第113話 黒いマナ (凛花・ラビー視点)

【凛花視点】


 ノアと、グータッチを交わした、その手を開くと、私はルナに向かって手を伸ばす。


 私の考えを、瞬時に汲み取ってくれたルナは、


「はいなのです!」


 と、頷くと、元気良くジャンプしながら弓矢へと変化へんげし、私の手に握られた。


 矢を構えると同時に、アリーシャも真横に並んで身構えると、私の横顔を見て、フッと笑った。


「……顔、さっきに比べると、随分スッキリしたじゃない!」

「ノアの頑張っている姿を見たら、負けていられないなって思って!」


 私達の会話を聞いたラビーは、人形の様な表情のまま、少し首を傾げた。


「……素直に、ノアの力を借りれば良かったのに。理解不能。己の心を奮い立たせれば、勝てるとは────ッ!!!」


 ラビーは、言いかけている途中で突然、両目をカッと開いて、胸を押さえながら蹲った。

 表情も、少し苦しそうで、ラビーにしては、初めて見る表情だった。


「何?急に……ッ!」


 疑問を口にした瞬間、私達の周りの空気が、ズシリと重くなり、赤、青、黄色などの、様々な色の、ビー玉の様な光の粒子が、いくつも浮かび上がってきた。


「……これは、マナ?一体、誰の……?」


 そう呟いた、次の瞬間。


 ライラの歌のボルテージが、最高潮に達し、この場全体に──というか、天にまで届きそうな程に、地底を揺るがす程に、神々しくも、力強い歌声が響き渡った。


『これは、ライラさんの歌魔法なのです!?信じられないのです!一人の体に、こんなにおっきなマナが宿っているのです!?』


 弓矢姿のルナも、毛で出来た弓幹ゆがらを、ピンッと逆立てて、驚愕している様だった。


「……くっ……!」


 ラビーの声で、ハッと我に返り、その方向を見ると、ラビーが胸の苦しみに耐えながら、右手をライラへと向けていた!


「させないわよ!」


 放たれた黒い炎の球を、アリーシャが間一髪で雷の斬撃を飛ばし、消し去ってくれた。


「Ah〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」


 玲瓏な一声が響き渡った瞬間、重たかった空気が一気に軽くなり、辺りを漂っていた光の球が、天高く舞い上がった。


 それと同時に、ライラが両目をカッと開かせ、両手を球の方へと掲げた。

 

 すると、カラフルな光の球が、一つになり、大きな虹色の球へと変化した。


「さあ!フィナーレですわ!!ライブの記念に、特大の薬玉くすだまを喰らえですわ!!」


 ライラが、ニヤリと笑い、両手を思いっきり振り下ろすと、巨大な虹色の球が、ラビーに向かって落ちてきた!


「ちょっと!私達まで巻き込まれるじゃない!」


 と、叫ぶアリーシャと共に、私も慌てて、その場を離れた後、ラビーを振り返る。


 ラビーは、立ち上がる事もままならず、そのまま虹色の球に包み込まれた。




【ラビー視点】


 ……私は、あの変な令嬢の攻撃を、まともに喰らってしまったはず……。


 それなのに……、


 何?この中は……。


 胸の奥から、体全体が、じんわりと温かくなってくる……。


 まるで、忘れていた“感情”というものが、湧き上がってくる様な……。


 今まで、私に取り憑いていた“何か”が、体から出ていく様な……。


 その証拠に、私の胸の辺りから、黒い煙の様なものが、外へと流れ出ていく。


 あの変な令嬢は、一体、何をしたというの……?




【凛花視点】


 ラビーを包み込んでいる、虹色の球から、一筋の黒い煙が現れ、まるで生き物の様に蠢いている。


 あの煙からは、ラビーのマナを感じる。ラビーが何か放ったのかと思ったけど、球の中に浮かぶラビーも、怪訝な表情をしている。


「上手くいきましたわ!さあ、二人共!ここからが本番ですわ!!」


 すると、いつの間にか、ライラが私達の傍に立っていて、身構えていた。


「ちょっと、ライラ!上手くいったって何!?アレは何なのよ!?」


 煙を指差すアリーシャに、ライラが口を開きかけた、その時だった。


 黒い煙が、素早くグルグルと渦を巻き、徐々に形を変えていった。


 やがて煙は、真っ黒くて、巨大なラビーを形どり、パーツのない顔で、私達を見下ろしている。


 訳が分からず、ポカンと口を開ける私達に、ライラが説明をしてくれた。


「アレは、ラビー自身が、心と共に封じていた、黒いマナそのものよ!ラビーは、わたくしの歌魔法が苦手だと思ったから、全心血を注いだ、特大の歌魔法を放ってみたわ。

 そしたら、ラビーの体から、黒いマナを引き剥がせたの!」


「……つまり、アレを倒せば、ラビーは無意識に周りの生命を奪わずに、普通に過ごせるって事?」


 私が少し考えた後に、そう聞くと、ライラは、


「そうですわ!」


 と、腰に手を当て、豊満な胸を張りながら、誇らしげに笑った。


「……なら、さっさと倒すわよ!褒めるのは、その後にするわ!」


 アリーシャの声で、私達は一斉に、実体化した黒いマナに向かって、それぞれ身構えた。


 


 

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