第12話 白き陽炎
ノアは白魂を、両手に纏わせると、爪をたてながら黒鳥に向かって走り出した。
黒鳥は、左翼を広げると、甲高い雄叫びをあげた。
すると────────。
ゴオーーーーーーーーーーッ!!!
「なっ……!」
ノアを中心に、巨大な黒い竜巻が現れ、ノアはなす術もなく、飲み込まれてしまった。
「ノア!!」
『ノアさん!!』
まるで洗濯機に放り込まれたかの様に、ノアがもみくちゃに回転されている。何とかしないと……!
しかし、矢で黒鳥を射抜こうにも、巨大な竜巻の向こう側に居るので、当たりそうにもない。
かと言って、竜巻を矢で破壊しても、中にいるノアも巻き込まれて、タダでは済まないかもしれない。
弓矢の構えを解き、どうすれば良いのかと、思索していた時だった。
「──────か!!」
凄まじい爆風の音の中から、微かにノアの声がし、ハッとして顔を上げる。
竜巻の中では、ノアが全身に白魂を纏い、耐えながら、何かを叫んでいた。
私は、耳を澄まし、集中した。
「───凛花!矢で竜巻を消してくれ!!」
そう聞き取れた。だけど……!
「ノアも巻き込まれるかもしれない!!」
「オレは平気だ!!」
ノアは、そう言うが、本当に無傷では済まないかもしれない。私が弓矢を再び構えようか迷っていたが、
「凛花、信じてくれ!!」
ノアの、真っ直ぐに強く言い放った言葉を聞いて、私はハッとすると、やがて頷いた。
「…………分かった。」
私は決心すると、再び矢を構え、マナを集中させた。
どっちにしろ、これしか方法がない。
ノアを信じよう。
矢尻の先の、光の球を、最初に放った時よりも、大きく作った。
『今なのです!!』
ルナの合図と共に、光の矢を放った。
ドオーーーーーーーーンッ!!!
矢が竜巻に当たると、竜巻は爆発し、辺りは煙に包まれた。
「ノア!!!」
煙の中から、天高く吹っ飛ばされたノアの姿があった。
ノアは、再び白魂を全身に纏うと、空中で体勢を整え、紅い瞳で黒鳥を見据えた。
太陽を背にするノアは、陽炎の様に、ゆらゆらと揺れながら、真っ白に輝いている。
「うおおおおおおおっ!!!」
そして、一気に急降下し、黒鳥の脳天を、拳で弾丸の様に貫き、そのまま地面へと強く叩きつけた。
黒鳥の立っていた場所は、まるで隕石が落ちてきたかの様な衝撃で、大きなクレーターと化していた。
黒鳥は、断末魔を上げる暇もなく、地面に突っ伏したまま、もう動く気配はなく、黒いモヤと化し、空の彼方へと消え去った。
私は、それを見届けると、気を付けながらクレーターを滑り降り、ノアの元へと駆け寄った。
「ノア!!」
ノアは、あちこちから血を流しながら、膝をつき、ひどく
やっぱり、さっきの爆発で、かなりダメージを受けてしまったのかと、急いで回復魔法を施した。
「……あ〜あ。さっきの魔物、食ってみたかったんだけどな。消えちゃったよ。」
ノアは、顔を上げると、非常に残念そうな表情で、ため息を吐いた。……傷に関しては、全然へっちゃらの様だ。
心配するだけ損したかと思ったが、まあ、大事に至らなくて、良かった。
「……ん?何、笑ってんだよ。」
「いや、何だかノアらしいなって。」
クスッと笑う私を、ノアは不思議そうに見つめていた。
「……ん?よく分からないが、まあ良いや。そんな事より、凛花。さっきは、オレの事を信じてくれて、ありがとな!」
不意に爽やかな笑顔で、ニッと笑うノアに、私は少し照れて、目を逸らした。
「……う、うん、別に。あの時は、ノアを信じるしかないかなって、思ったから。」
恥ずかしさのあまり、少し冷たい返事をしてしまった気がするが、ノアは特に気にする様子はなく、私の左下に視線を落とした。
「にしても、ルナも凄いじゃねーか!弓矢に変身しちまってよ!」
いつの間にか元の姿に戻っていたルナは、両手で腰を当て、胸を張り、誇らしげに鼻を鳴らした。
「えっへんなのです!記憶がないので、詳しくは分かりませんが、アレが、私の能力なのです!……と言っても、魔女でないと、扱えないのですが。」
「そうなのか。益々、謎だらけな奴だな。武器に化ける毛むくじゃらな妖精なんて、聞いた事もないな。」
ノアは、腕を組み、眉間に皺をよせながら、ルナをじっと見つめている。
「まあ、確かに、気になるけど、今ここで考えていても、仕方ないんじゃない?旅をしている内に、似たような妖精に会えるかもしれないし。今は、エアル様を起こそうよ。」
「……それもそうか。」
私たちは、ノアに運んでもらい、クレーターから出ると、エアル様の眠る、巨大な翡翠の結晶の前に立った。
確か、リースさんの話だと、これにマナを注げば、エアル様は目覚めるかもって言ってたっけ。
私は、両手で結晶に触れながら、目を閉じ、マナを集中させた。
すると、結晶が、目も開けられない程に、眩しい光を放ち始め、私たちは、咄嗟に目を固く瞑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます