第87話 鬼嫁、穿つ! (ライラ視点)
「お、おい、ライラ!どういう事だよ!?」
不戦を要求されたノアが、さすがに納得がいかない様子で、
戦闘バカのノアには申し訳ないけれど、この戦いだけは譲れないわ!!
「この変態オカマは、
「いやいやいや、意味が分かんねーよ!」
「そうよ〜ん!これは、アタシと彼女の愛のバトルなのよ!あなたは、後で骨抜きにしてあげるから、楽しみに待っててね〜!」
アレクシアが助け舟を出すと、ノアは頭をかきながら、訳が分からなそうな表情で、考え始めた。
そんなノアに対して、
「私が、必ず倒してみせますわ!だから、心配なさらないで!」
と、獣の様に鼻息を荒げながら、さらに釘を刺した。
「……いや、色んな意味で物凄く心配だが、何だかオレが入り込む余地がなさそうだしな……。
…………分かった。但し、ヤバくなったら、さすがに加勢させてもらうからな!」
「感謝致しますわ!でも、加勢は入りませんわ!!」
ノアに強気の笑顔を見せると、再びアレクシアに向き合い、バチバチと睨み合う。
「……あら〜。さっきは一撃で気絶したというのに、随分と威勢が良いわね〜。今度こそ死にたいのかしら〜ん?」
「フフン!さっきのは、ちょっとした挨拶のつもりでしたわ!今度こそ、あなたを木っ端微塵にしてみせますわ!」
鼻で笑うアレクシアに対し、私は負けじと腰に手を当てて胸を張り、鼻息を荒げながら、そう宣言してみせた。
「あら〜ん?そう?…………それじゃあ。」
アレクシアは、そこまで言いかけると、スゥーと大きく息を吸い、筋肉だらけの胸筋を膨らませると、
「いくわよオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
と、地の底を震わせるかの様な、轟音のデスボイスを響かせ、黒い衝撃波を放った。
「うわっ!何だ、この声!!」
ノアが耳を塞ぎながら、狼狽えている。
しかし、すぐに何かに気が付き、ハッとすると、
「ライラ!!」
と耳を塞ぎながらも、私に叫んだ。
黒い衝撃波が形を変えて、無数の大きな刃となり、私に襲いかかってきたからだわ。
「フン!ですわ!!」
私は、咄嗟に横にジャンプして、それらを避けると、余裕振った表情のアレクシアを、キッと見据える。
あんな事まで出来るのね。ですが、私だって、負けていられませんわ!!
「お、おい、ライラ。本当にオレが加勢しなくて平気か?」
「ええ!一度そこで見てなさい!」
再び心配するノアに対し、ビシッと指を指し、そう命令すると、ノアは困った様に頭を掻き、ため息を吐きながらも、コクコクと頷いてくれた。
その様子を見届けた後、私は首元の神器に、そっと優しく触れ、目を閉じ、蓮桜に対する想いを膨れ上がらせる。
──蓮桜、あなたの事が、本当に大大大大好きですわ。
朝から晩まで、ず〜〜っと、蓮桜の事ばかり考えているわ。もう何をしていても、本当にカッコいいですわ!
初めて会った時、ズキュンッと、恋の矢が胸に強く刺さったのを覚えているわ。特に、私を見つめる優しい眼差しに、一番ときめいたわ。
一生忘れられない、至福の瞬間だった。
私の夢は、初めて会った時から、ずっと変わらない。
──それは、蓮桜のお嫁さんになること。
けれど、夫婦になるということは、お互いのことを、もっと知る覚悟も必要かもしれませんわ。
もちろん、深くまで知らなくても、夫婦という関係は、継続出来ますわ。寧ろ、お互いの本音を深く知ってしまった結果、破綻してしまう場合もありますわ。
ですが私は、そんな表面だけの関係は、嫌ですわ!!
例えぶつかり合う事があるとしても、蓮桜には、私の全てを知ってもらいたいですわ!
逆に私も、蓮桜の気持ちを、もっともっと知りたいですわ!
──だから……。
全力で
そう静かに決意したその時、福音の神器が虹色に輝き、喉元に力強いマナが込められるのを感じた。
内から湧き上がる想いを、歌声に乗せて解き放つと、私の背後に、大きな何かが具現化された。
「──ッ!?あれは……、花嫁!?」
目を丸くするノアの言うとおり、私の背後には、純白のウエディングドレスに身を包み、幸せそうに微笑む花嫁の姿が現れた。
その花嫁は、艶のある長い髪を、お団子にし、2つのかんざしで両側から刺して綺麗に纏めていた。
アレクシアは、その花嫁の姿を見て、フンと鼻で笑った。
「そんな、おめでたい歌で、アタシに勝てるとでも思っているのかしらん?」
アレクシアの嘲笑混じりの言葉に、無視して歌い続けていると、アレクシアは呆れ顔になりながら、胸筋を風船の様に膨らませ、大きく息を吸った。
「あんたのチンケな恋心なんか、アタシに叶うわけないのよオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
そして、溜め込んだ空気を、さっきよりも激しいデスボイスと共に解き放った。
黒い衝撃波は、今度は何体もの黒い獣へと変化し、四方八方から私に襲い掛かろうとする。
「──ッ、ライラ!!」
ノアが叫び、黒い獣の鋭き牙が、私の身体を噛みちぎろうと、手が届く範囲にまで差し迫ってきたその時。
小川のせせらぎの様な穏やかな曲調が、火山が一気に噴火するかの様な、激しい曲調へと変わり、同時に花嫁が動いたのを感じた。
「なっ……んですって!?」
「──ッ!?」
アレクシアが驚きを隠さずに狼狽え、ノアが息を呑んだ。
何故なら──、黒い獣達が、花嫁によって八つ裂きにされていたから。
さっきまで、幸せそうに微笑んでいた花嫁の表情は、まるで鬼の様な形相をしていて、お団子だった髪は、ほどかれ、怒りで毛先が逆立っている。
そして、両手には、鋭い包丁を手にしている。きっと、かんざしだと思っていたのは、あの2本の包丁だったんだわ。
花嫁は、2本の包丁の切先を、呆然と立ち尽くすアレクシアへと向ける。
私も、アレクシアを睨みつけながら、激しいメロディーを口ずさむ。
「……お、鬼嫁だ……。」
その姿を見たノアが、声を震わせながら、そう慄いた。
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