第104話 主と私 (黒魔女視点)
私が今、立っている場所は、真っ黒に塗りつぶされた、何もない空間。
ここは、主の部屋。
そして目の前には、この闇の空間に似合わない、純白色の、絹の様な髪と、血の様な真っ赤な瞳を持つ、主の姿があった。
けれど、その色は、徐々に塗り変わっていく。
主が、人間に化けたのだ。
「……主。その姿になったということは、また自ら、凛花達の元へ向かうのね。」
純白の髪と、真っ赤な瞳を、全く異なる色へと変化させた主は、ゆっくりと頷いた。
そして、私の足元を、眉尻を下げながら見つめると、──もう、怪我は平気なのか?と、尋ねた。
「ええ、万全の状態よ。私はいつでも行ける。」
主の言う怪我とは、私が以前、美桜という少女を人質にした時、凛花の放った矢により、右足を負傷したのだが(71話にて)、恐らくその事を言っているのだろう。
だが、掠めただけなので、つい数刻前、凛花と対峙した時には、もう既に完治していた。
主は、怪我の完治を確認し、ホッと胸を撫で下ろした。
相変わらず、表も裏もない人だ。本来なら、世界を壊す様な人ではないのだろうと、常々思っている。
……だが、世界が、人間が、白魔ですらも、主の思想を変えてしまった。
主も、私と同じ、無慈悲な運命の波に攫われてしまった一人である。
そんな主と出逢ったのは、アンナを失ってから、数十年も経った頃だった。
まるで、運命に導かれたかの様に。
一目見た時から、主の瞳の奥からは、燃えたぎる様な何かを感じた。それが何なのか気になった。
主も、私の死んだ様な瞳が気になっていたらしい。
幸いにも、私は白魔に、主は黒魔女に、特別な恨みを抱いていなかったからか、気が付けば共に行動し、互いの事を打ち明けていた。
その頃から主は、この無慈悲な世界を、終わらせたがっていた。
──私も、同じだった。
凛花は、私が、誰かに止めてほしいと願っていると言っていたが、そんなはずは無い。
あの時流れた涙は、凛花の魔法のせいだ。
──あれは、偽りの涙。そうに違いない。
醜い聖女の末裔、凛花。
まだまだ未熟の魔女だと、正直侮っていたけれど、私が今まで出逢った敵の中で、一番の脅威になると思う。
しかし、もう二度と、この前の様な失態は犯さない。
今回は、主も一緒。
だから主に、あの様な無様な姿を、見られたくない。
そう思い、より一層、全身のマナを研ぎ澄ませると、私も主と同様に、魔法で見た目を変貌させる。
何かの真似をするのは、昔から得意。幸いにも、心を失くした後もそうだった。
真似をする対象の、仕草や、歩き方など、一度見ただけで、すぐに覚えられた。
この姿は、特に馴染みやすかった。
私と同じ、黒い存在だから?
全く別の姿へと変身した私に、主はフッと笑みを浮かべると、前を見据える。
──さあ、そろそろ行こうか。この世界の終焉に。
主は、そう言うと、真っ直ぐと歩き出した。
……アンナ。もうすぐ、もうすぐで、アンナを死に追いやった、この世界を終わらせられる。
脳裏に焼きついた、アンナの悲惨な最後の姿を思い浮かべながら、私も真っ直ぐに前を向いて、歩き出した。
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