第19話 凛花とアリーシャ
私は、お風呂を嫌がる少女を、無理矢理連れて行き、髪を綺麗に洗おうとした。
最初は、かなり暴れたけど、しばらくして疲れたのか、ようやく観念し、ムスッとした表情で髪をゴシゴシ洗われた。
霞んでいた橙色の髪が、段々と夕焼けの様に綺麗な明るい髪になり、ふわっとリンスの良い香りが漂ってきた。
タオルで髪を優しく拭き上げ、鏡の前で座らせると、私はドライヤーと櫛を用意しながら、少女に尋ねた。
「そういえば、あなた、名前は?私は凛花。」
少女は、鏡越しで面倒くさそうに私を見上げながら、口を開いた。
「…………アリーシャ。」
「アリーシャ!可愛い名前だね!」
そう笑顔で言いながら、ドライヤーをコンセントに挿すと、不機嫌だったアリーシャは、途端にキョトンとした表情になりながら、ドライヤーを見つめた。
「何よ、それ。」
「これはね、ドライヤーって言って、私の世界では、これで髪を乾かすの。ほら、こうやって。」
スイッチを、カチッと一回押すと、温風が発生し、アリーシャは、子供らしく、興味津々な目でドライヤーを見つめている。
しかし、すぐにハッと我に返り、わざとらしく咳払いすると、訝しげに私を見つめてきた。
「…………私の世界?どういうことよ。」
ゆうに似ているからなのか、この子には言っても良いかなと思った私は、髪を乾かしながら、今までの経緯を全てアリーシャに話した。
アリーシャは、当然信じられないという顔をしている。
「はあ!?別の世界から来て、しかも帰る為に、アルマを探している?何言ってんのよ。そもそも、アルマは、特別な鍵が必要だって、前に本で読んだ事があるわ。んなもの持ってるわけ……。」
アリーシャは、私が懐から取り出した鍵を見て、ピタッと固まる。そして、一瞬で目ん玉が飛び出そうな程驚いた。
「こここここれ!鍵じゃん!え!本物!?」
「本物だよ。この前、エアル様にマナを注いでもらったの。」
「エアル様って、あの四大精霊の!?」
アリーシャは、鍵を手に取ると、まじまじと穴があくほど見つめる。
「……今まで色んな宝石を盗んだ事もあったけど、確かに、見た事がない材質だし、感じたことのないオーラを放っているわ。このオーラは、マナなのかしら?やっぱり、本物?」
盗みは良くないが、やはり盗賊だけあって、アリーシャが宝石の分析が出来る事に、私は感心した。
鍵を返してもらった後は、しばらく髪を乾かすことに集中した。
心地よい温風に当てられ、櫛で頭皮を優しく刺激されているアリーシャは、少し目がとろんとしてきた。
「…………こんな風に、髪をとかしてもらったの、久しぶりかも……。」
「……え?」
「……ねえ。どうして、私を助けてくれたの?」
不意に、そう尋ねてきたアリーシャは、鏡越しに、じっと私の目を見つめている。
「……目の前で、危険な目に遭っている人を助けるのは、当たり前の事だと思うよ。」
「自分も、危険な目に遭うかもしれないのに?」
「……確かにね。でも、咄嗟に体が動いちゃって。……それにね、あなた、似ているんだよね、私の妹に。だからなのか、余計に放っておけなかったの。」
「妹?」
「うん。血は繋がっていないんだけどね。ゆうって言って、顔とか、怒った時の雰囲気とか、アリーシャにそっくりなの。いつも『凛花お姉ちゃん』って言って、ついてきて……。」
話している内に、ふと、ゆうの事を思い出し、私は俯いてしまった。
アリーシャは、そんな私の気持ちに察したのか、「そうなんだ。」と、少し憐れんだ目で、私を見つめた。
そして、しばらくの沈黙の後、アリーシャが再び口を開いた。
「また、会えるといいね。」
その声に顔を上げ、鏡越しにアリーシャを見ると、初めて優しい笑顔を見せてくれた。
笑うと、益々ゆうに似ていて、一瞬ゆうが笑ったのかと、思ってしまった。
「……ありがとう、アリーシャ。」
アリーシャの笑顔を見て、懐かしく思いながら、私も笑みを返し、お礼を言った。
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