第4話 予想外の協力者 (ノア視点)
凛花が攫われてから数時間が経ち、気が付くと、空には夜の裾野が広がり始めていた。
あれから、森の周辺を探してみたが……、当然、簡単に見つかるはずもなく、オレは情けないことに、その辺にあったデカい岩に腰掛けながら考え込んでいた。
……以前の旅では、凛花を一人にさせるなんて事は、絶対にしなかったはずだ。……今ではもう、デカい敵が居なくなったから、油断していたのか。
「……これが、平和ボケってやつか。……情けねえな。」
オレは、口端にフッと笑みを浮かべ、皮肉めいた独り言を口にした。
「……そうだな。情けない面をしているな。」
その時、頭上から聞き覚えのある声が降ってきたので、ハッとして空を見上げると、月夜を背に、何者かが拳を構えながら、オレに目掛けて急降下してくるのが見えた!
オレは咄嗟に躱しながら、相手の背後へと回り、拳を構えて殴りかかろうとしたが、相手はすぐに振り向き、交差させた腕で受け止めた。
そして拳を弾き返した直後、相手も瞬時に拳を繰り出し、互いに攻防戦が始まろうとしたが……、
「……やめて。」
──と、これもまた聞き覚えのある、鈴の音の様な女の声によって、互いに伸ばした拳は、鼻頭スレスレの所で、ピタリと止められた。
「……ったく、久しぶりなのに、随分な挨拶だな、リアン。」
目の前の白魔の男──リアンは、拳を下ろすと、金髪碧眼の人間姿へと変化し、臨戦態勢を解くと、やれやれと肩をすくめた。
「僕だって、こんなつもりじゃなかったけど、君のシケた面を見ていたら、ブン殴りたくなってね。」
そう言ったリアンの隣に、オレ達の喧嘩を止めた声の主──黒魔女のラビーが静かに歩み寄り、少しムスッとした顔を、リアンに近づけた。
「今は、こんな事している場合じゃないと思う。」
「……そうだな。君が落ち込んでるのは、凛花の事だろう?彼女に何かあったのか?」
そう尋ねたリアンとラビーは、真剣な瞳で、真っ直ぐとオレを見つめている。
「……まさか、協力してくれるのか?」
「……あんな
「リアンは、素直じゃないの。久しぶりにあなたの顔を見つけた途端、どうしたのだろうと心配していたわ。」
「……ラビー、余計な事は言わなくて良いんだ。」
「私もね、凛花の事は、友達だと思っている。だから、私達にも協力をさせて。」
ラビーは、少し前の彼女からは想像もつかない様な、花の様な可憐な笑顔を見せながら、そう言ってくれた。
リアンは、ため息をつき、頭をボリボリと掻きながら、オレの返事を待っている。
オレは意外だなと、しばらく驚いて見つめていたが、ラビーとリアンの真っ直ぐな瞳からは、嘘は感じない。
本当に協力してくれるんだなと実感したら、何だか不思議な気分になり、思わず笑ってしまった。
「……なぜ笑うんだ。」
「いや、ごめん。何か、変な感じだなって思って。ついこの間までは、命を懸けて闘っていたのにさ、まさかこうして協力する日が来るなんて、思いもしなかったからさ。」
そう言うと、二人も納得して頷き、互いに顔を見合わせながらクスッと笑った。
「……そうね、何だか不思議だわ。」
「そうだな。そう言われてみれば、僕も同感だ。……だが、勘違いするなよ。馴れ初め合うつもりはないからな。今回の件が終われば、またお別れだ。」
「ほんっと、素直じゃねーな。……まあ、良いさ。今回だけでも、手を貸してくれるのは、素直に嬉しいさ!ありがとな!」
二人に礼を言い、ニッと笑うと、ラビーも微笑みながら頷き、リアンは心なしか、少し安堵した様な表情で頷き、そしてすぐに、
「……まず、何があったか話してくれ。」
と、早速本題を切り出してくれたので、オレは頷き、これまでの経緯について話した。
白魔と黒魔女のハーフの少女については、ラビーは素直に驚き、リアンは、自身がハーフだからか、何ら不思議に思う事はなく、冷静に耳を傾けていた。
「……じゃあ、その少女が、転移魔法を使って、凛花をどこかに攫って行ったのね。」
「ああ。……けど、何か妙だったな。」
「ん?何が?」
「転移魔法を使うと、姿がフッと一瞬で消えるだろ?あの少女の場合は、こう……周りの景色に溶け込んだ……みたいな感じで消えていったんだよな。」
そう説明すると、ラビーは、顎に手を当て、しばらく考えた後、やがて口を開いた。
「……もしかしたらだけど、それは、転移魔法ではなく、ただ姿が見えなくなっただけかもしれない。」
「……どういうことだ?透明になる魔法でも使ったって事か?」
「近いけど……違うわ。正確には、視えない結界が張られていて、その中に逃げ込んだ可能性が高いわ。
強いマナを持つ者は、自分の世界を創ることが可能で、しかも外からは視認どころか、触れることすら出来ない仕組みになっている。かなり高度な魔法だから、出来る人は、ごく稀しか居ないと言われているわ。」
──世界を創れる程の強い魔法……。あの少女は、黒魔女の血が半分しか流れていないのに、そんなに強力な魔法も使えるのか?だとしたら、ハーフだからって侮れないな。早くしないと、凛花が危ないかもしれない。
「……中に入るには、どうしたら良いんだ?」
「その少女に認めてもらうしかないわ。」
ラビーは、落胆する様な事実を告げた後、
「…………なんて、面倒くさいでしょ?」
と、ニヤリと、悪戯っ子の様な笑みを浮かべると、星空に向かって右手を突き出し、何かを探る様に上下左右へと動かし始めた。
「…………ここね。」
そして、右斜め上の辺りで、ピタリと静止すると、右手に魔力を込めながら、グッと拳を強く握った。
──グシャッ!
ラビーの右手から、何かが握りつぶされた様な音が聞こえたかと思った次の瞬間、突然、地面が揺れ始めた!
「うわっ!?」
「……結界の一部を壊したから、地鳴りが収まったら、すぐに入れる様になるわ。」
ニッコリと、そう告げたラビーの予言通り、地鳴りが収まった後、夜空の一部分がグニャリと歪み、真っ白い空間が現れた。
「……え。こんなにアッサリ入れるのか?」
ポカンと口を開け、空間を仰ぎ見るオレに、リアンは当然だと言う様に、鼻を鳴らした。
「ラビーだから出来たんだ。並大抵の魔女では不可能だ。」
いとも容易く結界をこじ開けた張本人は、リアンに撫でられて、嬉しそうにしている。
こんな可愛い表情を見ていると、忘れがちだが、ラビーも桁外れの強さを誇る、黒魔女だ。
「……ほんっと、すげーわ。」
オレは感心すると、夜空にポッカリと浮かぶ、白い穴を見据えた。
……凛花、今、助けに行くからな。
オレは、心の中でそう言うと、ラビーを抱き抱えたリアンと共に、白い穴へと跳躍し、結界内へと飛び込んだ。
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