハッと我に返ると、私の肩に飛び乗ってきた。
「そ、そんなことよりも!あなた、魔女さんなのですね!?助けてくださいなの!ママが、大怪我をしてしまったのです!」
大粒の涙を流しながら、そう必死に訴えかけてきた。
私とノアは、顔を見合わせると、頷いた。
「分かった!案内してもらえる?」
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謎の生き物に案内してもらった場所は、小さな泉だった。しかし、少し茶色く濁っており、あまり綺麗ではない。
その泉のほとりに、大量の血を流しながら、横たわる魔物がいたので、私とノアは驚いた。
夕焼け色の毛並みの、トラの様な見た目で、背中には巨大な鳥の翼が生えているが、ぐったりと地面に垂れていた。
「ママーーーー!!」
謎の生き物は、その魔物に泣きながら飛びついていた。
まさか、この魔物が、この子のお母さん……!?
「……凛花。治したら、オレたちを襲うかもしれないぞ。どうする?」
ノアが、横たわる魔物に、鋭い視線を投げかけると、謎の生き物が泣きながら抗議してきた。
「ママは、優しい魔物ですの!10年前から、記憶喪失で彷徨っていた私を、ずっと育ててくれたのです!」
「き、記憶喪失なの!?」
「そうなのです!しかも、血が繋がっていないのに、本当の子供の様に接してくれていたのです!」
そう言うと、謎の生き物は、子供の様に泣きじゃくった。私はその姿を見て、段々と胸が苦しくなってきた。
そういえば、ゆうも、施設に入ってきた頃、両親を亡くしてしまった為、毎晩の様に泣いていたっけ。
その時の事を思い出していた私は、謎の生き物が、あの頃のゆうと重なって見え、気が付くと、魔物に歩み寄っていた。
「マ、ママを、助けてくれるですの……?」
濡れた大きなつぶらの瞳で見上げる、謎の生き物に、私は優しく微笑みかけると、頷いた。
「……もちろん。」
とは言っても、回復魔法が出来るか、分からないけど……。
でも、お母さんが死んじゃいそうで、不安がるこの子を見ていると、放っておけなかった。
私は、意を決すると、魔物の前にしゃがみ込んだ。
「……相手を慈しむ様な、優しい気持ちで、マナを注ぎ込む。」
すると、いつの間にか私の横に立っていたノアが、そう呟いていた。
「回復魔法の心得だ。先祖が魔女の使い魔だったから、小さい頃、母さんに魔法に関する知識を、少しだが叩き込まれていた。」
ノアが、魔物を助けるのに、協力してくれるなんて、ちょっと意外に思った。
でも、きっと、私と同じで、この子を放っておけなかったのかも。
私は、ノアに感謝して頷くと、魔物の傷に両手を翳した。
この子のお母さんが、元気になります様に……。
そう願いながら、集中させていると、両手から真っ白い光が放出され、魔物を優しく包み込むと、魔物の傷が、みるみる内に塞がっていき、やがて完治した。
魔物は、瞼を震わせると、ゆっくりと目を開けた。
「ママ!!」
謎の生き物が、魔物に泣きながら飛びつくと、魔物は、愛おしそうに喉を鳴らしながら、謎の生き物に顔を擦り寄せていた。
まるで、本当の親子の様だ。
その様子を、私とノアは、微笑みながら見守っていた。
「……良かったじゃねーか、凛花。」
「うん。お母さん、助けられて本当に良かった。」
「にしても、お前、魔物を助けるなんて、優しいんだな。」
「でも、ノアだって、私に知恵を貸してくれたじゃない。それに、ノアが教えてくれなかったら、失敗していたかもしれない。だから、ありがとう。」
笑顔でお礼を言うと、ノアは、驚いて目を見開いた後、少し照れくさそうに、そっぽを向いた。
「お、おう。……お礼を言われたの、初めてだ。」
ノアは、言い慣れていないお礼に戸惑い、目を泳がせていた。
案外、可愛いところあるんだなーー。
クスッと笑いながら、ノアを見つめていると、いつの間にか私達のそばには、魔物と、その頭の上には謎の生き物が居たので、一瞬ドキッと驚いた。
「ママ!この人が、助けてくれたのです!」
魔物は、金色の細い目で、私をじっと見つめていた。
その瞳からは、敵意を感じず、穏やかな眼差しを感じた。
「ママがね、お礼を言ってるのです!」
私は、魔物に優しく微笑んだ。
「どういたしまして!」
「お、おう。ど、とういたしまして……?」
ノアが、また戸惑っており、焦点が合っていない。
「ところで、あなた達は、何をしに来たのですの?」
「私達は旅をしていてね、エアル様を起こしにきたの。」
すると、魔物と謎の生き物は、目を見開いて驚くと、不穏な表情になった。
「あ、あそこは、今は行かない方が良いのです!ママが、そこで大怪我を負ってしまったのです!危険なのです!」
私とノアは、驚き、顔を見合わせた。
一体、どういう事……?
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