最終話 平和になった後の事 (アリーシャ・蓮桜・凛花視点)

【アリーシャ視点】


 あれから私は、ロキと一緒に、ドランヘルツの孤児院に住み込みで働く事になった。


 毎日の様に、ロキと一緒に料理をしたり、洗濯物を干したり、掃除したりと、何だか、夫婦になったみたいで、嬉しかった。


 ……けど、子供達のとして、みんなを育てていくのは大変だわ。


 今日も私は、エプロン姿で、孤児院の中をドタバタと駆け回る。


「ちょっと、カイ!待ちなさい!」


「わあ!アリーシャが怒った!」


「だ・か・ら!私の事は、アリーシャお姉ちゃんと呼びなさいって、言ってるでしょうが!」


「だって長いし、アリーシャって、僕達より、そんなに歳離れていないでしょう?」


「あ!また言ったわね!今日の今日こそは許さないわよ!!」


 孤児院の問題児、カイの首根っこを捕まえると、それを見ていたロキが、いつもの様に、


「まあまあ、アリーシャさん。壁に落書きしたぐらいで、そんなに怒らなくても良いじゃないですか。ほら、孤児院の内観が、また華やかになりましたよ?」


 と、呑気な声で嗜めてきたので、私はため息を吐く。その隙に、カイが私の手を振り払い、


「ロキお兄ちゃん!」


 と、笑顔でロキに抱きついた。


「ったく、家中、落書きだらけになっても知らないわよ?ロキは甘すぎるわ!」


 ……まあ、そういうところも好きなんだけど。


 そう思いながら、緩んだ視線で、ロキの顔を見つめていると──、


『ロキイイイイ、アリーシャアアアアッ!朗報だアアアアアアッ!!』


「ぎゃあああああッ!!急に出てくるな!そして暑苦しいわよ!!」


 何もないところに、突然バーン様が現れたお陰で、別の意味のドキドキに変わったわ!


『聞いて驚くな!』


「無視かい!」


『昨夜、凛花がこの世界に帰って来たそうだ!!』


 それを聞いた私は、ハッとし、怒りを忘れて、笑顔になりながら、バーン様に駆け寄った。


「本当に!?帰って来たの!?」


『うむ!我らが主、オリジン様が念話で、そう伝えて来たぞッ!!』


「やったあ!!」


 私は思わず、ピョンピョンと飛び跳ねて、大はしゃぎした。その時カイが、


「やっぱ、子供じゃん。」


 と、ボソッと呟いたのが聞こえたけれど、今のは聞こえなかった事にしてあげるわ。


 するとロキが、ポンポンと、私の頭を優しく叩いて、クスッと笑った。


「……近いうちに、凛花さん達に会いに行きましょうか。お祝いの料理を沢山作って、持って行きましょう。」


「ええ!早速、今から作りましょう!腕が鳴るわね!」


 凛花もノアも、食いしん坊だから、どっさり作らなきゃいけないわね!……ついでに、通り道だから、おじいちゃんの分も作って、持って行ってあげようかしら。


 みんなの喜ぶ顔が、目に浮かんで、自然と顔が綻ぶ。


 そんな私の顔を見て、ロキも嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。



【蓮桜視点】


 今朝、屋敷にやって来たグラン様から、凛花が帰って来たと伝えられた。


 ライラックも、きっと喜ぶだろう。


 そう思い、一番に知らせてやろうと、ライラックの居る厨房へと足早に向かっている。


 最近のライラックは、カルド様と一緒に、当主の仕事をこなしながら、厨房で料理の練習をし始めた。


 理由は、花嫁修行だそうだ。主に、オレの好物を極めようとしている。……ここのところ毎日食べさせられているから、正直、好物では無くなってしまいそうだ。

 まだ付き合い初めて間もないのに、相変わらず気が早すぎる。


 包丁を持っている姿を見ていると、鬼嫁の姿と重なり、ゾッとする時はあるが、まあ、ライラックが、やりたい事を自ら進んでやっているのだから、それはそれで、微笑ましく思う。


 付き合ってからのライラックは、毎日抱きついてきたり、どこに行くにも、オレから離れようとせずに、純粋無垢な笑顔を、朝昼晩と魅せてくれる。

 そのお陰で、今までで一番、飽きることのない毎日を送り続けている。


 ライラックの事を思い浮かべている内に、厨房の扉へと辿り着いた。


 扉を開けるや否や──、


「蓮桜!」


 ライラックが、秒の速さで笑顔で抱きついてきたので、オレは咄嗟に抱き留め、ほんのり紅く染まる頬を、愛でる様に優しく撫でながら、口を開いた。


「……ライラック、朗報だ。凛花が帰って来たそうだ。」


 頬を撫でられたライラックは、とろけた顔をしていたが、オレからの朗報を聞くと、ハッと我に返った。


「まあ!やっぱり、帰ってきたのね!……そうだわ!蓮桜の好物を、いっぱい作って、今度会いに行きましょう!」


「いや。別に、オレの好物じゃなくても良いと思うんだが──」


「超絶とびっきりの品を作りたいわ!蓮桜!今日は一日中、試食デートに付き合って!!」


 ……今日一日で、好物が好物では無くなりそうだな。


 そう、ため息を吐きながらも、ライラックの、あの楽しそうな笑顔を、ずっと見ていたいという気持ちの方が勝ってしまい、見入ってしまっていた。


 結果、断るに断れなかったが、別に後悔はしていない。


 好物よりも、ライラックの笑顔の方が、よっぽど好きだからだ。



【凛花視点】


 ──エルラージュに帰ってきてから、数週間後。


 私は、ノアと一緒に、魔女の里の復興に務めていた。


 まず、家の残骸を片付け、里の中心に、慰霊碑を建てた。決して立派な物ではないけれど、それでも毎日、綺麗な花束を供えて、お母様達に祈っている。


 焼け朽ちてしまった緑や大地は、完全復活するには、どうしても時間は掛かってしまうけれど、それでも少しずつ元気を取り戻しつつある。


 あと二週間後に、仲間のみんなが、お祝いのご飯を持って来てくれるみたいだから、それまでに、頑張って復興を進めないと。


 そして、里の復興が落ち着いてきたら、私はノアと一緒に、旅に出るつもりだ。


 理由は二つある。


 一つは、世界が崩壊しかけた時、世界各地で起こった異常現象の爪痕が、まだ残ってしまっているから、私の魔法や、ノアの腕力で、少しでも早く解決出来たらと思う。


 もう一つは、白魔や黒魔女達に対する差別が、無くなる様に、色んな人と話をしてみたいと思ったからだ。


 ……リアンやラビーみたいな、残酷で、悲しい思いをする人が、少しでも居なくなる様に。


 きっと、大変な旅になるかもしれない。心が折れる事も、何度もあるかもしれない。


 ──でも、私のそばには──、


「凛花!」


 どこまでも広がる、雲ひとつない青空を眺めていたら、ノアがやって来た。


 いつもの様に、白い歯を見せて、ニッと笑いながら。


 ──私には、いつも、この笑顔が、そばに居る。これからも、ずっと。


 だから、きっと大丈夫。


 そう心から安堵し、顔を綻ばせると、やがて、白い歯を見せて、ニッと笑みを返した。

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