第71話 魂の目覚め (ノア視点)

「おし!さっさと出ようぜ!」


「うん!」


「はいなのです!……でも、お外には、黒魔女さんが居るのです。気をつけるのです!」


「ああ、もちろんだ。」


「……一発、ぶちかましてやりたいわ。」


 静かな怒気を放つ凛花に、一瞬ギョッとした。目つきを鋭くしながら、掌に拳をバシッと叩いていて、マジの様だ。


 凛花が、ここまで怒っているのは、初めて見た。


 オレも、あの女には、借りがある。もう二度と操られない様に、覚悟を決めないとな。


 そう決意を固め、一度深呼吸すると、凛花に倣って、掌に拳を強く叩き込み、いつもの様にニッと笑う。


「っし!改めて行くぜ!!」


 そう言うと、右拳に白魂を纏わせ、構える。


 ……が、いつもと何かが違う様な気がしたので、驚いて拳を見下ろすと、


「……ノア!?」


 と、凛花も異変に気が付いた様で、オレの拳を凝視している。


 いつもの白いオーラではなく、無数の金色の粒子が、オレの拳を纏っている。


「……どうなってんだ?これ。」


 だが、不思議と嫌な感じはしない。寧ろ、いつもより力がみなぎっている気がする。


「……破浄魂はじょうこんなのです。」


 そう発したルナが、何故かハッとして驚いている。


「ひょっとして、オリジン様の記憶か?」


「はいなのです。強い白魔の証なのです。光の色は、その白魔の心を表している──だそうなのです。」


「……もしかしたら、ノアが自分の心の闇に打ち勝ったから、破浄魂が使える様になったんじゃない?」


 凛花の言葉に、納得すると、凛花が「それに……。」と、何かを言いかけ、クスッと笑った。


「光の色は、その白魔の心の色なんだよね?あったかい光で、何だかノアらしいね。」


 ……そ、そうなのか?オレって、あったかいのか?何だか嬉しい様な、恥ずい様な……。


 顔が赤くなっていたのか、凛花の、じっと見つめる視線に気が付き、ハッとすると、慌てて咳払いし、再び拳を構えて集中する。


「うおおおおおっ!!!」


 ジャンプして、結界の中心部を思いっきり殴ると、そこを中心に、ピシッと少しずつ亀裂が入っていく。


 そして、崩壊すると同時に、結界は光の粒子となって、消え去った。


 外の眩しい光に、思わず目を細める。


「ノア!凛花!ルナ!」


 視界が慣れてくると、アリーシャ、ロキ、蓮桜、そして何故か、ピンクの、でっけえ龍に跨っているライラの姿が確認できた。


 そして、あの人形の顔の様な、黒魔女もいる。額には紫の札が貼ってあるが、恐らく蓮桜が貼りつけたんだろう。


「……結界が……、破られたの?それに、破浄魂に目覚めたのね。アレは厄介。……不覚。撤退して、主に知らせる。」


 黒魔女は、淡々とそう言うと、自身の周りに、黒い竜巻を発生させ、皆と額の札を吹き飛ばした。


 それと同時に、ライラを乗っけてた龍が、泡となり消え去った。


「きゃあっ!!」


「お嬢!」


 蓮桜が吹き飛ばされながらも、ライラをナイスキャッチして、アリーシャの方も、吹き飛ばされる瞬間、ロキが抱き抱えて、うまく衝撃を和らげてくれた様だ。


 だが、その隙に、黒魔女が、フワリと宙に浮かび上がり、空の彼方へと消え失せようとしていた!


「──ッ!待ちなさい!!」


 オレがジャンプするよりも先に、凛花が怒りの矢を放った。


「────ッ!!」


 黒魔女は、間一髪避けたが、一瞬足元を押さえていた気がする。掠ったのか?


 だが、黒魔女が落ちることはなく、そのまま姿をくらました。


「……逃げちまったか。」


「私が、上手く当てていれば……。」


 凛花が、そう悔しそうに俯く。


 オレは首を横に振り、凛花の肩にポンと手を置くと、


「……けど、皆が無事で、良かったじゃねーか。」


 と、言って、皆や、蓮桜が抱き抱えた美桜に、視線を向ける。美桜は、穏やかな表情で、ぐっすりと眠っている。


 凛花は、少し考えた後、やがて深く息を吐き、気持ちを落ち着かせると、


「……そうだね。美桜ちゃんも、どこも怪我していなさそうだし。」


 と、頷いてくれた。


 その様子を見て、ライラは、ホッと胸を撫で下ろすと、安心した様に、顔を綻ばせる。


「それに、ノアも正気に戻れたしね。……もう、平気なのよね?」


「ああ。」


 オレは、頷くと、皆に頭を下げた。


「本当に、皆には、迷惑をかけちまったな。……ごめん。」


 操られていた時の記憶は、正直ぼんやりとしているが、皆を殺そうとしていたのは、間違いない。

 

 凛花とルナは、許してくれたが、他の皆は、どう思っているのだろうか。


 などと考えていると、アリーシャが、しゃがみながら顔を覗き込んできて、ムスッとした表情で、デコピンしてきた。


「いてっ!」


「……ったく、謝らなくて良いわよ。悪いのは、あの無表情の魔女っ子でしょ?」


「そうですよ。ノアさんは、何も悪くありません。どうか、気になさらないで下さい。」


「ええ!全く持って同感ですわ!」


「……あの女には、美桜の事も、ノアの事も、きっちり借りを返させてもらおう。」


 アリーシャ、ロキ、ライラ、蓮桜は、順々にそう言うと、微笑んでくれた。


「……心配しなくても大丈夫だったでしょ?」


 隣にいる凛花も、そう言うと、ニッコリと微笑んだ。


「………………。」


 ……正直言うと、心のどこかで、ずっと不安に思いながら過ごしていた。


 いつか、凛花達にも恐れられて、また一人になるんじゃないかって。


 ……でも────。


「……そうだな!」


 ──それは、要らない心配だった。


 心のどこかで、つっかえていたモヤモヤが晴れ、スッキリとした笑顔で、オレは頷いた。


 

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