第16話 暗い夜はあけ、朝日は訪れる

 私の手と、ルカの手が重なり合った瞬間。


 私の治癒のマナが、ようやく、ルカの中へと入り込み始めた。


「……あったかい。」


 初めて見る穏やかな表情で、ルカはクスリと笑うと、治癒のマナを受け入れる様にして目を閉じた。


 そして、カッと目を開くと、髪を白銀色に、瞳を紅色に染めると、私から手を離し、上方へと構えた拳に、黒い破浄魂を纏った。


 ルカが狙いを定めているのは、骨の檻と、さらに、その先の上空にいる、ノアを背後から羽交締めにしているデャーラルク。

 二人は、まだ、こちらの様子に気が付いていないみたいだ。


「「ノア!!」」


 私とルカが、同時に呼びかけると、ノアは気が付き、ハッとすると、ニッと笑った。


「おらあっ!!!」


 そして、デャーラルクも気付き、驚いている隙に、ノアは振り解き、デャーラルクを思いっきりブン投げた!


 ルカが、さらに右拳の破浄魂を一気に、大きく纏わせる。

 破浄魂の重みで、ルカを中心とした地面が震撼し、一瞬で大きく潰れていく。


「……もう、あなたは必要ない!」


 ルカは自らの心の檻を粉々に打ち破り、その勢いのまま、デャーラルクの腹に、重く鋭い拳を入れ、デャーラルクの体は、くの字に折れ曲がっていく!


 その時、ルカの心の色を表した、黒い破浄魂と、さらに髪と瞳の色も、みるみる内に、紫、淡いピンク、橙色の、鮮やかなグラデーション色へと深化した!

 まるで朝陽が昇る直前の空の色みたいで、思わず見惚れてしまう程に、美しい色だった。


「私の体から出て行け!!!」


 ルカは思いっきり腕を伸ばし、夜明け色の拳を突き上げ、デャーラルクの精神体を空の彼方へと殴り飛ばした!


 デャーラルクの体が、夜明けの光に包まれ、燃える様に消滅した。


 それを見届け、ホッとした途端、しばらく夢中になって、忘れかけていた右腕の痛みが一気に押し寄せてきて、私はうずくまってしまった。


「り、凛花さん!」


「凛花!!」


 弓矢から元の姿に戻ったルナと、駆けつけてきたノアが、私のボロボロの右腕を心配そうに見つめていたけど、ルカが首を横に振った。


「この世界で傷を負っても、現実の体には影響はないから、現実に戻れば大丈夫だと思う。……それにまだ、終わっていない。アイツは生きている。ただ私の体から、精神体を追い返しただけ。」


 ルカは、そう告げた後、私、ノア、ルナを順に、真っ直ぐに見ると、再び口を開いた。


「……現実世界でも、一緒に戦ってほしい。私を……みんなを、助けて。」


「当たり前だよ。」


 そう頷き、ノア譲りの笑顔を見せると、ルカは、安心した様に微笑み、その後、視界全体がぼやけてきて、何も見えなくなった。




       *****



「──ッ!」


 ハッとして目を覚まし、起き上がると、目の前にはラビーの後ろ姿があった。


 現実世界に戻ってきたみたいだ。右腕も、さっきの状態が嘘の様に、傷も痛みも全くない。


 隣で起き上がったノアとルナも、私の右腕を見て、私と同様に安堵の表情を浮かべた。


「あれは……!」


 その時、ラビーが何かを見て呟き、ハッとした後、こちらへと振り向き、私達が目を覚ました事を確認すると、微笑んだ。


「……やっぱり、成功したのね。」


 ラビーは、そう言うと、クルッと再び背中を向け、正面を指差した。

 

 すると、その先には──


『ぎゃああああアアアアアアアッ!!!』


 マオに押さえつけられていたデャーラルクが、突然、苦しみ始めたかと思ったらすぐに、ルカの体から魂らしき黒い靄が抜けて出た!


 靄が抜け切った後すぐに、ルカは覚醒し、スッと立ち上がると、マオと向き合った。


「ルカ!戻ったのか?」


「うん。……にしても、随分やってくれたのね。」


 と、ルカは、体のあちこちに付いている傷を見ながら、恨めしそうにマオを睨んだ。


「……す、すまない。本当は傷つけたくなかったんだ。」


 マオが、そう謝ると、強張っていたルカの表情が、悪戯っ子の様な笑みになった。


「分かってる、冗談よ。…………マオ、ありがと。」


 そして最後は、両手を腰の方で組み、優しく微笑むと、マオにお礼を言った。


 それを見て、ホッとしかけたが──


『よくも……、やってくれたなアアアアアアアッ!!!』


 天と地がひっくり返る様な叫び声が響き渡り、私達はハッとして上空を見上げた。


 すると上空には、ルカの体から抜けて出た、デャーラルクの靄の様な魂が、血の様な真っ赤な目だけを具現化させ、こちらを睨みつけている。


「……まだ、終わっていない。」


 そう言った後、ルカは夜明け色の深化の姿にに変化し、身構える。


「……ああ。さっさと終わらせようぜ。」


 その隣に、夕焼け色の深化の姿をしたノアが立ち、身構える。


 私とルナも、互いに顔を見合わせると頷き、弓矢の姿に変化へんげしたルナを手に取ると、弓矢にマナを込めて集中した。


『……お前が……』


 デャーラルクは、私へと紅い瞳を向けると、


『お前さえ居なければアアアアアアアッ!!!』


 狂った様に怒鳴り散らしながら、私へと急降下し、私を飲み込もうとするんばかりに、その闇の様な姿を、ドンドンと肥大化していく。


 私とルナは怯む事なく、真っ直ぐと構えた矢の先に、浄化の白い光を灯し続ける。


 大いなる闇が、小さな白い光を覆い尽くそうとした、その刹那。


 暁と黄昏の光が、永久の闇夜を切り裂く様に、その拳を同時に打ち上げた。


 その刹那。


『ぐううっ……、おのれ……────ッ!!!』


 白い浄化の光が、追い討ちをかける様に、デャーラルクの魂を貫いた。


『──────っ。』


 白い光に包まれたデャーラルクは、その光に溶け込む様に消えていき、やがて天へと吸い込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る