第5話 一方、その頃……。(蓮桜視点)
この場は、子供の賑やかな声で溢れている。照りつける太陽の下、元気に駆け回る子供や、室内で絵を描いたり、人形遊びをする子供など、各々、活き活きとしている。
その様子を眺めていると、自然と心が穏やかになってくる。子供というのは、不思議な生き物だ。
そういえば、妹の美桜や、ライラックにも、あんな時期はあったな──いや、お嬢は、昔も今も、そんなに変わらないか。
と、子供達を眺めている内に、昔と変わらない、お嬢の笑顔を思い出し、自然と顔が緩んでしまった。
「……へえ〜、蓮桜が笑っている。案外、子供好きなのね!」
すると、アリーシャが、隣にやって来て、子供達とオレを交互に見ながらニヤニヤしていた。
「……まあ、子供は嫌いではないな。」
「へえ〜、ちょっと意外かも。…………で、わざわざ、孤児院にまでやって来て、何の用なの?ライラは一緒じゃないの?」
「……実は、ライラックが居ないところで、お前に聞きたい事があるんだ。」
そう。オレは、1ヶ月近く、探し物をしているのだが、中々、良い物が見つからない為、ドランヘルツの孤児院にいる、アリーシャを尋ねてきたのだ。
「ライラ抜きで、私に聞きたい事?」
「ああ。ライラックに────、くしゅっ!!」
オレは話している途中で、突然の悪寒に襲われ、クシャミをしてしまった。
「あれ?風邪でも引いたの?」
「……いや。風邪ではないが、最近、やたら悪寒を感じるんだ。」
さらに考えてみれば、屋敷を出た後からだと思うが……、偶然か?
そう考えていた矢先、突然、子供達が笑顔になりながら、同じ方向へと駆けて行った。
辿り着く先には──、
「みんな、おやつですよーー!」
山盛りのクッキーが乗った皿を、両手それぞれと、頭の上に乗せながら器用に運び込む、ロキがいた。
「わーい!ロキお兄ちゃんのクッキーだ!」
「オレもーらい!」
「あー!一人だけズルい!」
その時、つまみ食いしようと伸ばした男の子の手が、アリーシャによって払い除けられた。
「ちょっと!まずは手を洗ってきなさい!」
「それと、みんなで席に着いてから、食べましょうね?」
アリーシャが、仁王立ちで睨みながら厳しく、ロキが苦笑しながら、やんわりと注意した。
「「「はーい。」」」
「……ちえっ。ロキお兄ちゃんは、ともかく、何でアリーシャにまで怒られなきゃいけないんだよ。」
「何ですって!?それと、アリーシャお姉ちゃんと呼びなさいって言ってるでしょ!」
「げっ!逃げろーーーー!!」
子供達は、アリーシャのゲンコツを見て、半ば逃げる様にして、手を洗いに行ってしまった。
「……大変だな。」
「まあね。……でも、やっぱり子供は、可愛いものね。」
「アリーシャさんも、みんなと歳が変わらないのに、立派に親の役目を果たしてくれているので、助かっています。」
「そ、そうかしら?」
アリーシャは、ロキに感謝されて、照れ臭そうにしながらも、少し嬉しそうな顔をしている。
そういえば、旅をしていた頃よりも、さらに活き活きとしている様に感じる。
やはり、好きな人と共に過ごす事は、一番、幸せな事なのかもしれないな。
二人を眺めながら、そう考えている内に、ライラックの顔が思い浮かんできた。
それで、ここに来た理由を思い出し、再びアリーシャに向かって、口を開いた。
「……アリーシャ。話の続きだが……。」
「あ!そ、そうよね!さっき、何か言いかけていたよね?」
「珍しいですね。蓮桜が、アリーシャさんに聞きたい事があるなんて。」
「……実は、宝石を探しているんだ。」
「「蓮桜が、宝石!?」」
すると、二人とも、息を合わせて驚きながら、オレの顔を見てきた。
オレが宝石探しをしているのが、そんなに意外なのだろうか?
「……ああ。ライラックに似合う、宝石を探している。元盗賊のアリーシャなら、宝石に詳しいと思って、聞きに来たんだ。」
そう説明を付け加えると、今度は二人とも、同時にハッとすると、ニヤけた顔で拍手してきた。
……やはり、仲が良いな、この二人は。
「あの鈍感な蓮桜が、とうとう、恋心について理解したんですね!」
「……ロキも鈍感だけどね。」
「はい?」
「何でもないわよ!……そうねー、ライラに似合う宝石か……。」
アリーシャは、しばらく腕を組んで唸った後、パッと笑顔になった。
「そうだわ!フレリアなんて良いんじゃない?燃える恋心の様に、真っ赤な宝石で、宝石言葉は“永久不滅の愛”よ!ライラにどハマりな宝石よ!」
……なるほど、赤か……。確かに、ライラックの翡翠色の瞳に、よく似合うかもしれないな……。
そう考えたオレは、頷いた。
「……それにしよう。どこにあるんだ?」
「確か、アースベルから北にある、洞窟だった気がする。母さんも、昔、一度だけしか見た事がないぐらいに、希少な宝石だったって、言ってた気がする。」
希少な宝石か……。早く向かわねばな。
「……そうか。感謝する。今すぐに、そこへ……ッ!!?」
礼を述べながら、立ちあがろうとした、その時、再び強い悪寒に襲われ、全身が強く震えてしまった。
「ど、どうしたんですか、蓮桜!」
「くっ……!オレだって、訳が分からない!今まで一度も、風邪を引かせた事などないのに!」
「…………もしかして、ライラに何かしたんじゃないの?」
「……何故、ここでライラックの名が出る。そもそも、1ヶ月以上、会ってなどいないから、何もしていないのだが……?」
「「……は?」」
すると突然、二人の声色が低くなり、さらに鋭い目つきをし、オレを睨みつけてきた。
「……な、何だ?」
「……まさか、あんた、1ヶ月も宝石探して、ライラの事を放ったらかしにしてたの!?」
「……はあ。少しは成長したのかと思いましたが、やはり、相変わらずでしたね。」
二人とも、呆れた様にため息を吐くと、オレを、すぐ目の前にある外の庭へと、押しやった。
「……おい。何をする。」
「良い!?さっさとフレリアを取ってきて、さっさとプロポーズするのよ!」
「そして、1ヶ月間、共に過ごせなかった分──いや、その倍、ライラさんを労って下さい!!」
二人とも、そう叱ると、ピシャリと窓を閉め、カーテンまで閉めやがった。
「…………何なんだ、一体……。」
……もしかしたら、オレがまた、デリカシーがない行動をしていたのか?
……だとしたら、二人の言う通り、一刻も早く、フレリアを取りにいって、ライラックの元に帰ってやらねばいけないのか。
「……オレも、まだまだだと言うことか。」
そう、独りごちると、孤児院に背を向けて、闇の神器を身につけている右手を翳した。
すると、目の前に、人一人分の大きさの、闇の空間が、ポッカリと現れた。
この空間を通れば、知っている土地に、一瞬で移動が可能だ。
アリーシャが言っていた洞窟は、アースベルより北の方角だから、とりあえず、その辺りまで移動しよう。
「……ライラック、すまないが、もう少しだけ、待ってくれ。」
ライラックは、今、どんな顔をして、オレを待っているのだろうか。……アリーシャや、ロキの様に、呆れてしまっているのではないのか。
そう、不安を胸に抱きつつ、オレは闇の中へと足を踏み入れた。
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