第90話 無限湧き (ノア・蓮桜視点)

【ノア視点】


 何十人にも増え続けたカルマ達が皆、鋭い鉤爪を振り上げながら、オレと凛花へと、ジリジリと近づいてくる。


 こいつらのせいで、反対側にいる蓮桜達の姿が見えない。


 蓮桜は怪我をしていた様だし、ライラは、さっきあんだけ暴れたから、マナを使いすぎて、しばらく力を使えないだろうから、二人が無事なのか心配だ。


「……凛花、構えておいた方が良いぞ。」


 背後にいる凛花に、そう声をかけたつもりだが、何故か凛花は、返事をしないどころか、構える気配もなかった。


「……凛花?」


 さすがに気になり、振り返ると、そこには瞳を不安気に揺らしながら、自身の右の掌を見つめている凛花の顔があった。


 肩に乗るルナも、凛花の右の掌を見て、しょんぼりと耳を垂れ下げた。


「……黒魔女に呪われて、魔法が使えないの。」


 と、凛花が、首を横に振りながら、右の掌を突き出した。


「なっ……!」


 オレは驚愕した。

 そこには、ラビーに引っ掻かれた傷が、紫の妖光を放っていたからだ。


「蓮桜が言うには、この呪いを解くのは、私次第だって。……でも、どうやって解いたら良いのか、良く分からないの……。」


 凛花が、伏目がちにそう言った。


 その時、背後から迫り来る気配を感じたオレは、黒魔女への怒りをぶつけるかの様に、振り向きざまに、拳を強く叩き込んだ。


 それが数ある分裂体の一人に炸裂し、その背後にいる数人の分裂体を巻き添えにして、一気にぶっ飛んだ。


 その隙に、オレは一瞬だけ、凛花へと振り返り、


「とにかく、凛花は端に居ろ!」


 と告げると、四肢に力を込め、白魂──いや、金色の粒子状の、“破浄魂”を瞬時に纏う。


 破浄魂とは、強い白魔の証で、色は、その白魔の心を表していると、前にルナが言ってたな。

 だから、どれぐらい強くなったのか、ずっと試してみたかったんだが、今が絶好の機会だな!


 ニッと笑い、片手を伸ばして指先をチョチョイと折り曲げ、挑発すると、四方八方から、カルマの軍団が襲いかかってきた。


「ノア!」


 凛花が叫ぶのと同時に、オレは高くジャンプし、無数の鉤爪を避けると、右脚を伸ばし、大剣の様にカルマの頭上へと振り下ろした。


「うおらああああッ!!」

「ぐふっ……!」


 脳天を直撃され、よろめくカルマを、そのまま足場にし、電光石火の如く、次々と他のカルマ達を殴り倒していく。


 いつもより、拳は重く感じるのに、身体は軽く感じる。まるで大空を飛び回れそうだ。

 と、身体中を駆け巡る爽快感に、自然と笑みが溢れる。


「……チッ。」


 カルマの一人が、舌打ちをすると、地面に力強く鉤爪を突き刺し、そのまま地面を滑り込む様に、鉤爪を振り上げると、無数の石礫せきれきをぶつけてきやがった。


「うわっぷ!」


 不意に食らってしまい、反射的に目を瞑ってしまった。


「斬り刻んでやる!!」


 その隙に、複数のカルマ達が、あちこちから襲いかかってくる気配を感じたので、オレは右脚で力強く地面を踏み込み、地中に破浄魂を送り込んだ。


 その刹那、バキバキバキッと、周りの地面が激しく割れる音と、カルマ達の慄く声が聞こえた。


 何とか目を開け、周りを見渡すと、破浄魂があちこちの地面を突き破り、何人かのカルマ達を、穴の空いた天井の向こうまで吹っ飛ばし、消し炭にしていた。


 激しくうねりながら立ち昇り、敵を消し去るその姿は、まるで黄金の龍の様だった。


「すげえ……。」


 こんなに威力があるとは、初めて試みた自分の新しい力に目を丸くしながら、その一部始終を眺めた後、残りのカルマ達に視線を戻す。


「…………ん?」


 すると、違和感を感じ、オレは身構えながらも、眉間に皺を寄せる。




【蓮桜視点】



 突如現れた黄金に光る柱達が、カルマ達を巻き込んで消え去った。

 恐らく、ノアの力だろう。確か、“破浄魂”と言ったか。


「……オレも負けていられないな。」


 そう呟くと、フーッと大きく息を吐き、脇腹の傷を感じない程に、眼前に広がる敵へと集中を向けた。


 ノアが、かなりの数を減らしてくれたが、まだまだ大量にいる。


 お嬢のお願いとやらを聞いてやる為にも、迅速に排除せねばな。


「はあっ!!」


 地を強く蹴り、四肢の剣で、一気に素早くカルマ達を斬りつける。


 先程、一対一で戦った時よりも、カルマの動きが鈍い気がする。


 ……もしや、分裂すればするほど、その分弱くなるのか? だとすれば、こいつは力を見誤り、自ら墓穴を掘ったのか?


 ──しかし、黒幕の手下が、そんな過ちを犯すか?


 そんな疑問を思い浮かべながら、カルマを斬りつけている内に、別の違和感を感じ、ハッとした。


「…………まさか。」


 ある事に気がついたその時、ようやくノアの後ろ姿が視認できた。


 周りのカルマ達を斬り裂き、ノアの元へ辿り着くと、そのままノアと背中合わせになる。


「蓮桜!無事だったか!」

「……ノア。お前は、この状況の違和感に気付いているか?」


 ノアは、ハッとし、「ああ。」と頷くと、ジリジリと近づいてくるカルマ達を見渡すと、息を呑んだ。


「…………やっぱり、よな?」


「……ああ。どうやら、こいつらは様だ。」


 まさか、こうなるとはな……。これでは、こちらの体力が持たない。


 ──どう処理するか……。


 オレは、頭の中で試行錯誤しながら、ケタケタと笑うカルマ達を鋭く見据えた。


 

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