第108話 黒き大鎌 (ライラ・凛花視点)

【ライラ視点】


 凛花とアリシアが、しっかりと援護してくれると信じて、目を閉じながら、心を込めて歌う。


 ラビーの弱点はないのか、そう考えていた時に、ふと、思い出したことがあったわ。


 それは、魔女の里での戦いの時に、ラビーが蓮桜の意識の中に干渉して、邪魔してきたという、あのにっくき事件の事よ!!

 

 もう!今でもあの時の事を思い出すと、頭の中がグツグツと怒りのスープで煮えたぎってくるわ!よくも、私の蓮桜の意識に、土足で踏み込んでくれたわね!!


 ──ハッ!いけない、いけない。怒りで曲調が変わり始めるところだったわ。ふ〜、危ない危ない。


 ……それで、あの時に、私が歌を歌った事で、蓮桜の中から、ラビーを追い払うことが出来たわ。


 あの後、蓮桜から聞いたのだけれど、ラビーを追い払う時に、

『福音の神器……、未知数で本当に厄介。』


『持ち主の心により、強弱が異なる神器……。心の力なんて、ずっと存在しないと思っていたのに……。私には心なんて、理解できない。』


 と、仰っていたみたいだわ。


 つまり、心を失い、心について理解出来ないラビーにとっては、心のパワーが一番弱点なのでは!?


 そして、上手くいけば、ラビーの壊れた心に、影響するかもしれないわ!


 そう思いながら、ラビーの心に響く様にと、さらに集中する。



【凛花視点】


 

 辺り一帯に、ライラの歌声が響き渡っていく。


 その歌声は、温かな朝日を浴びた、清らかな森を連想させ、心の芯から、じんわりと温まっていく感じがした。


「……福音の神器……。」


 空中に浮かぶラビーは、一瞬だけ眉をピクッと動かすと、右手をライラへと向け、無数の黒いマナの弾丸を連射させた。


 ライラは、目を閉じ、歌に集中しているから、当然気が付いていない。


 私は、ハッとすると、ライラの足元に、地の矢を放ち、咄嗟に岩の壁を創り上げて、ライラの身を守った。


「さっさと降りてきなさいよ!」


 アリーシャは、まだ両足に残る、風のマナの力を借り、天高く跳躍すると、落雷の如き刃を、ラビーへと振り下ろすも、黒い結界に阻まれてしまった。


「──チッ!」


 アリーシャも負けじと、押し切ろうとするも、やっぱり弾き返されてしまい、舌打ちをしながら、フワリと地面に降り立った。


「……そんなに降りて欲しいなら、降りてきてあげる。」


 ラビーが、アリーシャに向かって、そう言った瞬間、突然フッと姿を消してしまった!


「ッ!?どこへ────」


 と、アリーシャは言い掛けて、ハッとすると、背後を振り返る。


 その目と鼻の先には──、黒いマナの球が込められた右掌があった。


「ッ!アリーシャ!!」


 私は咄嗟に走り出し、間一髪のところで、アリーシャを横に押し倒せた。


 しかし────。


「うっ……!」


「凛花!!」

『凛花さん!!』


 私の背中は、黒いマナの球によって掠ってしまった。

 掠っただけだというのに、傷口が火傷の様に、ジリジリと痛む。


「凛花!平気!?」


 それでも私は、アリーシャに頷き、ラビーをキッと見据える。


「……その目。私には、それが理解できない。でも、何故かしら。


 ──壊してしまいたくなる。」


 ラビーは、表情一つ動かさずに、低い声でそう告げると、右の掌を、こちらへと突き出し、マナを込めた。


 何か魔法を放つのかと、身構えたけれど、そうではなかった。


 掌を中心に込められたマナは、漆黒に輝く大鎌へと変形し、ラビーの掌に収まった。


「……全部、刈り取る。生温いマナも、腑抜けた魂も、その眼も。」


 ラビーの藤紫色の双眸が、魔が潜んでいるかの様に、暗く沈んでいくのを感じ、ゾッとした。


 それでも、私とアリーシャは、より一層身を引き締めて、身構えた。

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