第27話 灼熱地獄
暑い……!今なら、石窯の中のピザの気持ちが分かる気がするよ。
額から滝の様に流れ落ちる汗を拭い、負けじと黒炎の巨人を睨みつけた。全身を覆う炎が、この部屋全体を灼熱地獄と化している。
「あいつの炎、何とか消せないか?」
拳専門のノアも、炎のせいで攻撃出来ない。水魔法が使えれば楽なんだけど、残念ながら使えない。風で吹き飛ばせるかな?
「……やってみる。」
私は、強い風の矢を、巨人の足元に撃ち込み、巨人を竜巻の中に閉じ込めた。
巨人は狼狽え、みるみる内に全身の炎が消え去っていった。
「よし!ナイスだ、凛花!」
ノアが、炎の鎧を剥がされた巨人にジャンプし、白魂の拳で、鳩尾を思いっきり殴った。
巨人は、大きな血反吐を吐きながら、くの字に折れ曲がる。
『や、やったのです?』
しかし、弓矢に変化したルナが、ホッとしたのも束の間だった。
巨人は、傾きかけた身体を踏ん張らせると、耳を塞ぎたくなる程の、轟音の様な雄叫びを上げる。
すると、全身の炎が再燃し、ノアの拳は炎で包まれてしまった!
「ノア!!」
「あっっっち!!」
ノアは、拳をブンブン振って炎を消しながら、地面に着地したが、拳はかなり焼けただれてしまっている。
早く治さなきゃと、急いでノアに治癒魔法をかけようとするが、ノアは手で制した。
「……へ、平気だ。まだやれる。それより、もう一度、火を消してくれ!」
ノアは、先程よりも強い白魂を、全身に纏わせ、構えながら、私に強い視線を向けている。
私は、迷ったけど、ノアの揺るぎない真っ赤な瞳を見て、やがて決意した。
「……分かった。でも、お願いだから、無茶はしないでね。」
「おう!」
私は、再び風の矢を、巨人の足元に放った。
……が、それと同時に、巨人は大きく口を開かせ、太く長い炎を吐き、風の矢を焼き払ってしまった。さらにその炎は、私達に迫ってこようとしている。
「なっ……!」
「危ねえ!!」
ノアが、私を抱きかかえ、炎を避けた。
炎が当たった床は、石造りにも関わらず、真っ黒に焼け焦げている。それを見て、背筋がゾッとした。
グオオオオオオオオオオオッ!!!
巨人は、再び雄叫びを上げると、今度は両手を床に叩きつけ、その下にめり込ませた。
すると、床が揺れながら、ゴゴゴゴゴ……と震音を出し始める。何が起ころうとしているの?
ノアは、ハッと何かを察知すると、私を抱えたまま、後ろにジャンプした。
その直後、ノアが立っていた床から、巨大な黒い火柱が噴き上がり、天井まで伸びた。
「っ!まだ来る!」
ノアは、そう叫ぶと、再びジャンプし、あちこちから噴射する火柱を、次々と避けていく。
しばらくすると、火柱は収まったけど、天井に燃え広がったせいで、今度は部屋全体に黒い火の雨が降り注いできた。
「熱い!!」
『や、焼けてしまうですの!!』
全身のあちこちに当たり、水膨れに腫れ上がっていく。熱い!痛い!
「くっ……!」
すると、ノアが前屈みになり、私とルナを火の雨から守ろうとする。
「ノア!!」
『ノアさん!!』
ノアは、苦痛で顔を歪めながらも、その場から動かずに、必死に耐え続けている。こんな火の雨、いくらノアでもヤバいのに……!
やがて火の雨が収まると、ノアはうつ伏せに倒れ込んでしまった。
「ノア!!!」
ひどい……!背中全体の皮膚が焼けただれて、肉が丸見えになってしまっている!早く、治さないと!
私は、急いで背中に治癒魔法をかける。目を閉じているノアは、苦しそうだ。お願い、早く治って……!
「……も、もう……、限界、ですの……。」
すると、ルナが、いつの間にか元の姿に戻っており、舌を出しながら、倒れてしまった。
「ル、ルナ……?どうし…………、た…………。」
ルナに呼び掛けようとした私も、視界が、ぐにゃりと歪み、気がつくと床の上で倒れてしまった。
巨人が繰り出した炎のせいで、この部屋の気温が、さらに上昇していたみたいだ。起きあがろうとするも、頭がボーッとし、身体も上手く動かせない。
そんな中、地を揺るがす様な巨大な足音が、段々とこちらに近づいてくる。
「ノ、ノ…………ア……!」
振り絞る声で、目の前で倒れているノアに、呼び掛けるけど、ノアは相変わらず目を閉じたままで、ピクリとも動かない。
再度口を開きかけた、その時、私達を巨大な影が覆う。
目だけを動かして上を見ると、そこには巨人の燃える足があり、段々と私達に狭まってきている。
「…………っ!!!」
ヤバい、潰される!!!
しかし、恐怖で目を瞑り、灼熱の炎が迫ってくるのを、肌で感じるしかなかった。
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