第82話 無事でいてくれ (ノア視点)

「──ッ!?凛花!!」


 真っ先に井戸の中に飛び込んだ凛花に続いて、オレ達も慌てて飛び降りたが、そこには凛花の姿はなかった。


 それに、井戸の底に降りたはずなのに、ここはまるで、洞窟の大広間の様だった。辺りは薄暗く、地面は不気味な紫色の藻で覆い尽くされてやがる。


 一体ここは、どうなってやがるんだ!?


「凛花とルナは、どこにいるのよ!?」


 焦燥しきった様子で、辺りを探すアリーシャの声に続き、


「──ッ!?お嬢も居ないぞ!」


 と、焦る蓮桜の言葉で、ライラも居ない事に気が付いた。


 何が潜んでいるか分からない場所に、ライラも一人で居るとしたら、ヤバいな。


 オレ達3人が焦る中、努めて冷静に周囲を観察していたロキは、ハッとすると、一方向を指差す。


「もしかすると、この先に居るのかもしれません!急ぎましょう!」


 ロキが指し示した方向には、黒々として、先が全く見えない道があった。


 オレ達が、その先へ走り出そうとしたその時。


「あれ〜?魔女がいないぞ〜?」


 オレ達が向かおうとしていた暗闇の先から、のんびりとした男の声が聞こえたので、オレ達はハッとすると、急停止し、身構える。


「誰だ!!」


「も〜、そんなに怒鳴らなくても、すぐに行くよ〜。」


 オレが声を張り上げるとすぐに、腹がでっぷりとした、黒髪短髪の大男が、目の前の暗幕からヌッと現れた。


 しかも、ニコニコと穏やかな表情をしていて、この薄暗い場には、かえって不自然な形相をしてやがる。


「……で?あんたは誰なのよ!凛花達がどこにいるのか、知ってんの!?」


 大男は、アリーシャの一喝に、全く顔色一つ変えずに、のんびりと馴れ馴れしく手を振ると、ゆっくりと口を開いた。


「やあ。ボクの名前は、ルーエン。に仕えているんだ。よろしくね〜。」


 あの方って、黒幕の白魔の事だな。こんなのんびりとしてそうな奴でも、手下なのか。油断ならないな。


「それで、君たちの探している仲間の事なんだけど〜、ボクにも、どこにいるかは分からないんだ〜。


 この空間は、黒魔女様が創って下さった、特別な空間で、必ずしも全員が、同じ場所に居られるとは限らないんだよね〜。だから、運が悪かったね〜。」


 ルーエンは、悠長に話した後、口元に手を当てて、「ぷぷぷ。」と、笑った。


 こいつ、馬鹿にしてやがる。


 短気のアリーシャが、流石にブチギレた様で、腰の雷牙を抜き、物凄い剣幕でルーエンに向かって、バチバチと怒りの飛電を帯びる刃先を向ける。


「そのふざけた口を、二度ときけなくしてやるわ!!」


 すると、ロキも背中の大剣を抜き、アリーシャの横で構えると、オレと蓮桜に向かって、


「ここは、私達に任せて、二人は早く先へ!」


 と言い、暗闇の道の先を、クイッと顎で示した。


「ああ!任せた!」

「すまない。恩にきる!」


 オレと蓮桜は、礼を言うと、暗闇に向かって、一気にジャンプした。


 ルーエンに邪魔をされるかと思っていたが、ルーエンはオレ達とすれ違っても、微動だにせず、余裕そうにニコニコと笑ったままだった。


 すんなりと通れた暗い道を、蓮桜と全速力で駆け抜ける。


 ルーエンがあっさりと通したから、他にも敵が潜んでいるのかもしれない。


「……お嬢、無事でいてくれ……!」


 同じことを考えていた蓮桜も、額に皺を寄せながら、道の先を見据える。


 しばらく進んで行くと、道が二手に分かれているのが見えてきた。


「……蓮桜は、どっちに行く?」

「オレは右に行く。」

「んじゃあ、オレは左だな!」

「もしも、その先にお嬢が居たら、護ってやってくれ。」

「ああ!お前も、もし凛花と合流したら、よろしくな!」


 スピードを緩めず、手早く会話を済ませると、蓮桜と別れた。


 ──凛花、無事でいてくれ……!


 オレは、祈る様な気持ちで、漆黒の闇の中、神速に駆け抜けた。

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