第83話 闇の一戦と、愛の根比べの始まり (凛花・ライラ視点)

【凛花視点】



「────ッ!!!」


 眼前に迫りつつある凶刃に、気が付いたのが遅く、私は思わず目を瞑ってしまった!


「凛花さん!!」


 ルナの声が聞こえたのと、冷たい刃が首元を掠めかけたその時。


 ヒュッ!

「──ッと!」


 何かが、目の前の空を切り裂いたのと同時に、カルマという男が、後方へとジャンプし、私から距離を置いた。


「……チッ、お仲間の登場か。馳せ参じるのが早いこった。」


 私は、苛立つカルマの言葉を聞いて、目を開くと、カルマの視線の先を確認する。


 すると、そこには────。


「蓮桜!!」

「蓮桜さんなのです!!」


「凛花、ルナ、無事か!?」


 蓮桜は、そう言うと、私の目の前に、護る様に立ちはだかってくれた。


 さっき目の前を横切ったのは、多分、蓮桜が投げつけてくれた、お札だったのかも。


「……ここには、お嬢は居ないようだな。恐らく、ノアが向かった先にいるのか。」


「みんな、バラバラなの?」


「ああ。アリーシャとロキは、別の敵と交えている。ノアとは、途中の分かれ道で、別れた。お嬢も、きっとその先にいる。」


 蓮桜が、眼前の敵を見据えたまま、そう教えてくれた。


 みんな、違う場所にいるんだ。


 ────ノアも……。


「凛花、今すぐに構えた方が良い。」


 不安を感じていた私は、蓮桜の言葉でハッと我に返ると、慌てて首を横に振る。


「……魔法が、使えないの!呪われちゃったみたい……。」


「何!?」


 驚いた蓮桜が振り向いた瞬間、


「……そういうこった。」


 と、冷たい声と共に、カルマが蓮桜の背後に、一瞬で移動し、素早く鉤爪を振り下ろした!


「蓮桜!!」


 ガキンッと、鉄が強く弾かれる音が響いた。


 蓮桜が私に視線を向けたまま、後ろ手に、持っていた札を巨大化し、盾のようにして鉤爪を弾いた。


 カルマは、よろめいたけど、すぐに体制を立て直し、再び蓮桜から距離を置くと、フッと口元に笑みを浮かべた。


「……へえ〜。そんなことも出来るんだ。随分と神器を使いこなしているな。」


「……当たり前だ。幼少期から、お嬢を護る為に、抜かりない修行をしてきたからな。だが、今ここには、お嬢は居ない。だから……。」


 蓮桜は、一旦そこまで言うと、自身の四肢に紫光の札を、瞬時に張り付け、手甲剣の様に構えた。


「だから今は、凛花とルナを護る。」


「蓮桜……。」

「蓮桜さん……。」


 その後ろ姿が、いつもより少しだけカッコよく見えた。……ノアには負けるけど。


 ──もしも、ここに居たのが私じゃなくて、ライラだったら、嬉しすぎて大興奮して、鼻血を出しながら、失神していたかもしれない。



 

       ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



【ライラ視点】



「うう〜、何なのよ、ここは……。」


 みんなと一緒に、井戸の中に飛び込んだはずなのに、どうして私一人なのよ!


 しかも、何故だか洞窟の中だし、地面には紫色のモジャモジャした草が生えているし、気持ち悪いわ。


「はあ〜。蓮桜に会いたいわ。……この先に居るのかしら?」


 目の前の、細くて真っ暗な道を見て、ゴクリと唾を飲み込む。


 真っ黒すぎるから、足を踏み入れたら、まるで呑み込まれてしまいそうだわ……。超絶激怖だわ……。


 しばらく真っ黒な大口と、睨めっこしていたけれど、やがて首を横にブンブンと振り、鼻息を荒げる。


「……い、いえ!こんな事では、ダメですわ、ライラック!こんな所で立ち止まっていたら、一生蓮桜と再会出来ませんわ!!そうしたら、一生結婚も出来ませんわ!!そんなの嫌ですわ!!」


 わたくしは、そう自分に強く言い聞かせると、鼻の穴を大きく広げて、思いっきり深呼吸をした。


「……よし!ライラック、出動ですわ!!」


 意を決して、真っ黒の大口に足を踏み入れようとした、その時。


「あら〜。あなたも恋する乙女なのね〜ん?」

「──ぎょえッ!!?」


 背後から突然、女性の様な口調が聞こえてきたので、心臓が飛び出そうなぐらいに、驚いてしまった後、すぐに慌てて振り返る。


 お祖父様の様なツルツル頭には、大きなハートのタトゥーが入っていて、目元にはカールした長い睫毛があり、口元には、たっぷりと真っ赤な口紅を塗った、筋肉ムキムキのオカマが、そこに立っていた。


 しかも、そのオカマは、ピンクのピッチピチのタンクトップと、丈が物凄く短めの、純白のミニスカートを履いている!変態だわ!!


「あ、あなた!何て格好をしているの!?」


「あらヤダ。オカマは自由な生き物なのよ?恥じらいを捨てなきゃ、好きに生きていけないわよ?」


 変態のオカマは、気持ち悪く身体をクネクネさせながら、そう言うと、次にとんでもない事を口にした。


「ちなみに、アタシの名前は、アレクシアよ!に仕えているのよん!」


 アレクシア(絶対に偽名ですわ)は、黒幕の手下なの?あんな格好をしているのに?


 目を丸くしている私を尻目に、アレクシアは、スカートのポケットから取り出した口紅をたっぷりと塗りまくり、パッパと唇を動かして馴染ませた後、再び私に視線をうつした。


「ところで、さっきも聞いたけど、あなたも、恋する乙女なのよね?」


「そ、そうですわ。わたくしは、今すぐにでも蓮桜の元に行かなくてはいけませんわ!!」


「分かるわ〜。アタシも、チャチャっと、ここでの仕事を終わらせて、今すぐにでもあのお方の元に行きたいもの〜。……でも、あのお方は、黒魔女様といつも一緒に居るのよね〜。う〜ん、ジェラシ〜!」


 こ、この人、さっきから何を仰っているのかしら?しかも、目を輝かせながら、何もない天井を見つめて、ため息を吐き始めたし!


 ……で、でも、今がチャンスですわ!


 私は、素早く踵を返すと、あの黒々とした大口に向かって、猛烈ダッシュした。


「……だからこそ、一刻も早く帰って、あのお方に甘えるのよオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


「──────ッ!!?」


 背後のアレクシアが、突然、巨人かと思うぐらいに、強い咆哮を放ったので、思わず立ち止まり、耳を強く塞いだ。


 しかも、辺りが地震のようにグラグラと揺れ、やがて立っていられなくなり、尻餅をついてしまった。


「いった……。」


 お尻が痛い上に、耳がキーンとしていて、視界も少しぐらついている。


 やっぱり、黒幕の手下だけあって、油断してはいけなかったわ……。


 そんな事を考えているうちに、いつの間にか背後では、アレクシアが逞しい腕を組み、鋭い目つきで私を見下ろしていた。


「逃げるなんて、卑怯よ?あなたとアタシ、どっちの愛の力がまさっているのか、勝負よ!!」


「あ、愛の……力?」


「そうよ!あなたのその神器、想いの力が原動力でしょっ!?だったら、私の愛のデスボイスと、あなたの愛の歌の力で、勝負よ!!


 ……もちろん、負けた方は、ここで死ぬから、一生、愛する人に会えないわよ?」


「なっ……!」


 ……何ですって!?一生蓮桜と結婚できない!?そんなの……!


「嫌ですわ!!!」


 私は、何とか震える足を、無理やり立たせて、アレクシアに向き合った。


 そして、負けじと腕を組み、アレクシアをキッと睨みつける。


「……あ、あなたの愛の大きさなんて、私の蓮桜に対する愛に比べれば、豆粒ですわ!!そんなの、ペシャンコにしてやりますわ!!」


 アレクシアは、殺気立ちながら、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「……言ったわね?その言葉、すぐに後悔してやるわよ?」


 私とアレクシアは、バチバチと火花が散るかと思うぐらいに、睨み合った。

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