第10話 モフモフな妖精、ルナ

「……あ、ちなみに、私の名前は、“ルナ”っていうですの。ママがつけてくれたのです。記憶はないのですが、多分妖精族の一種だろうって、ママが言っていたのです。」


 突然の自己紹介に、少し驚いたが、そういえば、この子の名前、まだ聞いていなかったんだっけ。


 ノアが、訝しげな目で、じーっとルナを見下ろしている。


「妖精族〜?確かに、妖精族は色んな種類がいるが、お前みたいな毛むくじゃらな妖精、見たことないぜ。」


「毛むくじゃらとは、何ですの!!」


 ヒートアップしているルナに、まあまあと、なだめながら、モフモフな毛を優しく撫でて、落ち着かせた。

 ルナは、すごく気持ちよさそうに、うっとりしている。


「……それで、エアル様の所に、どうして行ってはいけないの?」


「……実は、エアル様が眠っている場所に、妙な魔物が現れたのです。」


「妙な魔物?」


 ルナは、頷くと、眉をひそめながら、説明し始めた。


 今朝、ルナが、母親と共に森の中を散歩していた時のことだった。


 たまにはと、森の奥まで行ってみると、エアル様が眠る場所に、黒いモヤがたちこめていたらしい。


 不思議に思ったルナは、恐る恐るモヤに手を伸ばし、触れてみたそうだ。


 すると、途端にモヤが一箇所に集まり、竜巻の様に大きく唸り出すと、やがて巨大な黒い鳥の魔物へと変化した。


 そして、鳥の魔物が、ルナに攻撃しようとし、母親が庇って、大怪我を負ってしまった。


 何とかその場から離れた後、薬草を探していたルナが私達と出会い、そして現在に至る。


「黒いモヤが、魔物に変わった?そんな事ってあるの?」


 ノアは、腕を組み、難しそうな顔をしながら唸った。


「……いや。そんな魔物に出会ったことないし、聞いたこともないな。」


「私もですの。しかも、私を庇ったからとは言え、ママが一撃で死にかけたのです。今は、近づかない方が良いのです!」


 母親も、心配そうな目で、私達を見つめている。


「……でも……。」


 私は、その話を聞いて不安になり、俯いた。


 そんなヤバそうな魔物が、よりにもよって、エアル様の所にいるなんて……!


 いくらノアが居ても、さっきの狼の魔物達の様にはいかないかもしれないし、私も、まだ実戦には慣れていないし……。


 ここは、一旦引き返した方が……。


「大丈夫だろ。」


 後ろめたい事を考えていると、ノアが、あっさりと、そう言ったので、私は驚いてノアを凝視した。


「え!?」


「なに暗い顔してんだよ。オレの白魂と、お前の魔法があれば、何とかなるだろ。それに、その魔物は、ずっとその場を居座り続けていると思う。引き返しても意味が無いと思うぜ。」


 ノアの、その自信は、一体どこから来るのだろう。何も考えていない様にも見えるが、確かに、ノアの言う通り、黒い鳥の魔物は、森の奥を根城にしている可能性もある。


 ……それに、怖いけど、この先も、そんな魔物に出会うかもしれないし、ここで立ち止まっていては、良くないか。


 私は一度、深呼吸すると、意を決して、ノアに頷いた。


「……分かった。でも、危なそうだったら、一旦逃げるよ?いい?」


 ノアは、ニッと笑い、頷いた。


「ああ。行ってみないと、何も始まらないしな。それに、何かあっても、オレが護るよ。」


 爽やかな笑顔で、そう言うノアに、私は一瞬ドキッとした。


 ノアって、サラリと、そういう事言うんだよな……。


 そう思い、顔を少し赤らめながら目を逸らすと、ノアはキョトンとした顔で、私を見つめていた。


「え!行くですの!?」


 すると、ソプラノの声を上げ、驚くルナは、私の肩に飛び乗ると、心配そうに見つめてきた。


「……うん。とりあえず、行ってみないと。」


「そ、それなら、私も行くですの!!」


「なーに言ってんだ。モフモフなチビ助に、何が出来るんだ。」


 ノアが呆れたような目で見下ろすと、ルナは、頬をお餅の様に膨らませた。


「モフモフなチビ助ではないのです!ルナですの!」


「モフだろうが何だろうが、危ねえから、ついてくるんじゃねーぞ。ほら、凛花、行くぞ。」


「う、うん。……ごめんね、ルナちゃん。じゃあね。」


 ノアに腕を引っ張られ、私はとりあえず、納得していない様子のルナと、母親に手を振り、お別れした。


 


 


 

 


 


 

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