第11話 魔法の弓矢

 しばらく、蒸し暑い森の中を、汗だくになりながら歩き続けていると、ようやく遠くの前方に、開けた場所が見えてきた。

 さらに、そこの中心には、キラリと光る何かがある。


 目を凝らし、よく見てみると、それは、巨大な翡翠の結晶だった。


 遠くから見ても、異様な程にキラキラと輝いていて、不思議なオーラも感じる。恐らくあの中に、エアル様が眠っているに違いない。


 私は、そう確信すると、ノアに目配せをし、慎重に結晶の元へと近づいて行った。


 すると、上空から、耳をつんざく様な甲高い声が聞こえ、私は思わず耳を塞いだ。


 しばらくして声が止むと、上空から、漆黒の巨大な鳥が、結晶の前に舞い降りてきた。


「あ、あれが、ルナの言っていた鳥の魔物!?」


「ああ。気を付けろよ!」


 何て大きい……!全長は森の木と同じぐらいだ。


 漆黒の鳥は、冷たい濃紺な瞳で、私達を捉えると、巨大な翼を広げ、私達に向かって大きく羽ばたかせた。


 すると、翼から、黒い風の刃が飛んできた。


「危ない!!」


 ノアが、私を抱き抱えると、ジャンプして避けた。


 バキバキバキッ!!


 先程まで私達の後ろにあった木々が、風の刃によって、真っ二つに切り裂かれ、地面に倒れていった。


 私は、それを見てゾッとした。ノアが避けてくれなかったら、あの木と共に、真っ二つになるところだった……。


「ぴぎぃーーーーっ!!」


 その時、聞き覚えのある叫び声がしたと思ったら、肩に何かが飛び乗ってきた。


「ル、ルナ!?」


 私は、一瞬目を疑った。そこには、何故かルナが、泣きながら私の肩にしがみついていたからだ。


「な、何でここに……!」


「凛花、とにかく、モフ助と一緒に、ここに居ろ。」


 ノアは、そう言うと、白魂を右手に纏わせ、黒鳥に向かって走り出した。


 黒鳥がノアに風の刃を飛ばすが、ノアは、スピードを緩めることなく、走りながら避けていく。


「うおら!!」


 そして、力強いパンチを一撃、巨大な黒鳥の腹に食らわせる。

 黒鳥は、血反吐を吐きながら、くの字に身体を折り曲げており、苦しそうだ。


「す、すごいですの……!」


 肩の上に乗るルナが、私と共に見惚れていた。


 ノアが、仰け反る黒鳥に、もう一発パンチをお見舞いしようとしたが、黒鳥は、翼を広げ、空高く舞い上がった。


 ノアが、すかさず木を駆け登り、蹴り落とそうとするが、黒鳥に届かず、そのまま地面へと落下していこうとする。


 そんなノアに、黒鳥は、上空から風の刃を飛ばし、落下していくノアの腕や脚を、容赦なく斬りつけていった。


「チッ……!」


「ノア!!」


 ノアは、クルリと後ろに宙返りし、体勢を整えると、地面に着地し、舌打ちしながら上空の黒鳥を睨みつけた。


「クソ!空を飛ぶのが厄介だな……!」


 それを聞いた私は、両手を黒鳥に向けると、光の球を何発か放った。


 しかし、まだ使い慣れていないせいか、中々黒鳥に当たらない。ああ!悔しい!!


「くっ!せめて、弓矢さえあれば……!」


 私は、弓道部に入っており、しかも全国大会にも出場している。だから弓矢には自信があるんだけど、リリー村には無かったから、今は持っていない。


「え!凛花さん、弓矢を使えるですの!?」


「う、うん。」


 大きな目を丸くしながら、突然そう聞いてきたルナに、私は驚きながら頷いた。


「分かったですの!」


 何が分かったのか、分からないが、ルナは笑顔でそう言うと、ジャンプした。


 すると、ルナの身体が光り出した。


「な、何だ?」


 風の刃を避けながら、ノアも異変に気付くと、驚きながら、こちらを見ている。


 光は、形を変えると、やがて純白のモフモフな弓矢へと変化し、呆然としている私の手に収まった。


「…………え?な、何、これ?」


『凛花さん!』


 すると、弓矢からルナの声がし、私は驚いて肩をビクッと揺らした。


『私に、マナを注ぎながら、矢を放って下さい!この姿の私は、魔女である凛花さんにしか扱えません!さあ、早く!』


 何が何だか分からないが、ええい、ままよ!


 私は、弓矢を強く握りしめると、黒鳥に向けて、矢を構え、マナを集中させた。


 マナが矢に吸い込まれる様な感覚がすると、矢尻の先に、白い光の球が生まれた。


『今なのです!』


 ルナの合図と共に、私は光の矢を放った。


 すると、矢は光の帯を纏いながら、真っ直ぐと黒鳥の右翼を貫き、破壊した。


 黒鳥が、苦しそうに叫びながら、クルクルと地面に向かって落下し、巨体を地面に叩きつけた。


 一発しか当てていないのに、何てすごい威力……!


 私は、呆然としながら、のたうち回る黒鳥を見つめていた。


 ノアは、私に振り返ると、笑いながら親指を立てた。


「ナイスだ、凛花!!」


 すると、黒鳥は、何とか立ち上がり、眼光鋭く、ノアを睨みつけている。片翼を失ったというのに、まだ戦える様だ。


 ノアは、ニッと笑うと、白魂を拳に纏わせ、身構えた。








 


 

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