第45話 雨の矢 (ルナ視点)
────グオオオオオオオッ!!
魔物さんは、耳を押さえたくなるぐらいの、大きな雄叫びを上げながら、全身のお毛けを逆立たせると、赤黒いオーラを纏わせたのです。
さっきとは様子が違うのです。皆も、さらに気を引き締めて構えたのです。
すると、魔物さんは、目の前にいるノアさんを睨みつけると、素早く、鋭い爪を振り下ろしたのです。
ノアさんは、いち早く察知して、素早く後ろに高くジャンプして、避けたのです。
「くらえ!」
そして、そのまま上空から、白魂の足で、魔物さんの頭に思いっきりキックしたのです。
魔物さんは、鼻血を吹き出しながら、怯んだのです。
──ですが、それは一瞬だけなのでした。
魔物さんは、ノアさんを、キッと睨みつけると、1本のお手てで、着地しかけていたノアさんの足を、ガシッと掴み上げたのです。
「なっ……!」
ノアさんが、もがいたのですが、魔物さんのお手ての力が強くて、中々放してくれないのです。
「ノア!」
『ノアさん!』
凛花さんは、私と同時に叫ぶと、素早く炎の矢を放ったのです。
炎の矢は、強いうねりをあげながら、見事に、魔物さんのお腹に直撃したのです。
魔物さんは、苦しそうに雄叫びをあげると、ノアさんの足を放したのです。
「おらあっ!!」
その隙に、ノアさんが白魂の足で、魔物さんの顎を蹴り上げたのです。
大きな魔物さんの身体が、天高く浮いて、宙ぶらりんなのです。
「よし、今よ!」
その時、アリーシャさんが、お猿さんの様に、木を素早くよじ登って、魔物さんのお腹の上にジャンプしたのです。
ちなみに、フックの腕輪は、グレルさんとの戦いで、壊れてしまったらしいのです。
「食らいなさい!!」
バチバチバチバチバチッ!!!
アリーシャさんが、素早く雷の剣を突き立てると、魔物さんは、大きな雷に包まれながら、地面へと落ちていったのです。
「フン!どんなもんよ!」
地面に着地したアリーシャさんが、腕を組み、鼻息を鳴らしながら、ピクピクしている黒焦げの魔物さんを見下ろしたのです。
もう動かないと思っていたのですが、何と、魔物さんは、アリーシャさんを睨みつけると、倒れた姿勢のまま、アリーシャさんの足目掛けて、素早く爪を振り下ろしたのです。
「っ!アリーシャさん!!」
誰よりも早く気付いたロキさんが、高くジャンプして、大きな剣で、魔物さんの腕を1本斬り落としたのです。
魔物さんは、苦しそうに、のたうち回った後、ピタッと動かなくなったのです。
今度こそ、やっつけたのです……?
「最後まで、油断してはいけませんよ。」
「……ごめん。」
素直に謝るアリーシャさんに、ロキさんは、ヨシヨシと頭を撫でたのです。
「どこも怪我がないのは、幸いでしたがね。」
「ちょっと。頭を撫でないでよ。」
そんな二人の横で、力尽きたはずの魔物さんが、スッと立ち上がって、鋭い牙を向けてきたのです。
「……っ!」
ロキさんが、いち早く気付いて、大きな剣で胸の辺りを斬ったのです。
けれど、魔物さんは、少しよろめいただけなのです。
よく見ると、胸の傷が、あっという間に治っていって、ロキさんが斬り落とした筈の腕も、いつの間にか生えていたのです。
「……あの魔物、再生力が高くねーか!?」
ノアさんが、チッと舌打ちをしたのです。
「あんなに雷撃を与えたのに、これじゃあ、埒があかないじゃない。どうすれば良いのよ!」
「……おそらく、一度に、大量のダメージを与えなければ、難しいでしょう。」
一度に、大量のダメージ?
それって、私と凛花さんの場合は、一回に沢山の矢を放つのです?
……そんなの、私に、出来るのです?やろうとした事すら、ないのです。
……でも、私は、オリジン様の力の一部を持つ、使徒の妖精さんなのです。もしかしたら、出来ないことなんて、ないのです!
星降る森でだって、出来ないと思っていた事が、出来たのです!今回だって……。
────矢を、雨の様に────。
その時、頭の中で、誰かの声が響いたのです。星降る森でも聞いた、あの声なのです。
……ひょっとして、この声は……。
────あなたなら、出来る。
謎の声は、そう言い残すと、それっきり聞こえなくなったのです。
『……矢を、雨の様に……。』
そう呟くと、不思議なことに、その言葉のイメージが、湧き上がってきたのです。
『凛花さん!』
「わっ!ど、どうしたの、ルナ?」
『矢を、お空に放つのです!』
凛花さんは、驚きつつも、すぐに頷いて、矢尻をお空へと向けたのです。
そして、水のマナを、私へと注いだのです。
あったかい水に包まれている様な感覚で、何だか心地が良いのです。
私自身も、そんな凛花さんのマナと合体させる様にして、マナを込めたのです。
「これは……!」
凛花さんも、弓矢のマナの異変に気付いたみたいなのです。
『凛花さん、今なのです!』
凛花さんは、私の合図と共に、水の矢を、お空へと放ったのです。
1本の矢は、お空で光り輝くと、何と、何十本にも増えたのです。
「な、何だ!?アレ!」
「矢が、増えた!?」
「ざっと、100本程でしょうか……?どうなっているのですか!?」
ノアさん達が、びっくりしながら、矢を見上げているのです。
水の矢は、雨の様に、一斉に魔物さんに降り注いだのです。
魔物さんは、次から次へと降ってくる矢を浴び続けて、回復も間に合わずに、雄叫びを上げているのです。
グアアアアアアアアアッ!!!
魔物さんは、最後の雄叫びを上げると、足から崩れ落ちていったのです。
そして、力尽きると、砂となって、真っ白なお空へと、消え去ったのです。
「す、すげえ……。すげえじゃん、ルナ!」
ノアさんが、元の姿に戻って、私に駆け寄って、頭をくしゃくしゃと撫でまくったのです。
凛花さんも、私の顎を優しく撫でてくれたのです。気持ち良いのです。
「……やっぱり、ルナは、とてつもなく強い妖精だよ。だから、きっと、ルナの仲間も、どこかで生きているはずだよ。」
「凛花さん……。」
その言葉を聞いて、また、涙が溢れてきたのです。
「……さっき、オリジン様の声が聞こえたのです。私に、力を貸してくれたのです。だから、私も、オリジン様や、仲間が生きていると、信じる事にするのです!」
そうなのです。きっと、さっきの声は、オリジン様なのです。私は、そう信じているのです。
そして、凛花さんの顔を見た途端、言わなくてはいけない事を思い出したのです。
「……ごめんなさいなのです。一人で、飛び出してしまったのです。凛花さん達も、大切な仲間で、家族なのに……。」
凛花さんは、優しく抱き上げると、ニコッと微笑んでくれたのです。
「ルナが無事なら、良いの。」
その時、周りを見回すと、ノアさんや、アリーシャさん、ロキさんも、安心した様な、優しい笑顔だったのです。
それを見た私は、さらに涙が溢れ出たのです。
「うええええんっ!!皆さん、ありがとうなのです〜〜〜〜っ!!」
ノアさんが、笑いながら、また、くしゃっと撫でてきたのです。
「ったく、泣き虫だな、ルナは。」
凛花さんも、クスッと微笑んだのです。
「フフッ。……さあ、戻ろうか。」
泣き止まない私を抱いて、凛花さんたちは、元来た道を歩き出したのです。
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