第13話 エアル様と、不穏な影
しばらくして、眩しい光が消えると、私たちは、恐る恐る目を開けた。
すると、目の前の翡翠の結晶が、なくなっており、代わりに華奢な少女の姿があった。
瞳は翡翠の様に、キラキラとした深い緑色。若草色の髪は、サイドダウンの緩い三つ編みをしている。
服は、ミニウエンディングドレスの様で、若草色に淡く光っている。
そして、背中には四枚の大きく薄い羽を生やしており、まるで絵本で見る妖精みたいだ。
私たちは、可愛くも神秘的な雰囲気を放つ、目の前の人物に、息をのみながら見惚れていた。
『……あなたが、私を目覚めさせたの?』
そよ風の様な心地良い声で、少女に、そう問いかけられた私は、ハッとして我に返ると、何とか頷いた。
「は、はい!あなたが、エアル様ですか?」
『そう。私が、風の精霊、エアルよ。』
エアル様は、目を細め、優しい眼差しで微笑んだ。私よりも少し年下に見えるのに、精霊様だからなのか、厳かな雰囲気を醸し出している。
『礼を言います。10年間、何者かによって、私たち精霊は、眠らされてしまったのですから。ようやく、自由の身になれたわ。』
「……眠らされていた?」
精霊が眠ってしまったのは、オリジン様が居なくなって、世界中のマナが弱まったせいだと思っていた。
『私たちは、何者かによって、10年間、結晶の中で眠らされ、マナを吸われ続けていました。そして、吸収したマナは何者かにより、具現化され、結晶の番人へと変化させ、近づく者を排除しようとしました。』
あの黒鳥は、エアル様のマナを使って、創られた魔物の様だ。
「……誰が、何の為に……?」
エアル様は、暗い表情で、首を横に振った。
『それは、分かりません。……ただ、我らが主、オリジン様が居なくなった事と、関係がある様に思えます。おそらく、オリジン様も、何者かによって、消されてしまったのではないかと。』
私たちは、ただただ、驚きながら話を聞くしかなかった。
そんな事までするなんて、一体、何の目的で……。
『それと。』
エアル様は、俯いていた視線を、私へと向けた。
『精霊を封印した者と、魔女の里を滅ぼした者は、恐らく、同一人物でしょう。』
「ど、どういう事ですか?」
『宝珠・アルマの封印は、強力なマナを施してあります。かの者は、この世界全体のマナを弱らせる事で、アルマの封印を解くことが出来ると考えたのでしょう。鍵が行方知らずとなった為、この様な禁忌を犯したのでしょう。』
私は、ゾッとした。犯人は、多くの魔女を殺害しただけでなく、オリジン様も消し、さらに四大精霊を封印し、この世界のマナを弱らせていたのだ。
そこまでして、アルマを手に入れたいだなんて……。一体、何の為に……?
それに、アルマの封印を解く鍵を持つ私とも、いずれ顔を合わせてしまうかもしれない。そうしたら、戦いは避けられない。
……私たちが、勝てるのだろうか?そんなヤバすぎる奴に……。
私は、段々と不安が込み上げてきて、ふと、お守りの様に大切に持っていた、アルマの鍵を取り出し、じっと見つめた。
『……えぇっ!?』
すると、エアル様が、ひっくり返ったかの様な声で驚き、アルマの鍵を穴が開くほど凝視していた。
『は!?え!?な、何で持ってるの!?それ、鍵だよね!?』
厳かな雰囲気だったエアル様は、急に見た目通りの少女の様に、顔を真っ赤にし、あわあわし始めた。精霊様なのに、こんなに取り乱すのかと、私は思わず二度見して驚いた。
……そういえば、鍵が目的でエアル様に会いにきたのに、まだ話していなかったんだっけ。
隣にいた、ノアとルナも、鍵をまじまじと見つめている。
「ん?鍵?これがか?……てゆーか、凛花、あの伝説のアルマを手に入れたいのか?」
「えーー!!凛花さん、あのアルマの鍵をお持ちなのですの!?」
そういえば、ノアにも旅の目的を話していなかったんだっけ。元々私の旅の護衛として、ついてきたんだもんね。
私は、3人に、違う世界から来たことと、旅の目的について話した。
話し終わると、3人は、先程よりも、口をあんぐりと開けて、驚いていた。特にエアル様。
『き、気が付いたら、この世界に来たというの!?しかも、物心ついた頃から、鍵を持っていた!?どういう事!?ねえ、どういう事!?』
エアル様は、私の両肩をつかみ、ガクガクと揺さぶりながら聞いてきた。
さっきまで女神様のようだと思っていたけど、意外と中身は見た目通りの子供なのか!?
「わ、分かりませんよ!……と、とにかく、この鍵を完全な物にしたいんです!精霊様の力を借りたいんです!」
大きく揺さぶられながらも、何とか、そう訴えると、エアル様は、ハッとし、ようやく私の肩から手を放した。
そして、深呼吸すると、元の厳かな雰囲気に戻った。
『……そ、そうですね。あなたは、私を助けてくれたのだし、力を借さない訳にはいかないわよね。少々取り乱してしまったわ。』
少々どころか、かなりだけど。
『それでは、鍵を掲げなさい。』
私は、言われた通り、鍵を頭上に掲げた。
エアル様は、鍵に向けて手の平を向けると、自身のマナを注ぎ込んだ。
すると───────。
「鍵に色が!!」
なんと、花弁の様にくっついている、4つの宝石のうちの一つが、翡翠色に染まったのだ。
『それと、あなたにも、風のマナを分け与えるわ。』
エアル様は、そう言うと、私に向けて、マナを注いだ。
何となくだけど、体が少し軽くなった様な気がした。
『これで、あなたは、風のマナも操れる様になったわ。風は自由だから、使いこなせば、色々な事が出来る様になると思うわ。』
「おお!凄いじゃん、凛花!」
ノアは、ガッツポーズをし、喜んでくれた。
でも、実際に使ってみないと、よく分からないかも。今度、魔物と遭遇した時に、使ってみようかな。
エアル様は、私たちの顔を順に見やり、優しく微笑んだ。
『さて、私は、再び世界に風のマナを循環させないと。どうか、他の精霊たちも、助けて下さいね。そして、アルマを狙う悪しき者からも、気を付けて下さい。あなた方に、風の加護があらんことを。』
エアル様は、そう言うと、目を閉じ、蜃気楼の様に揺らめきながら消えていった。
それと同時に、この森に全く吹いていなかった風が、吹き始めた。
とても心地よく、肌を優しく撫でてくれている様だ。
「お!涼しくなったな。」
「きっと、エアル様が活動を再開したからなのです!」
そして、森中に風のマナが溢れると、枯れかけていた草花や木々が、みるみる内に再生され、風のマナが蛍の様に、あちこちに浮かび始め、森はあっという間に、活気を取り戻した。
「……こんなに綺麗な森だったんだね。」
私は、胸いっぱいに、自然豊かな空気を吸い込むと、新鮮な気持ちで、真のエアルの森を見回していた。
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