第17話 火のドラゴンと、竜巻の矢

 翌朝。


 私たちは、ドラゴンを探しに、街の外を歩き回っていた。


 昨日と同じく、夜から何も食べていない。だから、さっさと終わらせないといけないんだけど、まずはドラゴンが、どれぐらい強いのか、様子を見ないと。


「きゃあっ!!」


 そう考えていると、突然近くから、女の子の悲鳴が聞こえたので、私たちはハッとする。


「あっちの方から聞こえたのです!!」


 頭上のルナが指差した方向に走っていくと、そこには、青く巨大なドラゴンが上空に浮かんでおり、そのドラゴンの足に、人が掴まれていた。


 私は、その人物を見て、ハッとした。


「あの子…………!」


 昨日、私から全財産を奪って行った、ゆうに似ているあの子だ。


「ちょっと!放しなさいよ!」


 少女は、ドラゴン相手に怯えるどころか、ジタバタと暴れている。


 すると、暴れた拍子に、少女は地面へと落下していった。


「きゃあっ!!!」

「危ない!!」


 私は、咄嗟に、少女に向けて両手を突き出した。


 すると、両手が緑色の光に包まれ、そこから風が吹き出してきた。


 その風は、少女を優しく包み込み、そのままゆっくりと地面へ降ろしてくれた。


「良かった……。」


 咄嗟に弓矢なしで、しかも初めて風のマナを放ってしまったけど、上手く助けられたと、私は一安心すると、何が起こったのか分からない様子の少女の元へと駆けつけた。


「大丈夫!?」


 少女は、私の顔を見るや否や、昨日お金を盗んだ相手だと気付いたのか、ハッとする。


「あ、あんたは……!」


 グオオオオオオオオッ!!!


 その時、上空のドラゴンが、けたたましい咆哮をあげ、私と少女に向かって、急降下してきた。


「おらっ!!!」


 ノアが私と少女の前に立ちはだかり、強烈なパンチでドラゴンを弾き返した。


 ドラゴンは、ノアの並外れた一撃を食らわされ、激痛で狼狽えている。


「大丈夫か?」


 振り返ったノアの瞳と髪の色を見て、少女は驚愕した。


「は、白魔……!?」


 さらに、ルナが弓矢に変化し、私の手に収まったのを見て、口をパクパクさせている。


「は、はあっ!?へ、ヘンテコな生き物が、弓矢になった!?」


『ヘンテコではないのです!』


「しかも喋った!!」


 私は、立ち上がると、頭の中で混乱の嵐が巻き起こっている少女の前に、護る様に立ちはだかる。


 それと同時に、体勢を整えたドラゴンが、大きな口を開き、そこから炎の玉を吐き出してきた。


 私は、咄嗟に少女を抱え、炎の玉を避けた。

 炎の玉に当たった草原は、プスプスと煙を上げながら、真っ黒に焼け焦げている。


「あいつ、火を吹くのかよ。」


 ノアが、次々と発射される炎の玉を避けながら、舌打ちし、そう言った。


 ドラゴンが動き回るノアに集中している隙に、私は、風の矢を放とうと、構えた。


 風の矢は、まだ放った事がないから、どれぐらいの威力なのか分からないけど、エアル様から授かった力だ。試してみる価値はあるかも。


 そう思いながら、矢尻に風のマナを込める。


 すると、矢尻は緑色に光り始め、どんどんと輝きを増していく。


『凛花さん、いけそうなのです!』


 ルナの合図と共に、私は矢を放った。


 すると、放たれた矢は、風を纏い、どんどんと勢いを増していく。まるで竜巻の様。


 うねりを上げた竜巻の矢が、見事ドラゴンの右前脚に命中すると、ドラゴンはよろめき、苦しそうに唸り声をあげた。


「はあっ!!」


 その隙にノアが、一気にドラゴンに間合いを詰めると、白魂の拳で思いっきり顔面パンチをくらわせた。


 勢いよく吹っ飛んだドラゴンに、ノアが続けてジャンプし、地面に思いっきり叩きつけた。


 最後に私がトドメを刺そうと、倒れているドラゴンに向けて、両手を突き出し、風のマナを放出させた。


 すると、ドラゴンを中心に、巨大な竜巻が発生し、そのままドラゴンを飲み込んだ。


 ドラゴンは、苦しそうに、のたうち回っている。


「凛花、すごいじゃん!弓矢じゃなくても、ちゃんと出来るじゃん!」


 ノアは感心していたが、私は苦笑した。


「敵が動かなければ、だけどね。」


 そう。動いている敵には、まだどうしても狙いが定まらない。だから、ルナが、ついてきてくれて、正直良かったと思っている。


「…………すごい……。」


 すると、背後にいる少女が、目を見開きながら、私を見上げていた。


 私は、そんな少女の目線に合わせてしゃがむと、少女に優しく微笑みかけた。


「大丈夫?」


 少女は、しばらく呆然と、私を見つめていたが、やがてハッと我に返ると、後退りし、キッと私に睨みつけた。


「……どうして助けてくれたの?盗んだ金を返してもらう為?それとも、私を警備隊に突き出す為?」


「……え?」


 私は、驚いたが、少女の鋭き眼光からは、どこか不安と悲しみが入り混じっており、少し揺らいでいる様にも見える。


 今まで盗賊として生きていたからなのか、まるで、他人の事なんか、一切信用していない目。


 そんな少女に、どう説明しようかと、考えていたその時だった。


 バチンッ!!!


 背後から、何かが大きく弾かれた様な音がし、私はハッとして振り返った。


 すると、竜巻を破壊したドラゴンが、両翼を広げながら、恐ろしい目で私を捉えていた。


「凛花、危ない!!」


 ノアが叫ぶと同時に、大きな炎の玉が、私と少女に迫ってきた。


「…………っ!!!」


 私は、咄嗟に少女を護るように抱きしめ、目を固く瞑った。


 ドオオオオオオオオオンッ!!!


 けたたましい爆音と共に、私は、身を焦がすような熱風に包まれた。


 

 


 


 


 


 




 

 


 


 

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