第50話 陰雨の降り始め
「はっ!!」
蓮桜の気合と共に、紫光のお札が一斉に飛んできた。
「危ない!!」
私たちが咄嗟に避けると、お札は、クリスタルの床に深々と突き刺さった。まるで刃物の様。
それを見て、ゾッとし、全身の毛がよ立つのを感じた。
「……彼の神器は、札を具現化させ、それを自由自在に操る様ですね。」
「なら、札が作られる前に、終わらせれば良い!!」
ノアは、そう言うと、蓮桜に向かって一気にジャンプし、白魂の拳を振るった。
しかし、蓮桜は意外にも、冷静にノアの拳をパシッと横へ捌くと、拳法の様な動きで反撃してきた。
「なっ……!」
ノアも、間一髪で後ろに反って避けると、素早く連続で、拳と蹴りを繰り出し続けたけど、それでも蓮桜は体の軸をずらさずに、余裕に攻撃を捌ききっている。
そして、何やらブツブツと呪文を唱えると、神器の腕輪が光り出し、それと同時に、手の平でノアの心臓を強く打ち込んだ。
その時、蓮桜の手が暗紫色に光ると、そこから強い衝撃波が発生し、ノアを強く吹き飛ばした。
ノアは、鏡を何枚も突き破り、壁に強く叩きつけられた後、激しく咳き込みながら、床に突っ伏してしまった。
「ノア!!!」
私は、急いで駆けつけて、ノアに回復魔法をかけた。ノアは、息を詰まらせながら、何度も咳をしていて、苦しそうだ。
あのノアが、接近戦で押されるなんて……!
「はっ!」
蓮桜の声がしたので、その方向に視線を向けると、私とノアに向かって、紫のお札が何枚も飛んでくるのが見えた。
私は、咄嗟にノアに覆いかぶさり、目を強く瞑った。
「純霊結界!!」
その時、ロキさんが光の結界を張って、私達を護ってくれた。
「ロキさん……!」
「急いで、ノアさんの治癒を。」
私は、ロキさんの背中に頷くと、急いでノアの治癒を再開した。
「はあっ!!」
ロキさんは、重い大剣を軽々と振り上げると、素早く蓮桜へと振り下ろした。
しかし、蓮桜は、お札を何枚もくっつけて、盾を作ると、それを防いだ。
ロキさんは、驚く様子もなく、素早く蓮桜の背後へと回ると、すかさず大剣を横へと振り回した。
しかし、蓮桜は瞬時に察知し、後ろへ高くジャンプして避けた。
「……その大剣、光の神器だな?だが、使いこなせていない様だ。」
「どういう意味ですか。」
「その神器は、結界以外にも、もっと強い力を秘めているはずだ。ただ振り回しているだけでは、普通の大剣と同等だ。」
ロキさんが眉をひそめ、蓮桜が鼻で笑った、次の瞬間。
地を揺るがす
しかし、蓮桜は、振り返ると同時に、指で挟んだ札一枚で、雷刃を受け止めた。
「チッ……!」
雷牙を振るったアリーシャは、舌打ちをし、素早く間合いをとると、蓮桜を睨みつけた。
蓮桜は、雷光に輝く、雷牙を見て、一瞬驚いたが、ニヤリと笑った。
「……これは好都合だ。」
蓮桜がそう呟いた、次の瞬間だった。
蓮桜は、いつの間にか、アリーシャの目の前に移動していて、お札をアリーシャの額に押し当てた。
「な、何を………、する……のよ……。」
アリーシャは、意識を失い、蓮桜の脇に抱えられてしまった。
「アリーシャさんを放しなさい!!!」
ロキさんが、今まで聞いたことのないぐらいに、声を荒げながら、蓮桜に大剣を振り下ろした。
「それは出来ない。」
蓮桜は、華麗に避けると、ロキさんの脇腹に、札を深々と突き刺した。
「ぐはっ……!」
ロキさんは、大量の血を吐き散らしながら、倒れ込んでしまった。
蓮桜は、再びお札を具現化させると、今度はライラの額に押し当てた。
「れ、…………お……。」
「お嬢、すまない。これも命令なんで。」
ライラは、涙を流しながら、蓮桜に身を預ける様にして、意識を失った。
ライラを見下ろす蓮桜の瞳が、物悲しげに見えたが、それも一瞬だった。すぐにライラを肩に担ぐと、そのまま立ち去ろうとする。
やばい!このままだと、逃げられてしまう……!
「おい!待ちやがれ!!」
その時、回復したノアが、全身に白魂を纏いながら、蓮桜に急接近した。
蓮桜は、チラと振り返ると、お札を具現化し、それを司書のお姉さんへと躊躇なく放った。
ノアは、急ブレーキをかけて方向転換すると、司書のお姉さんを抱き上げてジャンプし、間一髪でお札を避けた。
お姉さんの無事を確認し、安堵すると、再び蓮桜へと視線を向けた。もう既に、出口の扉へと手をかけている。
私は、弓矢を構えると、ルナと共に叫んだ。
「二人を返して!!」
『これでも食らうのです!!』
私の炎のマナと、ルナのマナを融合させて放った矢は、炎の不死鳥と化し、蓮桜に向かって一直線に飛んで行った。
ドオーーーーーーーーーーンッ!!
辺りは爆音と共に、煙に包まれた。
何とか目を凝らして、出口方面を見ると、波打つ煙の隙間から、ニヤリと笑う蓮桜の姿が見えた。
どうやら、上手く避けられてしまったみたいだ。
「……魔女か。面白そうだが、今は時間がない。……残念だ。」
蓮桜は、そう言うと、煙と共に姿をくらましてしまった。
「ぐっ…………!待ちな、さい……!」
ロキさんが歯を食いしばりながら、血だらけの手を伸ばしたが、その手は虚しくも、地へと伏せられてしまった。
「ロキさん!!」
私は、ロキさんに、回復魔法をかけながら、頭の中でグルグルと思考を巡らせた。
あの蓮桜は、何者なのか。何でアリーシャも連れ去ったのか。
これから、私の知らない何かが起こってしまうのだろうか。
段々と嫌な予兆を感じ取り、不安に思いながら、蓮桜が去って行った方向を見つめた。
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