第128話 本音 (ノア視点)

 凛花が元の世界に帰ってから、3ヶ月ぐらい経った。

 

 今夜は久しぶりに、神樹の元へとやって来たが、神樹は、あれから元気に育っている様だ。


 満月に照らされて、輪郭が金色に輝いている様に見える。


 その神々しい景色を、ボンヤリと眺めていると、神樹の葉の一部が、ガサガサと音を立てて、そこからルナが舞い降りて来た。


「ノアさん!お久しぶりなのです!」


「おう!久しぶりだな!」


 ルナを抱き留め、笑顔で挨拶を交わした後、ルナはオレの頭の上に乗っかって、一緒に満月を見上げた。


「……凛花さん、本当に、今日帰ってくるのです?」


 そう不安げに、ルナはポツリと呟く。


 ルナの言うとおり、凛花は、向こうの世界に帰ったが、3ヶ月後には、こっちの世界に帰ってくると言っていた。


 オレは、凛花を信じているつもりだ。……だが、正直言うと、少し、不安ではある。


「……どうだろうな。」


 だから、ルナの言葉に、曖昧な返事をしちまった。


「え!ノアさんは、凛花さんに帰って来てほしいのですよね?」


「……けど、凛花には、小さい頃から一緒に暮らしていた家族が居るんだ。たった1年近くだけ、共に旅をしたオレとよりも、あっちの世界で暮らした方が、良いんじゃないのか?あっちの世界は、魔物が居なくて平和みたいだしな。

  ……それに、そんだけ一緒に過ごした家族と永遠に別れるなんて、辛すぎるだろ。」


 そう言うと、ルナは、


「……確かに、そうかもしれないのですが……。」


 と、それっきり黙り込んじまった。

 

 ──どんな答えを選んだとしても、凛花が幸せなら、それで良い。


 オレは、あの時、そう言って、笑って見送った。


 今でも、そう思っている。

 



 ……だが……、凛花の幸せを願おうとする度に、オレの魂が、ざわついちまう。


 ……やっぱりオレは、嘘つきだな。


 …………本当は……、


 ──凛花の、傍に居たい。


 魂の中に秘めた本音を、満月に向かって、心の中で打ち明けた。


 満月が、向こうの世界に居る凛花へと、繋がっていると信じて。


「………………ッ!!」


 その時、満月の姿が、波紋の様に揺らいだ。


 そして、満月の中心から、人影がぼんやりと現れ、オレの元へと舞い降りてくる。


 ……間違いない。


 間違えるわけがない!


 あの姿は──、


「凛花!!」


「ノア!!」


 ──帰って来て、くれたんだ。


 オレは、ジャンプすると、そのまま凛花を、強く抱き留めた。


 凛花の匂いが、フワッと香る。


 ──夢じゃないんだな。


 そう実感すると、目頭が熱くなってきた。


「うううっ……、ノア……!!あいだがっだよーーーーーー!!」


 凛花は、もう既に泣きじゃくって、顔中が涙と鼻水でグチョグチョになっている。


「凛花さーーーーん!!」

「ルナーーーー!!」


 ルナも、顔中をグチョグチョにしながら、凛花と抱き合った。


 その姿を見て、クスッと笑い、溢れた涙をグイッと拭うと、歯を見せてニッと笑った。


「……おかえり、凛花。」

「おかえりなのです!凛花さん!」


 凛花も、懸命に涙を拭った後、


「……ただいま!」


 と、歯を見せて、ニッと笑った。

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