情報都市・マギオン〜霊地・アースベル編
第49話 闇の刺客
「ええ!!凛花は、魔女なのですか!?だから、私、寒くないのですね!」
「うん!実は、そうなの。」
スノーフィリルから出た時、ライラが寒さを感じない事に、ようやく気が付いて不思議そうにしていたので、種明かしをしていた。
だけど、アルマ探しの事に関しては、話していない。
ライラは、キラキラとした目で、私を見つめた後、ブンブンと握手をしてきた。
「私、魔女に出会ったのは、初めてですわ!思っていたよりも、普通の女の子なのですね!人は見かけによらないのですわね!」
……さらりと失礼な事を言っているけど、ライラの純粋に輝く瞳を見ていると、なんでも許したくなるから、不思議。
「だろ!食い意地が張って、よく寝言を言ってるけど、こう見えてもすごいんだせ!」
「ちょっと!ノアの方が大食らいで、イビキもうるさいくせに!」
「いでっ!いてててててっ!!」
ノアには言われたくないわと、ポカポカポカと頭を叩いていると、ライラはそれを見て、笑っていた。
それからしばらくすると、緑が生い茂る平原へと出た。
さっきまで、あんなに雪が降っていたというのに、まるで瞬く間に冬から春へと変化したかの様。
そして、陽が昇り、暁光が差してきた頃、目の前に大きな建物が見えてきた。
「見えてきました!あれが、情報都市、マギオンです。確か、別名は、クリスタルライブラリーです。」
何と、巨大な図書館は、壁やら屋根やら全てが、煌めくクリスタルで出来ている。
透き通っているというのに、なぜか建物の中は、どの方角からでも見えない。
「すごいのです!全部クリスタルなのです!」
「本当ですわ!超〜〜っ絶!素晴らしいですわ!丸ごと買い占めたいですわ!」
この大きさのクリスタルを丸ごと!?さ、さすがお嬢様……。
「ん?ライラ、マギオンは通らなかったの?」
「ええ。無我夢中で逃げてきましたので、二日間、ずっと獣道でしたわ!」
すっぱりと、そう言い切ったライラに、思わず驚く。
「……よく魔物に遭遇しなかったね。」
逞しいお嬢様だなと、感心しながら、私達はマギオンの大きな扉を開けた。
「わあ……!」
てっきり、私の世界と同じで、本がズラリと並んでいるのかと思っていたけど、全然違うその光景に、思わず歓声をあげる。
周りには、本ではなく、大小様々な鏡があちこちに浮かび上がっているのだ。しかも、鏡の中には自分の姿は映し出されずに、虹色に輝いていて、何だか神秘的。
周りを見渡すと、学者なのだろうか、若い人達が、鏡をずっと凝視している。何してるんだろう?
「……おや?当館のご利用は、初めてでしょうか?」
首を傾げていると、司書らしき女性が、側までやって来た
くるくると巻かれた髪、そして瞳の色は桜色で、水色のローブを身に纏っている。
けど、頭は細い触覚が生えていて、背中には透き通った蝶の羽が生えている。普通の人ではないみたいだ。
ロキさんが、その姿を見て、ハッとした。
「マギオンを管理しているのは、
「導の胡蝶?」
「ええ。私達一族は、代々その時代で起こった出来事を、この真実の鏡に映し出す使命を持っています。鏡に手を触れれば、様々な記録をご覧になれますよ。」
鏡の中に、文字が浮かび上がるって事?この世界には、いつも驚かされてしまう。
「なるほどな!だから、皆、鏡とにらめっこしてんのか!」
「……館内では、お静かに願います。」
司書の人が、人差し指で口を当て、小声で注意すると、ノアは、
「あ。悪いな。」
と、軽く笑みを浮かべながらも、頭を下げた。
司書さんは、頷くと、気を取り直して、「何をお探しですか?」と、尋ねてきた。
「……そうですね。折角ですし、アースベルに関する資料を見ていきましょうか。私も、よく知らない土地ですし。」
「アースベルですね。それでは、こちらへ。」
司書のお姉さんに案内されると、勾玉の様な変わった形をした、大きな鏡の前までやってきた。
そして、手の平を鏡へと向けると、鏡がパアっと輝き、無数の文字が映し出された。
……うーん。相変わらず、何て書いてあるかさっぱり。ここは、皆に任せるしかないか……。
すると、早速ロキさんが読み上げてくれた。
「ふむふむ。ここは、貴族が数多く暮らす土地なのですね。その中でも、名門貴族、レーベンヴァルト家の血筋のものが、この地を治めている様ですね。」
「貴族の街か。そういえば、ライラも、アースベルの貴族なのよね?」
「え、ええ、まあ……。」
ライラは、何故かぎくっとし、ぎこちない笑みを浮かべながら、アリーシャに頷いた。
ロキさんは、読み進めていく。
「……ですが、現在、正式の後継であるアリシア・フォン・レーベンヴァルト様が、お母様と共に行方不明だそうですね。なので、分家であるライラック・フォン・レーベンヴァルト様が、後継者になる可能性があると。」
「……なんか、ライラみたいな名前だな。」
ノアの言葉で、皆がライラに視線を向けると、ライラは視線をそらし、ぎこちない口笛を吹き始めた。
…………この反応は、まさか……。
「ええーーーー!!ライラって、名門貴族なの!?」
「お、し、ず、か、に!!!」
思わず大声で叫ぶと、司書さんに鋭く睨まれてしまったので、私は慌てて口をおさえた。
ライラは、観念した様にため息を吐くと、コクリと頷いた。
……まさか、思っていたよりも、すごいお嬢様だったなんて……!
でも、こんなに凄い人が、家出してしまったら、大変な事になっているんじゃ……。
そう思い、嫌な予感が胸中で渦巻き始めた、その時だった。
「……お嬢、こんなところにいたのか。随分と探し回ったぞ。」
突然背後から声がし、振り返ると、そこには、黒髪短髪の少年が立っていた。
まるで陰陽師の様な、赤い着物を着ていて、右腕には、紫の数珠の腕輪を身につけている。
もしかして、サクラの民?
ライラは、その人を見た途端、怯えた様な表情で、後退りした。
「……
蓮桜と呼ばれた少年は、無表情で、わたしたちに一礼をした。
「……お嬢が、ご迷惑をおかけした様で、大変申し訳ございません。責任持って連れて帰りますので、どうか、ご安心ください。」
感情の籠らない声色で、そう淡々と話し終えると、ライラに手を差し出す。
「……さあ、お嬢。オレと帰りましょう。」
「……や、やっぱり、いやだ……!」
蓮桜は、嫌がるライラに、強引に手を伸ばそうとしたが、ノアがその腕を強く掴んだ。
「……ライラが嫌がってんじゃねーか。」
「強引なのは、百も承知。だが、これも仕事の内だ。」
蓮桜がそう言った途端、突然、紫の数珠の腕輪が光り出した。
ノアが驚いて、咄嗟に手を離すと、蓮桜は素早く距離をとり、右手で
すると、紫のお
「な、何?あれは……。」
あの腕輪からは、禍々しいマナを感じる。もしかして、アレは……。
「れ、蓮桜の、闇の神器……!」
ライラが、声を震わせながら、そう言った。
やっぱり、アレも神器なの?
周りの人々は、異変を感じ、悲鳴をあげながら立ち去っていく。
司書さんも、驚いて腰を抜かし、震えている。
「……場所が悪いが、やるしかないな。」
ノアが、黒髪から元の白髪へと変化させた。
「って、えーーーー!!ノアって、白魔だったの!?」
ライラが驚いているけど、説明は後にして、私達も戦闘体制にはいる。
「……フン、白魔か。少しは楽しめそうだな。」
「随分と余裕そうじゃねーか。」
蓮桜が、禍々しいマナを放ち続けているが、ノアは、怯む事なく、いつもの笑みを浮かべながら、そう言い、身構えた。
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