第44話 使徒の妖精さん (ルナ視点)

 ……一体、どういうことなのです?


 私が、オリジン様の使いの妖精さん?しかも、オリジン様の記憶と力の一部を持っているのです?


 そういえば、精霊様たちに会った事がある様な気がしたのに、皆さん、私とは会ったことがないと言っていたのです。


 ということは、あれは、私の記憶ではなくて、オリジン様の記憶だったのです……?


「……本当に、ルナは、オリジン様の使徒の妖精なの?」


 凛花さんが、恐る恐る尋ねると、雪の妖精さん達は、しっかりと頷いたのです。


『そうズラよ!オラ達も、たま〜〜にしか見かけた事がねえだが、間違いねえズラよ!』


「じゃあ、使徒の妖精族は、どこに住んでいるの?」


『あそこズラ。』


 雪の妖精さんが、指し示した方向は、何と、あの、ひどく枯れた神樹さんなのです。


『使徒の妖精族は、神樹の中で暮らしていたズラ。その中で、オリジン様と一緒に、世界中のマナをバランス良く循環させていたズラ。…………10年前までは。』


 すると、雪の妖精さん達は、全員、悲しそうな表情で下を向いたのです。


『オリジン様の気配がなくなると同時に、使徒の妖精族の気配もなくなったズラ。……今も生きているのかどうか……。』


「っ…………!!」


 それを聞いた瞬間、私の体は、全力で走っていたのです。


「ルナ!?」


 後ろから、凛花さん達の声が聞こえたのですが、それでも、私は振り返らずに、村の外を出て行ったのです。


 ────もうこれ以上、聞きたくないのです……!



        ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



 それから、涙で目の前が見えづらくなっても、立ち止まらずに、夢中で走り続けていたのです。


 そして、疲れて気が付けば、森らしき場所にいたのです。


 ヒー、フーと、何回か息を大きく吐いて、少し落ち着いた後、自分は何処から来たのかと、辺りを見回したのですが、同じ様な木ばっかりで、分からなくなったのです。


 きっと、凛花さん達が心配しているのです。早く戻らないとなのです。


 ……でも、今戻ってしまうと、また、あのお話の続きを聞かなくてはいけなくなるのです。今は、聞きたくないのです。


 私は、帰り道を探すのをやめて、近くの小岩の上に座ると、ぼんやり考えたのです。


 ……私が、オリジン様のお使いの精霊で、オリジン様の記憶と力の一部を持っているのです?


 じゃあ、精霊様に会ったことがある気がしていたのは、オリジン様の記憶を持っていたからなのです?だから、精霊様は、私と会った事がないのですね。


 そういえば、精霊様のお話だと、オリジン様は、白魔さんと黒魔女さんに襲われたと言っていたのです。それなら、きっと、私の仲間も、その白魔さんに……。


 ……もしかしたら、生きているのかもしれないのですが、そうじゃないのかもしれないのです。


 そう思うと、すごく不安になって、涙がボロボロと零れ落ちて、止まらなくなってきたのです。


「ううっ……!こんなの、ひどいのです……!!」


 その時、ふと、ママの顔を思い出したのです。


 ママに、会いたくなってきたのです……。仲間が居ないのなら、ママのところに帰りたいのです……!


 そう思った、その時なのでした。


 ズシン、ズシン────。


「ぴ、ぴぎっ!?」


 後ろから、大きな音がしたのです。音と一緒に、地面も大きく揺れているのです。


 その音は、段々と、私の元へと近づいてきて、突然、ピタッと止まったのです。


 な、何か、後ろに、いるのです……。


 そう思って、ビクビクしながら、振り返った瞬間、私は、怖くて動けなくなってしまったのです。


 そこには木と同じぐらいに、大きくて真っ白な毛むくじゃらの魔物さんがいるのです。

 その魔物さんは、3つの赤黒いお目めで、私を睨みつけているのです。

 しかも、4つのお手てには、鋭くて長い爪があるのです。


 い、今すぐ、逃げないとなのです。


 なのに、身体がブルブルして、動けないのです!!

 

 すると、魔物さんは、私を睨みつけたまま、4つのお手てを振り上げたのです。鉄の様な爪が、不気味なぐらいに、鈍く光っているのです。


 私は、泣きながら、思わず目をギュッと瞑ったのです。


 その時なのでした。


「ルナ!!」


 ノアさんの声がしたと同時に、魔物さんの苦しそうに唸る声が聞こえたのです。


 びっくりして、目を開けると、そこには、ノアさんの大きな背中があったのです。


 ノアさんの向こう側では、殴られたのか、魔物さんが顔を押さえながら、蹲っているのです。


「ルナ、平気か?」


「……は、はいなのです。」


 それを聞いたノアさんは、ニッと笑ったのです。


 私は、その笑顔を見た瞬間、今度は安心して、大泣きしたのです。


「ルナ!!」


 すると、今度は、凛花さんとアリーシャさんと、ロキさんが駆けつけてくれたのです。


 凛花さんは、泣きじゃくる私を抱きしめると、ポンポンと背中を優しく叩いてくれたのです。


「ルナ、遅くなってごめんね。怖かったよね。もう、大丈夫だから。」


 謝るのは、私の方なのです……。


 そう声に出したいのに、泣いてばかりで、上手く言えないのです。


「……ルナ。言いたい事があるんだったら、後にしなさい。まずは、あの魔物を蹴散らすわよ!」


「ええ。野放しにしていたら、雪の妖精族にも、被害が及ぶかもしれませんしね。」


 アリーシャさんと、ロキさんが、剣を構えながら睨んだ先には、さっきよりも鬼の様に、おっかない顔になった、魔物さんがいるのです。


 今にも襲いかかってきそうなのです!


「……ルナ、いける?」


 凛花さんが、魔物さんを睨みつけたまま、私に手を伸ばしてきたのです。


 私は、迷う事なく、力強く頷いたのです。


「はいなのです!!」


 私が弓矢に変身すると、凛花さんは、私を優しく握って、構えたのです。


 落ち込むのは、後なのです!今は、凛花さん達を助けるのです!


 もうこれ以上、仲間が居なくなるのは、嫌なのです!!


 


 


 


 


 


 

 

 


 


 


 


 


 

 

 

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