第89話 合流 (凛花・ライラ視点)

【凛花視点】


 カルマの分裂体によって、首筋に鋭利な鉤爪を突き当てられていたが、突如、天井が爆発し、次々と崩れ落ちてきた!


「きゃあっ!?」


「チッ!何が起きたんだ。」


 カルマの分裂体は、舌打ちをすると、私を置いて、隅の方へとジャンプして、避難してしまった。


 容赦なく落ちてくる瓦礫を見て、もうダメかと思い、目を瞑ったその時。


「────ッ!凛花!!」


「……え?」


 ノアの声が聞こえたので、再び上方を見上げた。


 すると、ノアが空中で殴ったり蹴ったりして、いくつもの瓦礫を粉々に砕きながら、こちらへと落ちてきていた!


 そして、ストンッと目の前に着地し、顔を上げると、いつも通りに、ニッと笑いながら話しかけてきた。


「凛花!やっと会えたな!怪我とかしていないか?平気か?」


 その笑顔を見て、その声を聞いた瞬間、反射的にどっと涙が溢れてきた。


「お、おい!どうした!?もしかして、怪我とか──。」


「ううん、違うの……。なんか、物凄く安心しちゃって……。」


 少しの間だったけど、ノアが傍に居ないだけで、こんなに不安になっていたなんて、自分でも意外に思った。


 止めどなく溢れる涙を拭い続けている間に、横から「ノアさーーん!!」と、ルナも泣きながらノアの胸に抱きついた。


 ノアは、ルナの頭を、わしゃわしゃと撫でまくった後、私の頭にも、ポンと優しく手を置き、私の事も撫でてくれた。


「よしよし。よく頑張ったな。」


「うん……。蓮桜が居たから──」


 と言いかけて、蓮桜の事を思い出した私は、ハッとして、蓮桜が立っていた場所に顔を向ける。


 すると案の定、そこには────。




【ライラ視点】


 大爆発し、下へと落下した私を、誰かが抱きとめてくれた。


 もしかしてと思いつつも、恐る恐る目を開けると、目の前には────。


「お嬢!大丈夫か?」


 今、一番会いたかった人物の顔が、目と鼻の先にあった!


 こ、これは!きっと!運命だわ!!


「蓮桜ーーーーーーっ!!」


「ぐっ……!お、お嬢!き、傷口が、開いてしまう……!」


 わたくしは、興奮しながら、思わず強く抱きしめてしまった後、ハッとして、慌てて蓮桜から離れた。


 よく見ると、蓮桜の脇腹には、蓮桜の力で創られた、紫の妖光のお札が、包帯代わりに貼られていた!


「れ、蓮桜!怪我しているの!?」


「……お嬢、それよりも早く、ここから離れた方が良い。」


「え?」


 その時、私の背後に、誰かの気配を感じ、振り返ろうとしたけれど、同時に蓮桜が、私をお姫様抱っこして、素早く後ろへとジャンプする。


 突然の事に、驚きつつも、蓮桜にお姫様抱っこされた事が、あまりにも嬉しくて、つい口元がニヤけてしまった。


 蓮桜は、着地し、私の顔を見ると、少しギョッとしていたけれど、すぐに真剣な顔つきに変わる。


「お嬢、何でニヤけているのか知らんが、今斬られそうになったんだぞ。」


「……え?」


 蓮桜が向けた視線の先を辿ると、そこには黒いポニーテールの男がいて、両手の先の、長い鉤爪を深々と地面に突き刺していた。


 ……というか、その場所は、丁度私が立っていた場所だったわ!


 そう気付いた途端に、恐ろしくなり、ゾワッと全身の毛がよだつ。


 男が舌打ちをし、私をギロリと睨みつけた後、中央部分の瓦礫へと、冷めた視線を送りつける。


 その方向を見下ろすと、そこには、プスプスと焼き焦げたアレクシアが、大の字で埋もれていた。


 爆発したせいで、服も焼け焦げて、スッポンポンだけど、幸いにも大事なところは瓦礫のお陰で、上手いこと隠せているみたいだわ。


「ううっ……。────様……。」


 アレクシアは、白目を向き、口から煙を吐きながら、寝言を呟いた。


 誰かの名前を呟いていたみたいだけど、ここからだと、よく聞き取れなかったわ。


「な、何?あの人!黒焦げじゃん!」


「しかも、スッポンポンなのです!」


 左方向から、聞き覚えのある声がしたと思ったら、凛花とルナが、目を丸くしながら、アレクシアを指差していた。


 二人も無事だったのね!良かったわ……。蓮桜が護ってくれていたのかしら。やはり蓮桜は、世界一カッコいいですわ!


「二人とも女なんだから、あまり見ない方が良いぞ!」


 ノアが、そう言いながら、アレクシアを二人の視界に入れない様にと、両手を広げて立ちはだかった。


 すると、その時、ノアの背後に、さっきのポニーテールの男と、もう一人全く同じ背格好をした男が一瞬で現れて、鋭い鉤爪を振り上げた。


 凛花もハッとし、叫ぼうとしたその時。


「そろそろオレの出番だな!」


 ノアがニッと笑い、素早く振り返ると、男の鉤爪を、何と素手で受け止めたわ!


「「何っ!?」」


 同じ顔の二人が、同時に驚き、もう片方の鉤爪を振り翳そうとしたけれど、ノアがすかさず、掴んだ鉤爪ごと、二人を持ち上げると、


「うおらあああああああああッ!!!」


 と、力強くぶん投げた。


「チッ……!」


 男二人は、空中でクルッと一回転して、体勢を立て直すと、綺麗に着地した。


「……あのお方と同族というだけあって、やはり一筋縄ではいかないようだ。……ならば、こちらは数で戦った方が有利だな。」


 左側に立っている男は、そう言うと、フーッと大きく息を吐き、何やら集中し始めた。


 すると、男の体が、漆黒に輝き、体から全く同じ男が一人、二人と、まるで軟体動物の様に分裂し始めたわ!……正直、ちょっと気持ち悪いですわ……。


「うわっ!何か増えたぞ!」


「あいつ、カルマっていうんだけど、自分の体を分裂出来るんだって!」


 ギョッとしながらも、どこかワクワクしているノアに、凛花がそう説明してくれた。


 それじゃあ、さっきの全く同じ姿をしていた男も、カルマの分裂体だったのね。


 そう納得している間に、カルマの数が、数十人と増えていき、もはやどれが本物のカルマなのか、分からなくなってきたわ!


「お嬢、下がっていてくれ!」


 蓮桜が一歩前に出て、私を護るように、片腕をバッと広げながら、そう言ってくれた。


「え、ええ……。」


 その大きな背中に、少しドキドキしつつも、怪我をしている脇腹の事を思い出し、心配になってきた。


 すると、その視線に気が付いたのか、蓮桜は少し振り返り、


「……これぐらい、何て事はない。」


 と、フッと軽く笑みを残し、再び正面へと視線を戻した。


 蓮桜の美笑を見た瞬間、ズキュンッと、胸に衝撃が走ったわ!


 ……やっぱり、カッコいいわ!私は、蓮桜の事を信じるわ!!


 だから────。


「……蓮桜、ここから出れたら、一つお願いがあるの。」


「お願い?」


「ええ!だから、絶対に勝つのよ!」


「……ああ、当たり前だ。……それに、お嬢の頼みとあれば、聞くさ。」


 ────な、なななななな何でも!!?


 それじゃあ!あんな事や、こ〜んな事も…………、じゃなかったわ!


 とにかく今、蓮桜に対するお願い事は、一つ!


 そのたった一つのお願いを、何でも聞いてくれると言ってくれたわ!


「蓮桜、信じているわ!」


「ああ。」


 蓮桜は、振り返らずに頷くと、無数の鋭い鉤爪を前にしながらも、いつも通りクールに身構えた。

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