第14話 別れと旅立ち
エアル様に会って、目的を果たした為、森を出ようとしたが、その前に。
「そういえば、ルナをお母さんの元に帰さなきゃね。」
そう言ったが、ルナは何故か返事をせずに、ぼーっとしながら、エアル様のいた場所を見つめている。
「……ルナ?」
心配になって声を掛けると、ルナはびっくりして飛び上がった。
「は、はい!何ですの?」
「何か考え込んでいたけど、どうかしたの?」
ルナは、うーんと唸りながら、小首を傾げている。
「……何だか、前にもエアル様にお会いした事がある様な気がしたのですが、そんな訳、ないですよね?」
「精霊だぞ?そんな簡単に会えるわけないだろ。多分、似た様な子供と間違えたんだよ。」
ノアが、そう言うと、ルナは「そうですよね〜。」と、笑った。
確かに、エアル様に会った事あるなんて、いくらルナが記憶をなくしているとは言え、それはないよね。エアル様だって、ルナの事、何も言っていなかったし。
「……それよりも、ルナ。お母さんの元へ帰ろう。」
ルナは、今度は聞こえていた様で、驚いた後すぐに、しょんぼりした。
「ついていっちゃ、ダメですの?凛花さんに、もっと恩返ししたいのです。」
「恩返しなら、さっき弓矢になってくれただけで十分だよ。すごく助かっちゃった!」
「でも、凛花さん、私が居なくて困らないですの?」
そう言われて、一瞬固まってしまった。
確かに、魔法のコントロールが、まだ定かではないから、本音を言うと、魔法の弓矢を使いたいところだけど……。
「……でも、流石にお母さんも、心配するんじゃない?」
お母さんの名前を出すと、ルナは、途端に悲しそうな表情になり、俯いた。目にはあっという間に涙が溜まり、今にも溢れ出しそう。
「……ママ……。」
すると、ノアが、ルナの前でしゃがむと、ルナの頭をくしゃっと撫でた。
「母ちゃんを悲しませるんじゃないぞ?」
「……でも……。」
「ほら、帰るぞ。」
ノアは、ルナを優しく抱き上げると、踵を返した。ルナは、まだ少し迷っている様子だが、とりあえず、お母さんの元へ帰さないと。
私たちは、森の泉まで戻ることにした。
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森の泉に戻ると、さっきまでとは、まるで違う光景を目の当たりにし、私たちは驚いた。
枯れかけ、茶色く澱んでいたあの泉が、底が見える程に透き通っており、太陽の光を反射して、キラキラと光っていた。泉の周りには、蛍の様に、風のマナが舞っている。
そして、その泉のほとりには、ルナのお母さんが、座って私達を見つめていた。まるで、帰りを待っていたかの様だ。
ルナは、お母さんと目が合うと、ギクッと肩を震わせた。恐らく、何も言わずに、私たちの所へ行ってしまったのだろう。
しかし、お母さんの目を見ていると、特に怒っている様子はなく、寧ろ寂しそうな目をしている様に見えた。
ルナも、そんなお母さんの様子に気付き、少し不思議そうにしながらも、目の前まで行き、頭を下げた。
「……ママ、勝手に離れちゃって、ごめんなさいですの。」
お母さんは、ルナに怒らずに、寂しそうに喉を鳴らしながら、何かを言っている。
「…………え?な、何で分かったのです?」
ルナは、目を見開かせ、驚いていた。
「ん?母ちゃん、何て言ったんだ?」
「私が、凛花さん達について行きたいって思っていたの、分かっていたみたいなのです。それで、私がちゃんと凛花さんの役に立てるのか、試したそうなのです。」
だから、怒る様子もなく、ルナが帰ってくるのを待っていたんだ。
お母さんは、再びルナに何かを言っている。その瞳は、悲しみで揺れている。
「…………良いんですの?」
ルナも、悲しそうにお母さんを見上げている。
そして、ルナは、鼻水を啜りながら、私たちに向き合った。
「……ママは、行ってらっしゃいって、言ってくれたのです。いつか、私がなくした記憶を思い出して、故郷に帰って、仲間と暮らすのを、ママは望んでいたのです。だから、旅に出れば、故郷に辿り着けるんじゃないかって。」
お母さんを見ると、お母さんの目からも、涙がこぼれ落ちていた。
「ママ!!」
ルナは、大粒の涙をボロボロと零しながら、お母さんに抱きついた。
お母さんも、寂しそうに喉を鳴らしながら、ルナに擦り寄っている。
「……私は、故郷に帰っても、またママに会いに行くのです!約束するのです!だから、お別れじゃないのです!」
わんわんと泣き叫ぶルナを見て、私も目頭が熱くなり、思わず涙ぐんだ。
10年間、ずっと育ててくれたお母さんと、しばらく会えなくなるんだ。そう思うと、さらに涙が込み上げてきた。
しばらくの間、森中に、ルナの泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
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陽が沈んだ頃、私たちは、森の入り口で、ルナのお母さんに見送ってもらった。
「ママ!行ってくるのです!また会いに行くのですからね!」
私たちが手を振ると、お母さんは、優しく微笑みながら、いつまでも私たちのことを見守ってくれた。
「……にしても、あんな優しい魔物も居るんだね。」
「確かに。……ルナ、良い母ちゃんに拾われたんだな!」
「はいなのです!ママは、本当に優しいママだったのです!」
私の肩の上にいるルナが、楽しそうな笑顔で、誇らしげにそう言った。
そんなルナを見て、クスッと笑いながら、ふと空を見上げた。
夜空へと変化しつつある空には、二つの月が浮かび上がっている。片方は半月で、もう片方は三日月だ。
「もう、暗くなるから、今日は、ここで休まない?」
「そうだな。この先に、大きな街があるが、まだ距離があるしな。」
私は、懐から、あの白いキューブを取り出した。実は森に行く前に、ノアには説明したが、ルナは知らないので、キョトンとしている。
「それは、何ですの?」
「これはね、いつでもハウスって言うんだよ。」
「そんな名前だったのか?」
「いや、今つけた。何か、名前あった方が良いかなって。」
私は、そう言うと、キューブにマナを注ぎ、放り投げた。
すると、キューブは瞬く間にオレンジの屋根のお家に変化し、ルナは目ん玉が飛び出るのかと思うぐらいに、びっくり仰天した。
「ええーーーーーーーーっ!!!」
パクパクと口を開くルナを連れて、私たちは家に入った。
ルナは、家中の家具を見回し、まるでテーマパークにやって来た子供の様に、目をキラキラとさせている。
「こ、これも、魔女の力なのですの?見たことのない物もあるですの!」
そういえば、リースさんも同じ事を言ってたっけ。機械とかは、この世界には、あまり馴染みがないのかも。
そう考えていると、私のお腹がギュ〜ッと鳴った。そろそろご飯にしよう!
「さてと、何を作ろっかなー。」
そういえば、冷蔵庫に何が入ってるのか、まだ確認していなかったっけ。
私は、冷蔵庫の戸を開け、中を確認してみたが……。
「………………か、からっぽ?」
何と、冷蔵庫の中身は、何も入っていなかった。パーシャルの中や、冷凍庫も開けてみたが、すっからかんだ。
「な、何で?………………はっ!!」
私は、ある事に気付き、頭の中に稲妻が走ったかの様な衝撃に襲われた。
この家、家具はついてきたが、よくよく考えてみると、
この家の致命的な誤算に気付き、私は愕然とし、膝から崩れ落ちた。虚しくも、私のお腹は鳴り続けている。
「うう……っ。お腹空いたよ……。」
「ええ!ご飯がないのですか!?」
私の様子を見たルナが、察した様で、がっくりと肩を落としている。
「待ってろ!今何か食べる物とってくるから!」
ノアは、そう言うと、颯爽と外へと出ていった。
ノア、何て優しい……。と、一瞬思ったが、昼での出来事を思い出し、嫌な予感がしてきた。
「よし!とってきたぞ!」
早っ!!
まだ一分も経たないうちに、ノアは戻ってきたが、その肩には、狼の魔物の死体をぶらさげている。
ノアは、爽やかな笑顔で、魔物の死体を私たちに突き出した。
「さあ、これを焼いて、皆で食おうぜ!!」
それを見た私とルナは、みるみる内に顔を青ざめた。
「絶対に嫌ーーーーーーーーーーっ!!!」
私の泣き叫ぶ声が、いつでもハウスを通り越して、広大な夜空にまで鳴り響いた。
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