第6話 愛の化身と、ダレカの声

「……う……ん?」


 目を覚ましたばかりで、まだ、ぼんやりとしている視界全体には、桃色が映し出されていた。


「……あれ?……私……、夢でも見ているのかしら……?何だか、目の前がピンクですわ……?」

 

 しばらくして、頭と視界がハッキリしてくると、視界に映るソレが、桃色の空である事を思い出し、ハッとした。


 ……そうだわ。確か私は、ピンクの世界に迷い込んで、その先で、フレリアを見つけて……。


 ……そこから先は、全く思い出せないわ。


「……ん?あれ?」


 とりあえず、起きあがろうとしたのだけれど、何故か、全身に力が入らない。


「……え!?い、一体どうなっているの!?どうして動けないの!?」


「──あら〜、もうお目覚めなのねん?」


 聞き覚えのある声に、ハッとし、目だけを動かしてみると、少し離れた位置に、彼奴がいた!


 ハートのタトゥーを入れたツルッパゲ!

 ムキムキの筋肉!

 そして、タンクトップに、純白のミニスカート!


 間違いないわ!!


「あ、あなたは!アレクシア!?」


 彼奴──変態オカマのアレクシアは、以前、私が倒したはず。まさか、こんな変な世界に、身を潜めていたなんて……。


 けれど、次の瞬間に開かれた、アレクシアの口からは、予想外の発言が繰り出された。


「ノンノンノン!アタシは、かつてのアレクシアじゃないのよん!“愛の化身”として、生まれ変わったのよん!!」


「………………はい?愛の……何と?」


「“愛の化身”よ!アタシは〜、愛の神に選ばれた存在なのよん!!」


 ………………しばらく見ない内に、頭がイカれてしまったのかしら?


 そう思い、ポカンとしながら見つめていたけど、彼奴は、お構いなしに話を続けた。


「まさか、侵入者が貴女だったとはね〜、ちょっと驚いたけど、好都合かもね〜。」


「ど、どういうことですの!?」


「この愛の世界を大きくするのには、アタシの力だけでは不十分なのよん!だ・か・ら〜、」


 彼奴は、そこまで言い掛けると、私へと、人差し指をたおやかに指し示すと、ニヤリと笑った。


「愛の大バトルで、アタシに勝利した貴女から、愛の力を吸い取って、この世界を維持する為のエネルギーへと変換させるわよ!!」


 次の瞬間、疑問の声をあげる間もなく、私を中心とした周りの地面が、ピンクの輝きを放った。


「────ッ!!?」


 そして、瞬く間に、気力を吸い取られていく感覚に陥った!


 ──ヤバい!謳わなきゃ!


 強い危機感を感じ、咄嗟に歌声を奏でようとするも、福音の神器が、いつもの様に光り輝かない!


 焦って、上手く集中出来ていないのかもと、思ったけれど、それだけではないみたいだわ。


「無駄よん!アタシの創ったこの世界では、マナの力は封じられるのよん!!」


 クネックネッと、体を捻らせ、愉快げに私を見下ろしながら、彼奴はそう告げた。


「────ッ……。」


 なす術もなく、段々と視界がボヤけてきて、何も感じなくなってきた。


 ──私は……、誰?


 ──ここで、何をしていたのかしら……?


 ────確か、誰かの為に……、何かをしようとして……。


 ──────ダレを?


 やがて、思考が止まり、意識が薄れゆく中、最後に聞こえたのは……、


「─────!!!」


の声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る