第91話 体力勝負 (ノア・ロキ視点)
【ノア視点】
やっぱり、こいつらは無限に湧いてきやがるのか。
これじゃあ、こっちが幾ら倒しても、無駄って事なのか。
そのうえ、体力は減るから、不利すぎるだろ。
……いや〜な敵だぜ。こんな奴、初めて会った。
不敵の笑みを浮かべながら、ジリジリと近づいてくるカルマ達に、オレは舌打ちをし、背中合わせの蓮桜に、チラッと視線を向けた。
「なあ、蓮桜。何か良いアイデアでも思いついたか?」
「…………まあ、な。だが、具体的な方法は、まだ思索中だが、こいつらを、同時に撃破する。」
「はあ!?同時にか!?」
驚愕し、思わず蓮桜へと振り返ると、蓮桜の表情は、真剣な顔つきだった。
こんな状況だから当然だが、どうやら冗談ではない様だ。
凛花の魔法だったら、同時撃破は容易いだろうが……、打撃派のオレたちだと、どうやってやったら良いんだろうな……。
オレもあれこれと考えたいところだが、周りにいるカルマ達の猛攻撃が、それを邪魔しやがる。
「チッ!うじゃうじゃ増えやがって!」
愉快げに笑い、鉤爪をぶん回してくるカルマ達に、苛立ちながら、破浄魂の打撃をぶつけていく。
「ノア。あまり力みすぎると、体力の消耗が早まるぞ。」
「──ッ!」
……蓮桜の言う通りだ。こいつらは、無限湧きするから、今のオレらにとっては、体力の消耗は致命的だ。あまり感情的になると、こいつらの思う壺だな。
一方で蓮桜も、まだ素早く対処出来ているが、腹の傷のせいで、早くも額に汗が滲み出ている。
どちらにせよ、時間の問題だな。早いところ何とか、アイデアを思いつかねーと……。
「……さっきの破浄魂の柱を、全体的に使えれば良いんだがな……。」
ふと、さっきの地中から吹き出した破浄魂の柱を思い出した。
複数の柱を地面から出現させたが、それでも全員撃破は叶わなかった。
その悔しさに舌打ちをしたが、一方で蓮桜は、オレの言葉を聞いて、ハッとした。
「……そうか、アレを使えば……!」
「ッ!思いついたのか!?」
蓮桜は、クルクルと舞い踊る様に、周りの敵を華麗に斬りつけると、コクンと頷いた。
「ああ。……だが、しばらく、ノアが一人でこいつらの相手をしないといけなくなるが……。」
蓮桜が眉間に皺を寄せながら、そう告げた。
四方八方を見渡せば、無限に減らないカルマ達。数はザッと100ぐらいってところか。
蓮桜の言う「しばらく」が、どれぐらい掛かるのかは分からねえ。
その間は、完全に体力と気力の勝負。限界を超えてもなお、戦い続けなければならない。
────ああ、最っ高じゃねーか!
そう思ったオレは、ニッと笑う。
「上等だ。任せておけ!!」
蓮桜は、驚いた表情をしながら、オレを見てきたが、すぐにフッと軽い笑みを浮かべた。
「……信じるぞ。但し、破浄魂の力を使い過ぎるな。その力は、最後に派手に使わせてもらうからな。」
「りょーかいだ!」
オレが元気よく了承すると、蓮桜は、再びオレと背中合わせになった。
そして、神器を身につけている右手で手刀を作り、口元に当てると、目を閉じ集中した。
すると、蓮桜の神器が、紫の妖光を放ち始めた。
【ロキ視点】
「プププ〜〜。お前らはここで死ぬんだよ?勝ち目なんかありゃしないさ〜。」
両手には鉄球の様な形をした鉱石、そして胴体も大岩の様な鉱石を装甲している男、ルーエンは、相変わらず、のんびりとした口調で、穏やかな笑みを浮かべていました。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
雷技を得意とする、小さな体のアリーシャさんに対して、ルーエンは巨体なうえに、雷を吸収してしまう凶敵です。
アリーシャさんは今、一番相性が悪い敵と対峙している為か、ルーエンに対して、悔しそうに歯軋りをし、何も言えない様です。
それでも、真っ直ぐと彼を睨みつけながら、雷牙を構えてくれています。
その姿勢に、今すぐ褒めてあげたいです。戦闘では、こちらが諦めない限り、必ず勝機が見えてくると、私は信じています。
……ですが、今のアリーシャさんには、限りなく不利な状況です。
まずは、あの鉱石の鎧を、私が何とかして壊さなければ……。
私はそう思いながら、キッと彼を見据え、大剣を強く握りしめながら、構えました。
その様子を見たルーエンは、呆れた様に苦笑しながら、両手の鉱石をこちらへと向けました。
漆黒の鉱石は、閃電を纏い、たちまちに金色に輝き始めました。
「プププ、バカな奴らだね〜。その薄儚い希望を、すぐに潰してやるからね〜。」
ルーエンが言い終わるのと同時に、両手の鉱石から、鋭い雷が真っ直ぐに放たれました。
私はジャンプして避け、アリーシャさんは、身を屈めて避けながら、ルーエンに向かって素早く走りました。
威力を上げるために、彼の手前で、素早く横に回転しながら、胴体の鉱石に、ガキンッと、力強く叩きつけました。
火花が散り、ルーエンは力に押され、後方へと押し戻されました。
しかし────。
「……プププ。ちょっと斬撃を強くしても、無駄だよ。」
ルーエンの鉱石の鎧には、一ミリのヒビも入っていませんでした。
「プププ〜!」
「ッ!!」
ルーエンは、すぐに、右手の鉱石の鉄球で、アリーシャさんを殴ろうとしましたが、アリーシャさんは咄嗟に、背後にジャンプして避けました。
「お前から黒焦げにしてやるよ〜!」
すかさずルーエンが、左手の鉱石に雷を纏い、アリーシャさんに放とうと構えました。
「させません!!」
私が瞬時に背後へ回り、渾身の力を込めながら大剣で何度か叩きつけると、ルーエンは攻撃の対象を、私へと切り替え、目の前で雷を放ちました。
「ロキ!!」
「ッ……!」
右足の先に一瞬だけ、強い電撃が走りましたが、咄嗟に結界を張ったので、被害は最小に抑えられました。
……しかし、この大剣は神器ゆえに、大岩も、様々な鉱石も、どんなに硬い竜の鱗だって、今までありとあらゆる物は砕けましたが、この鉱石は、今までで一番硬い!
さすが、黒魔女の力の賜物ですね。想像以上に苦戦しそうです。さて、どう対処しましょうか……。
「ロキ!足、平気なの!?」
その時、アリーシャさんが駆けつけ、電撃を浴びかけた足を、心配そうに見下ろしたので、私は安心させる様に、微笑みました。
「ええ、一瞬痺れただけですので、大丈夫ですよ。」
「プププ。会話している暇なんて、ないんじゃないの〜?」
ルーエンの声に、ハッとしながら視線を戻すと、ルーエンは、四肢を引っ込め、大岩の様に転がろうとしてきました。
「はあっ!!」
咄嗟に結界を張り、ルーエンは天井へと跳ね返りました。
「プププ〜。」
しかしルーエンは、飛ばされながらも、全身に閃電を纏い、天井にぶつかった後、まるでボールの様に、こちらへと跳ね返ってきました。
「なっ……!」
結界を解いてしまった私は、咄嗟にアリーシャさんを抱き抱え、ジャンプして避けましたが、ルーエンの纏う雷が、私の方へと伸びてきました。
「────ッ!」
何とか咄嗟に、大剣でガードして受け流すと、着地し、アリーシャさんを降ろしました。
「ありがとう、ロキ。」
「……ええ。………………。」
返事をした後、体勢を立て直すルーエンを見つめていると、アリーシャさんは怪訝な顔つきで、
「……ロキ?」
と、心配そうに尋ねてきましたが、私はある考え事をし、少し間を置いてから、アリーシャさんを見下ろしました。
「……どうしたのよ?」
「……アリーシャさん。やってみたい事があるので、少しだけ、離れていてもらっても良いですか?」
彼女にそう告げた私は、フーッと大きく息を吐き、騎士のコートの襟に手をかけると、再び大岩の様に構えるルーエンを、キッと見据えました。
今、彼を見て思いついた方法で、上手くいくかどうか……、全ては、私の力と体力次第の様です。
──今まで以上に、本気を出さなければ!
動きやすくする為に、一気にコートを脱ぎ捨てたその刹那、
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