第122話 浄化

「…………ッ!!」


 ハッと目を覚ますと、私は、乾いた地面の上で横になって倒れていた。


 現実に戻ってきたみたいだ。……でも、倒れる直前に感じていた、息苦しさはない。


 上半身を起こして、急いで周りを見渡すと、倒れている皆の中心に、白い光を放つルナがいた。


 よく見ると、アルマの黒いマナが、光の範囲には入ってこれないみたいで、光を避けている。まるで、結界みたいだ。


「……ル、ルナ……?」


 ルナは、いつになく、キリッとした表情で、私を見据えている。


「……オリジン様が、私に、全部のマナを託したのです。」


「……オリジン様が?」


 オリジン様が宿っている、神樹を見ると、……神樹は、真っ黒に染まっていて、生命力すらも、何も感じない。


 きっと、神樹の中にいた、ルナの仲間も、オリジン様と一緒に、消えてしまっているかもしれない。


「……ルナ……。」


 私は、ルナが涙を堪え、小さく震えているのに気が付くと、そっと抱きしめた。


「……私も、お母様に、全てのマナを授かったの。……だから、一緒に終わらせよう、ルナ。」


「……はいなのです!」


 ルナは、鼻水を啜って、そう返事をすると、弓矢へと変化した。


 その姿は、いつもと、見た目が違う。


 クリーム色だった弓矢は、一点の曇りの無い、純白の輝きを放っている。


 それを手に取ると、ルナの膨大なマナが、体中に流れ込んでくる。


『凛花さん!』


 ルナの声に頷くと、まずは、あの黒い空に向かって、光のマナを込めながら、矢を構える。


 すると、お母様のマナも合わさっているからか、矢にマナを込める速さも、マナの量も段違いに上がっているのが、すぐに分かった。


『今なのです!』


 ルナの合図と共に、放たれた矢は、白く輝き、黒い天穹へと、一直線に突き抜けていった。


 そして、矢が突き抜けた部分から、一筋の白い光が差し込み、徐々に天地全体に広がっていく。


 さらに、アルマから放たれている黒いマナが、白い光に包まれて、徐々に消えていった。


『……オリジン様のマナは、“邪気を無に還し、新たな光へと生まれ変わらせる力”だそうなのです!』


「……邪気を、無に還す……。」


 ……その力を使えば、アルマの邪気も、払える事が出来るかもしれない。


 そう思い、もう一度、今度はアルマに向かって、光の矢を放つも……。


 ──直前で、何かに阻まれてしまい、矢は消えてしまった。


 アルマも、白い浄化の光に負けじと、黒い障壁を張り、身を守ったのだ。


「……ッ!!」


 ……お母様や、オリジン様の力を合わせても、一筋縄には行かないの!?


 どうにかしなきゃと、思案を巡らせようとしたその時、夕焼け色の光が、私の横を通り過ぎ、障壁に向かって、思いっきり殴りつけた。


「ノア!」


「うおらああああああああッ!!!」


 ノアは、まだ、傷も体力も回復していなくて、ボロボロなのに、それでも、アルマの障壁を殴り壊そうとしてくれていた。


 すると、ノアの頭上の空に、黒い渦が現れ、そこからノアに向かって、断罪の黒い雷が落とされた!


「ノア!!」


 手を伸ばした、その時。


「はあっ!!!」


 ロキさんが、瞬時に大剣を地面へと突き刺して、白い結界で身を護ってくれた。


「はっ!!」


 すると今度は、紫光に輝く、無数の札が現れ、障壁へと飛んでいき、張り付いていった。


 蓮桜が、障壁の力を弱めようと、お札を貼ってくれたみたいだ。


 ……だけど、それを邪魔するかの様に、私達の周りに、黒い光を放つ楔が幾つも現れ、一斉に迫ってきた!


「うりゃあっ!!」

「とりゃあっ!!」


 その時、アリーシャが短剣に閃電を纏わせ、ライラが、強面の鬼嫁を出現させ、次々と、素早く、楔を捌いてくれた。


 すると今度は、大きくて鋭利な、様々な形をした刃物が周りに現れ、私やノアに向かって、刃を向けている!


『……凛花さん!私達は、矢を放つ準備をするのです!さっきよりも、もっと、マナを込めなくてはいけないのです!』


 私は、ルナに頷き、アルマに向かって、矢を構える。


 それと同時に、四方八方から、嵐の様に刃物が襲い掛かり始めた。


 ロキさんとアリーシャが、ノアに襲いかかる刃物を、蓮桜と鬼嫁が、私の周りの刃物を、休む暇もなく、次々と捌き続けていく。


 ……きっと、障壁が壊れても、また新しい障壁が、すぐに現れる。


 だから、障壁が壊されるのと同時に、矢を放たなくてはいけない。


 みんなを信じて、目の前の障壁と、アルマしか見えないほどに、目を細めて集中した。


 そして、自分とお母様のマナを、全て矢尻に込め、その時を待った。


「はあああああああッ!!!」


 ノアは、塞ぎかけた傷が開き、再び血を流しながらも、踏ん張って、障壁を壊そうとしてくれている。


 ……お願い、ノア。


 ──壊して!


「ゥアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 その時、願いが届いたのか、ノアから溢れる夕焼けの光が、障壁を飲み込み、


 ──ピシッ……!!


 微かに、ヒビが入った!


「…………ッ!!」


 それが見えた瞬間、私は矢を放った。


 同時に、障壁も完全に壊れ、夕焼け色に輝く、光の粒へと変化し、昇天した。


 1本の矢は、ルナのマナの力で、5本の矢へと分裂し、そのうち4本は、地水火風、それぞれの属性のマナを宿している。


 大地の震える怒り、猛り狂う水流、燃え盛る爆炎、苛烈なる疾風。


 全ての属性の魔法を同時にぶつけ、アルマの力を弱らせたところへ……。


「いっけーーーーーー!!」

『いくのです!!』


 強い浄化の、白光の矢が、アルマへと一直線に飛び、そして──、


 アルマを貫き、白い光で包み込んでいった。

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