第88話 鬼嫁、爆発!! (ライラ視点)

 最初は呆然と、眼前の鬼嫁を見つめていたアレクシアだったけれど、やがてハッと我に返ると、眼光を鋭くさせた。


 さっきまでとは、顔つきが変わり、真剣な表情をしている。マジモードになっているわ!


「……まさか、こんなに化けるなんて、思いもしなかったわ。神器をこなしているだけあるわね。」


 アレクシアは、そこまで言い終えると、目を閉じ、両手にグッと拳を握らせると、まるで気合を入れるかの様に、静かに大きく息を吸い込んだ。


 そして、カッと目を開かせると、この洞窟内全体を激しく震わせる様な、強烈なデスボイスを口から放出した。


「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!あのお方とイチャコラしたアアアアアアアイッ!!!」


 すると黒い衝撃波は、今度はハンマーを手にした巨人の姿へと変化し、わたくしと鬼嫁に襲い掛かろうとしていた。


 けれど今の私には、不思議と恐怖心を感じなかった。


 只々、地の底のマグマを活性化させるかの様な、激しい旋律を奏で続け、鬼嫁にマナを込めている。


 蓮桜に対する不満も、その歌声に乗せることで、さらに力を発揮させていた。


 ──初めて会った頃から、こんなに好き好きアピールしているのに、何で気がつかないのよ!!


 今までは、蓮桜だから仕方ないかなって思っていたけれど、でも、でもやっぱり!


 蓮桜のバカヤロウ!ですわ!!


 と、カッと眼光を鋭くし、ずっと秘めていた想いを解放させながら、歌声を響かせた。


 すると、鬼嫁も同様に瞳を光らせ、ギリギリと歯軋りをしながら、包丁で巨人のハンマーを力強く受け止めた。


 ──それにこの前、ロキ様に教えてもらって夜な夜な作った、ハート型の大きなサクラ餅を、わざわざ枕元に置いておいたのに!


 蓮桜が朝に弱いせいで、それに気付かず、結局ノアが発見して食べてしまったのよね!


 直接渡せば良かったとは思っていたけれど、あんなに巨大なサクラ餅を!すぐに視界に入る場所に!置いておいたのに!!


 戦闘の時は、勘が鋭いくせに、何でそれ以外は鈍感すぎるのよ!!


 蓮桜のバカーーーーーーーーッ!!!


 すると、私の心の叫びに反応するかの様に、鬼嫁も獣の様に力強く吠えた。


 そして、目を光らせると、ハンマーを弾き返し、包丁を持つ両腕をクロスさせると、そのままよろめく巨人の身体を、素早く左右に切り裂いた。


「……す、すげえ……。」


「なっ……!何で、さっきとはまるで違うじゃない!!もうっ!!」


 ノアがその光景に圧倒し、アレクシアは悔しそうに、消えゆく巨人を見つめながら、苛立っていた。


「……チッ。こうなったら、を使うしかないわね。何が何でも、アタシは、あのお方の元に帰るのよん!!」


 アレクシアは、そう言うと、再び気合のポーズをとり、さっきよりも、より深く息を吸い込み、そして爆発音の様な、強烈なデスボイスを放つ。


 そして、次に驚くべき行動をした!


「とうっ!!!」


 何とアレクシアは、自ら放った黒い衝撃波の中に、勢いよく飛び込んだ!


 私とノアが、あっけらかんとする中、アレクシアの身体は、黒い衝撃波に覆われ、まるで大きな弾丸の様に、空気を切り裂き、花嫁へと一直線に飛んできた!


「あのお方への想いを込めて、強化されたアタシの頭突きで、沈みなさいっ!!!」


 すると花嫁のお腹に、強烈な頭突きが直撃し、辺りはまるで雷が落ちたかの様な、轟音が鳴り響いた。


 花嫁は、体をくの字に折り曲げながら、後方へと吹っ飛んでいく。


「フン!所詮は小娘の産物ねん!……さあ、後は、アンタを始末すれば────」


「────下さる?」


「は?」


「今、良い感じに、愛の負の感情を消化していたのだから、邪魔しないで下さるかしら!?」


「ええっ!?な、何よ?愛の負の感情って!?」


 驚き戸惑うアレクシアを尻目に、溜まっていた想いを、一気に歌声にのせる。


 美桜ちゃんとイチャイチャしていた時も、すっごいヤキモキしながら恨めしい視線を送っていたのに、全く気付かないし!


 今はお屋敷に居ないのに、未だに「お嬢」呼びだから、名前で呼んでくれてもいいのに!!


 凛花たちは、私が蓮桜の事が好きって、勿論分かっているのに、蓮桜はちっとも気が付かないし!!


 もうっ!!!


 蓮 桜 の 鈍 ち ん ッ!!!


 心の叫びが爆発すると同時に、岩壁に叩きつけられていた鬼嫁が、獣の様な咆哮をあげながら、こちらへと一瞬でジャンプし、アレクシアを強く蹴り飛ばした。


「ほげぇっ!!!」


 アレクシアは、何度も地面に叩きつけられながらも、何とか体勢を整え、鬼嫁に視線を向ける。


 その瞬間、アレクシアの目は、まるで恐ろしいものでも見たかの様に、目ん玉が飛び出そうなぐらいに、見開かれた。


 それも、そのはずだわ。


 鬼嫁の両手には、巨大で赤黒い、マナの爆弾が生成されていたから。


「食らいなさい!!愛の爆弾を!!」


 私の合図と共に、鬼嫁は巨大な爆弾を、力強くぶん投げた!


「ななななっ!!何よ、この爆弾は!!ぎゃああああああッ!!!」


 慌てふためくアレクシアに、溜まりに溜まった愛の爆弾が迫り来る。


「ふうーっ、スッキリ致しましたわ!アデューですわ!!」


 私が晴れやかな笑顔で、アレクシアに微笑んだ瞬間、彼女を中心に、辺りは大爆発した。


 そして当然、足場である床も、大きな亀裂が入り、私たちと共に、崩れ落ちた。


「キャアッ!!」


「ライラ!!」


 ノアが落下しながら、私へと手を伸ばすも、全然届く気配がない!


 私は今度こそ、もうダメかもしれないと思い、ギュッと固く目を閉じた。


 しかし次の瞬間、ボスンッと優しい衝撃音がし、誰かに抱きとめられた気がしたので、私は恐る恐る、ゆっくりと目を開いた。

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