第15話 繋がる想い、歩み寄る想い (リアン、凛花視点)

【リアン視点】


 凛花達が、ラビーの結界内で眠りについてから、数分が経過した頃だった。


 黒きルカ──デャーラルクの骨の翼が、皮膜に覆われ、頭からは赤い角が生え、ワンピースの中からは、悪魔の様な細い尾が生え始めた。


 恐らく、デャーラルクとルカの身体が、完全に融合し始めているのだろう。魔力も強くなっている気がする。

 これ以上強くなってしまうと、ルカの白魔の力と合わせて、さらに厄介な事になってしまう。


「……アイツらは、上手くいってないのか。」


 凛花達に、後で文句を言われたくない為、なるべく傷付けない様にと配慮しているが、そろそろ限界に近い。


 どうしたものかと、思案しかけたその時。


「──フフ。辛そうな顔をしちゃって。」


 いつの間にか、目と鼻の先に、デャーラルクが移動しており、ニヤニヤしながら、僕の頬を両手で包み、顔をジッと見つめてきた。


 その刹那、下方から龍の形をした水柱が、鋭い牙を向け、こちらへと飛んできた。


 デャーラルクが、咄嗟に僕を突き放して避けると、下方から重い舌打ちが響いてきた。


「──私のリアンに触らないで。」


 怨念の様な低い声で、そう告げたラビーは、鬼の様な顔をし、さらに全身から溢れ出る殺気により、髪の毛先がワナワナと天を向いている。


 ……あんなラビーは初めて見た。オレでもゾッとしてしまう。


 ラビーは、カッと目を開くと、右手をデャーラルクへと向けた。


 すると、先程デャーラルクの前を通り過ぎた水の龍が踵を返し、再び牙を向け、デャーラルクへと突進してきた!


 ラビーの様子の変化に気を取られていたデャーラルクは、反応するのが一瞬遅く、振り返った時には水の龍に突進され、両肩に牙が突き刺さっていた!


「よせ、ラビー!」


 暴走するラビーを、止めようとしたその時。


「……良いんだ。これぐらいはしないと、ルカは戻って来れない。」


 頭上から声が降ってきたと同時に、デャーラルクは魔法で創り上げた、黒き光の槍を手に、龍を攻撃し、牙から脱出した。


 出血する肩を押さえながら、一息吐いた瞬間、デャーラルクは、頭上から降ってきた鋭い爪により、翼ごと背中を切り裂かれ、地面へと叩きつけられる様に落下した!


 驚き、何とか立ちあがろうとするデャーラルクの傍に、一人の人物がストン──と着地した。


 ラビーの傍で倒れていたはずの、マオだ。


「あなた、いつの間に!?傷も完治していないというのに。」


 驚き、心配するラビーに、マオは首を横に振った。


「平気だ。アンタが結界を張ってくれていたから、オレは十分に休めた。

 ……それに、よそ者のアンタ達に任せっぱなしじゃあ、良くないからな。」


 マオは、そう言うと、立ち上がろうとするデャーラルクの頭を、右手で押さえつけ、力強く地面へとめり込ませた。


「ぐうっ……!」


「……ルカ!聞こえているんだろう!?お前は、そんなに柔じゃないだろ!?こんな奴に負けるな!」


「…………マ…………オ……。」


 マオが必死に呼びかけたその時、デャーラルクの口から、掠れる様なルカの声が聞き取れた!


「──ッ!ルカ!!」


 一瞬、マオが押さえつけている手を緩めてしまい、その隙に、ルカの面影が消え去り、再びデャーラルクのニヤけ面が浮かぶ。


 デャーラルクは、身体を素早く、しならせながら起き上がると、右足に黒い破浄魂を纏わせ、マオの腹を力任せに蹴りつけた!


「ガハッ……!」


 体勢を整えさせる暇も与えず、マオの目の前に掌を突きつけ、マナの光線を放とうとしている!


 咄嗟に、僕は漆黒の翼を広げて急加速し、マオを救い上げる事に成功した。


 ……が、直後にデャーラルクが掌の向きを変え、僕へと向け、光線が放たれようとしている!


「オレを……投げてくれ。」


「は?」


「早く!」


「……どうなっても知らないぞ。」


 オレは、マオを思いっきり、デャーラルクへとブン投げた。


「──ッ!?」


 予想だにしていなかったデャーラルクは、驚き、目を見開いている。


「ルカ!!!」


 マオは、そのままデャーラルクの体を抱きつく様な格好で捕えると、そのまま地面へと撃墜した。


 そして、マオは、暴れようとするデャーラルクの四肢を、自身の四肢で押さえつけ、さらに刃物の様な鋭い爪で食い込ませた。

 デャーラルクの顔が、苦痛に満ちていく。


「ルカ!良い加減、さっさと戻って来い!お前を傷つけたくない!」


「…………こな……いで……。」


 すると再び、デャーラルクの口から、ルカの声が聞こえた。

 やはり、マオの読み通り、肉体にダメージを与えると、意識が戻ってくるのか?……いや、それだけではなく、ルカの精神世界で奮闘している、凛花達の影響もあるのかもしれない。


「負けず嫌いで強気のお前が、らしくないじゃないか!」


「う……、うるさ……い……。」


「白魔や黒魔女達が、みんな平和に暮らせる世界を作りたいって、そう願っていたくせに、投げ出すのか!?」


「…………ううっ……。」


「こんな奴に、夢も魂も食われてるんじゃねえよ!!」


「────ッ!!!」



【凛花視点】


「ううっ……!うる……さい……よ……!」


「え……!」


 今まで、ルカの口は固く閉ざされていたのに、突然、唇が動き、声が発せられた!


「うう……ッ!どいつもこいつも……うるさい……!

 どうして……楽に終わらせてくれないのよ……。どうして、傷付けたのに、見捨ててくれないのよ……!どうして……。」


 ルカは、そう堰を切る様に言葉を紡がせ、大粒の涙を流しながら、青空の様な瞳をゆっくりと開き、ようやく私を見てくれた。


「……どうして、そんな手になってまで……、私を助けようとするの……?あなたと私は……関係ないでしょう?」


「関係なくない!私は、ルカに仲間って呼んでもらえるくらい、仲良くなりたい!もっと、この世界の良いところを見せてあげたい!」


「……え……?」


「ルカが今まで、辛い想いをしてきた分、生きていて良かったなって思えるぐらい、幸せな思い出を作ってもらいたい!だから助ける!」


「……凛……花……。」


 ルカの手が、ゆっくりと、私のボロボロの右手へと伸びていき、


 ──そっと、手と手が重なり合った。

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