炎の精霊・バーンの神殿

第21話 砂漠のオアシス・ドランヘルツ

「暑い………………。」


 カッと強く照りつける太陽。その炎天下で、私たちは、どこまでも広がる焦熱の砂漠を歩き続けており、靴を履いていても、その灼熱さが伝わってくる。服も汗でベタベタして気持ち悪い……。


「凛花〜、家を出してくれよ……。」


「賛成ですの……。このままだと、溶けてしまうですの……。」


 ノアは両腕を前に、だらんとぶら下げ、猫背で歩き、その肩の上では、ルナが舌を出しながら、息を荒げている。


 そんな二人の提案に、賛同したいところだが、ここはグッと堪える。


「……さっき休んだばっかでしょう?そんなんじゃあ、いつまで経っても、街にたどり着けないよ……?」


「あーー……、暑い……。もうすぐ、着くはずよ……。」


 そう、怠そうに言ったアリーシャも、ノアと同じ様な姿勢で、歩き続けている。


 私も皆も、そろそろ限界が近い。早く街に辿り着かなければと、思った矢先だった。


 前方に陽炎でゆらゆらと揺らめいている、街らしき場所が見えてきたが、何か違和感がある。


「……街っぽいけど、アレ、何かな?」


 透き通った水色のバリアの様なものが、街全体を覆い尽くしている。


 アリーシャが、ハッとすると、何故か笑顔になる。


「……噂は、本当だったのね!」


 そう言うと、さっきまで怠そうに歩いていたのに、突然街に向かって一直線に走っていった。どこに、そんな体力があったのか。


「ちょっ!?アリーシャ!」


 アリーシャは、そのままバリアに突っ込んで行こうとしている。


「おい!ぶつかるぞ!」


 ノアがジャンプし、アリーシャを止めようとする。しかし、アリーシャは、弾かれるどころか、バリアをすり抜けて、街の中へと、すんなり入って行った。


「ど、どうなっているの!?」


 あれは、バリアじゃないの?


 アリーシャは、バリアの向こうから、笑顔で手招きしている。


「……何か、平気そうだな。」


 私は、ノアと目を合わせると、互いに頷き、バリアに手を触れてみた。


 すごく冷んやりしていて、心地いい。そのまま吸い込まれる様にして、バリアをすり抜け、街へと入った。


「え!?……涼しい?」


 街の中に入って、驚いた。街は、まるでエアコンの冷気に包まれているかの様に、涼しい。


 しかし、この街は、バリアみたいなのに覆われているとはいえ、太陽は見えるし、冷んやりしている地面も、砂漠のはず。


「何がどうなってるんだ?」


 ノアが聞くと、アリーシャが嬉しそうに、バリアを見上げながら、説明してくれた。


「フフン。アレはね、15年程前に、聖女様が水の魔法で創って下さった、水のドームよ。あれのお陰で、この街は涼しいのよ!だから、この街は砂漠のオアシスって呼ばれているの!」


 私たちは、驚いて水のドームを見上げた。


 あんなに大きくて、しかも街全体に影響を与えるものを、魔法で創り出したというの!?そういえば、レグリックのクエスト屋にあった水晶玉も、聖女様が創ったって、言ってたっけ……。


 私は、聖女様の偉大さを、改めて実感しつつ、ドランヘルツの街並みを見回してみた。


 レグリック程ではないが、この街も、そこそこの大きさだ。街ゆく人々は、皆薄衣を纏い、ターバンの様なものを巻いている。


 建物は、何と、この広大な砂を固めて造られており、皆、土色をしているが、形はしっかりと家の形をしている。


 街の奥の方を見ると、唯一砂で造られていない、立派な神殿の様な建物が見える。


「もしかして、アレが、バーン様の神殿?」


「お!早速行ってみようぜ!」


 すっかり元気になったノアが、駆け足で向かう。


「ま、待ってよ〜!」


 私とアリーシャも、急いでノアの後を追って行った。



        ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 

「近くで見ると、大きいね。」


 遠くから見た時も、かなりの大きさだったが、こうして目の前まで行くと、武道館みたい。


 神殿の大きく真っ赤な扉には、炎の絵が描かれており、やはり、バーン様の神殿っぽい。


「あそこ、見張りが居るのです。」


 しかし、ルナの言う通り、神殿の周りには、白いサーコートを着て、腰に剣を携える、砂漠の騎士みたいな人たちが何人か見張っている。


「あの……。この神殿に入りたいのですが。」


 私が、恐る恐る騎士の一人に話しかけるが、その人は面倒臭そうに首を横に振る。


「この神殿は、立ち入り禁止だ。さあ、帰った帰った。」


 しっしっと邪険に手で払われた。それを見たアリーシャが、ムッとした表情で、騎士に近づく。


「何よ、その態度は!ちょっとぐらい、中に入れてくれたって良いじゃない!」


「あ?何だ、このガキ。」


 子供扱いが嫌いなアリーシャは、さらにヒートアップし、鋭く睨みつけた。


「何ですって!!」


「どうかなされたのですか?」


 私とノアが、アリーシャを止めようとしたその時、背後から男性の声がしたので、振り返った。


 そこには、三日月の様に細く青い目に、白い長髪を、おさげのポニーテールに結わえている、紳士の様な雰囲気をした、騎士の男性が、不思議そうにこちらを見つめていた。


「ロキ!このガキ共が、神殿に入りたいと言ってるんだ!」


「ガキと言ってはいけませんよ。あなたには、騎士として、言葉を慎重に選びなさいと、何度も言ったはずですが?」


 ロキと呼ばれた人は、アリーシャと喧嘩していた騎士に、鋭い目つきで注意した。その騎士は、何も言えず、言葉を詰まらせている。


 そして、ロキさんは、アリーシャの目線に合わせる様に、しゃがむと、優しく微笑んだ。


「君は、精霊様に興味があるのかい?まだ子供なのに、感心だ。だが、精霊様はね、今は眠ってしまっているんだ。だから、申し訳ないのだけど、中に入れないんだ。」


 優しくそう言われたが、また子供扱いされたアリーシャは、不機嫌そうに頬を膨らませ、ロキさんを睨みつけた。


「だから、私たちが精霊様を目覚めさせに来たのよ!」


「…………え?」


 ロキさんは固まり、他の騎士たちも、訝しげに私達を見ながら、ヒソヒソと話し始めた。ヤバい、さすがに怪しまれた?


「い、いえ!何でもありません!失礼しました!!」


「おい、アリーシャ、引くぞ!」


 ノアがアリーシャを抱きかかえると、私たちは急いで走り出した。後ろをチラと振り返ると、ロキさんが呆然と、私達を見つめている。とりあえず、追ってくる様子はなさそう。


「一旦、引き返して、どうするか考えよう!」


 私たちは、街の入り口へと引き返すことにした。


 


 



 

 


 


 


 


 


 




 


 


 

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