エルラージュの白き聖女

決戦

第105話 オリジン様の声 (ルナ視点)

 私達は、凛花さんの、ママさんの家の前で、お手てを合わせて、お祈りをした後、魔女の里を出て行ったのです。


 その時、凛花さんが歩きながら、ママさんの形見だと言っていた鍵を、大事そうに胸の前で、ギュッと握りしめながら、真っ直ぐに前を見据えていたのです。


 そのお目めは、とても力強くて、どんな真っ暗闇の中にいても、ピカピカと光り続ける、お星様の様に見えるのです。


 ……やっぱり、凛花さんは、強いのです。

 

 私は、そんな凛花さんの事を、使徒の妖精として、ちゃんと足を引っ張らずに、手助け出来ているのですか?


 これからも、ちゃんと出来るのです?


 そう、モヤモヤと考えながら歩いていたら、蓮桜さんの声で、ハッとしたのです。


「神樹に向かえば良いんだな?」


「ええ。確か、昔聞いた話によりますと、宝珠が封印されている場所は、神樹の辺りにあるそうです。」


 ロキさんが、そう答えながら、目の前の大きな樹を指差したのです。


 辿り着くには、もう少し掛かりそうなのですが、それでも、お空が隠れてしまうぐらいに、すごーく大っきく見えるのです!


 ……なのですが、樹は、すっかり枯れてしまっていて、すぐにでも消えてしまいそうなのです。


「……あの中に、オリジン様がいるのです?」


 私を生んでくれたオリジン様と、私の仲間が、神樹に宿っているはずなのです。


 でも、あのボロボロな神樹を見ていたら、本当に生きているのか、不安になってきたのです。


 そう、シュンとしてしまった、その時だったのです。


 ────ルナ。


「……え?」


 聞き覚えのある声が、私を呼んでいる気がしたのです。


 ──私の傍まで、来て。


 その声は、確かに、あの樹から聞こえるのです。やっぱり、気のせいじゃないのです!


「……オリジン様?」


 気が付けば、私は神樹に向かって、ピョンピョンと、飛び跳ねる様に走り出したのです。


「ルナ!?」


 ビックリする凛花さん達の声に、振り向かずに、私は夢中で神樹に辿り着くと、何となく神樹に触ってみたのです。


「ぴぎっ!?」


 その時、真っ白くて眩しい光に包まれて、お目めをギュッと瞑ったのです。


 


 すぐに、眩しくなくなったので、お目めを開けてみたのですが……。


「……あれ?ここは、何処なのです?」


 どこを見渡しても、真っ白なのです。


 おかしいのです。私は、神樹の前に居たはずなのです。


 ……そういえば、みんなも居ないのです!


「凛花さーーーーーーん!!」


 胸いっぱいに息を吸い込んで、大きな声で叫んでみても、返事は返って来ないのです。


 その代わりに──、


『──ルナ。』


 あちこちから、響き渡る様に、オリジン様の声が聞こえたのです。


「……オ、オリジン様……、なのです?」


 キョロキョロ見回しても、オリジン様は見えないのですが、どこかで頷いた様な気がしたのです。見えないのに、不思議なのです。


『……身動きが出来ない私は、分身である貴方の目を通して、ずっと外の世界を見ていました。

 貴方は、記憶を失いながらも、使徒の妖精として、聖女の末裔の手助けをし、四大精霊を救い、よくぞ、ここまで辿り着きました。まずは、お礼を言います。』


 オリジン様に、優しい声で、そう言われると思わなかったから、ビックリしたのですが、ちょっぴり嬉しかったのです。


「わ、私は、ちゃんと、凛花さんの役に立てているのですか?」


『ええ。ですが、貴方には、未知の強大な力が眠っています。


 私は、身動きがとれなくなる寸前に、使徒の妖精の中でも、最も力の優れている貴方──、ルナを、最後の力を振り絞り、何とか遠い地まで逃しました。


 私は、ルナの力を信じています。きっと、ルナと聖女の末裔が、私を解放してくれるはず。


 ですから、ルナは、何も恐れる事はありません。自らの力を、信じて下さい。』


「……オリジン様……。」


『もう、時間がありません。もうすぐ、あなた達は、大きな戦いをするのでしょう。

 その前に、ルナと、直接対話することが出来て良かったです。』


 その時、見えない柔らかなお手てに、優しく撫でられた様な気がしたのです。


『さあ、お行きなさい。』


「オリジン様!待ってなのです!」


 私が叫んだ時、さっきみたいな、眩しい光で目が開けられなくなったのです。

 オリジン様の気配も、どんどん離れていくのです。




「────ナ!……ルナ!」


「──はっ!?」


 お目めを、パッチリと開けると、そこには、みんなが居て、心配そうに見ているのです。

 みんなの後ろには、青い空と白い雲、神樹の細いお手てが見えるのです。元の場所に戻ってきたのです。


 凛花さんは、起き上がる私を見て、ホッと一安心すると、微笑んだのです。


「……良かった。ルナ、急に倒れたから、心配したんだよ?どこか、変なところはない?」


 私は、寝ていたのです……?

 じゃあ、あれは、夢……だったのです?


 でも、身体中に、オリジン様に撫でられた感覚が、まだ残っているのです。


 すごく優しくて、あったかいお手て。

 アレはきっと、夢じゃなかったのです!


 オリジン様は、きっと、私を元気づける為に、会ってくれたのです!


「……ルナ?」


 返事をしない私に、凛花さんが心配そうに呼びかけたのです。

 

 私はハッとすると、首をブンブンと横に振ったのです。


「何でもないのです!それよりも、オリジン様が────」


「……アレ?皆さん、こんな所で奇遇ですね。」


 話している途中で、聞いたことがある声がしたので、私もみんなも、一斉に、その人を見たのです。


 そこには、綺麗な金髪の男の人、リアンさんと、黒猫のラビーさんが居たのです。


 この前、具合が悪かったのですが、今は元気そうなのです!良かったのです!


 私がリアンさんの傍に行こうとしたら、


「ッ!ルナ!!」


 と、凛花さんが、突然叫んで、私をすぐに抱き上げたのです。


「……り、凛花さん?」


 凛花さんは、何故か怖い顔をして、リアンさんを睨んでいるのです。


 他のみんなも、何だか雰囲気がピリピリしている様な気がするのです。


「おや?みなさん、どうして睨んでいるんですか?」


 リアンさんが、不思議そうに首を傾げると、ノアさんが、さらに睨みつけたのです。


「……やっぱり、テメェだったのか、リアン。」


「……何のことでしょう?」


「とぼけんじゃねーよ。」


 ノアさんは、次に、とんでもない事を言ったのです。


「……テメェが、黒幕なんだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る